【特集】問題解決力を育てる高2の「起業家教育」プログラム…昭和学院 – 読売新聞

【特集】問題解決力を育てる高2の「起業家教育」プログラム…昭和学院-–-読売新聞 花のつくりとはたらき

 昭和学院中学校・高等学校(千葉県市川市)は今年度、6年一貫の体系的なプログラムによる探究学習をスタートさせた。多くのプログラムの中で、目を引くのが高2で実施する「起業家教育」だ。中小企業庁のサポートを得て、専門職大学教授にマーケティング手法を学び、企業からの課題に応えるなかで、創造性や問題解決力などのアントレプレナーシップ(起業家精神)を身に付けるという。学校を訪れてその授業を見てきた。

「自己」「他者」「社会」をテーマに6年間の探究

「自己」「他者」「社会」をテーマとする探究学習について説明する中山先生
「自己」「他者」「社会」をテーマとする探究学習について説明する中山先生

 「本校の探究学習は、ESD(持続可能な開発のための教育)の考え方に基づき、『自己を知る』『他者を知る』『社会を知る』ことを大きなテーマに設定しています。まずは自分自身のことや興味のあることを探究し、次にその対象を他者に広げ、最後に社会へつなげていく。このサイクルを6年間で2周します」。探究学習の統括担当である中山諒一郎先生は、同校の探究学習の特徴をこう説明する。

 中1では、自分史を作成するなど、自己理解のためのワークを行う。中2では仕事について学びながら、社会に関心を向けていき、中3では社会課題の解決に取り組む。高1で再び、自己を見つめ直すワークを実施し、高2では社会と関連付けた「起業家教育」、高3では集大成として自由研究に取り組む。

 6年間のさまざまなプログラムの中でも、目を引く取り組みとなっているのが高2で行う「起業家教育」だ。その目的について中山先生は、「私たちが捉えている『起業家教育』とは、起業家を育成するための教育ではなく、創造性やチャレンジ精神、自分で道を切り開く力、そのために必要な問題解決力など、アントレプレナーシップを養うことです」と話す。

 同校は「起業家教育」を始めるにあたり、中小企業庁が推進している「起業家教育プログラム」に応募し、実施校として認定を受けている。今年度、同庁のサポートを得ながら取り組んでいるのは、オンラインの英会話スクールを運営する「QQ English(QQE)」が提示する経営課題の解決だ。高2生たちは、「情報経営イノベーション専門職大学(iU)」の協力を得て、経営課題の分析方法などを学びながらこの課題にチャレンジしている。

大学教授に経営課題の分析手法を学ぶ

川上准教授によるオンライン講義で、経営課題の分析手法について学ぶ
川上准教授によるオンライン講義で、経営課題の分析手法について学ぶ

 「起業家教育」プログラムの中で、QQEから提示された経営課題は、「QQEをSNSでバズらせるには?」「Kids向けオンライン英会話商品を開発しよう!」「QQEがフィリピンのSDGs(持続可能な開発目標)課題を解決するには?」という三つだ。

 「最初の二つは、実際にQQEが抱えている課題です。特にキッズ向けオンライン英会話は、日本ではほとんど事業例がないので、商品開発ができたら面白いですね。最後は、QQEの教師がフィリピン人であることを踏まえ、ビジネスよりも社会課題に興味がある生徒を想定して作りました」と中山先生は話す。

 このプログラムは、隔週2時間続きの「総合的な探究の時間」を使い、全高2生が一斉に取り組む。最初はキックオフイベントとして、ビジネスの疑似体験や業界調査、QQEの本部長による講演などを開催した。その後、生徒たちは4人ほどのチームに分かれ、三つの課題から自分たちの課題を選択した。さらに経営課題の分析手法について学ぶため9月29日、iUの川上慎市郎准教授から講義を受けることになった。

 この日の川上准教授の講義は、「新製品・新サービスを考える」というテーマで、各教室のスクリーンにZoomでオンライン配信された。当初は対面での講義を予定していたが、緊急事態宣言が延長されたため、オンラインに変更したという。

 まず、新規事業開発の基本的な考え方を理解させるために川上准教授は、「ダイエット効果のある栄養食品を作る」という架空の事業を想定し、そのプランを説明した。次いで、「この事業をどう思うか、問題点はないか」と質問を投げかけた。数人の生徒から出された意見を、オンラインで集約して共有したあと、川上准教授は「事業創造の最大ポイントは顧客ニーズ。『誰かにとってうれしい』ものであることが、一番大切です」と語った。

各自のタブレット端末で「カスタマージャーニー」を制作する生徒たち
各自のタブレット端末で「カスタマージャーニー」を制作する生徒たち

 次に、顧客ニーズを知るために、顧客が商品・サービスを購入するまでの行動や思考、感情の過程をグラフ化する「カスタマージャーニー」の作成方法を学習した。生徒たちは、SNSで何かを発信したいと思っている人などを顧客と想定して、各自タブレット端末に、「カスタマージャーニー」を制作した。

 このほか、顧客の抱える課題を抽出し、その原因を考えるワークとして、コンビニのレジ袋問題を取り上げ、有料化されてもなお、一定数の人がレジ袋を買い続ける原因を、「Why分析」という手法で洗い出すなどした。

 今後、川上准教授による講義をもう1日受けたあと、各チームは課題の解決策についてのプレゼンテーションの準備に入り、来年1月末に開かれる「探究フェスティバル」で最終発表を行う。優秀な提案者は、QQEのインターンとして採用する計画もあるという。

ワクワク感のある起業家教育や中高混合ゼミも

 高2の
御園生(みそのう)
珠喜さんは、「プログラムでは、外部の人から話を聞くのが新鮮で面白く、一つの問題でも人によって見方や分析の仕方が違うことを知りました」と話す。「最初は、何で高校生が『起業家教育』を受けるのだろうと不思議でしたが、今は社会人になった時に、自分から問題解決をする必要性や、他と違う考えでも、自分の意見を言うことで、より良いものを作っていけることが分かってきました」

 中山先生も、「プログラムの最大の狙いは、問題解決力を養うこと」と話す。「社会に出て生かされる力であるのはもちろん、問題解決の手法は、教科の学びにもつながります。理科の仮説を立て、検証、修正して、また仮説を立てるという学び方もそうですね。また、日常の勉強において、ある教科の成績が上がらない場合、何が原因なのかを分析し、真因を特定して、対策を取るといった活用もできます」

 今後の「起業家教育」について中山先生は、「ワクワク感を取り入れたい」と言う。「今年度のプログラムは、実際のビジネスに触れる貴重な体験ができましたが、少し難度が高かったかもしれません。生徒たちがもっと、『探究って面白い』と感じられる内容にしていこうと考えています」。来年度は、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドの関係者と新しいプロジェクトを計画しているそうだ。

 同校は再来年度を目標に、探究学習の「中高混合ゼミ」も企画しているという。「各教員が自分の好きな分野のゼミを開講し、中高生は関心のあるものを受講する。縦の関係性ができるのも良いですね。そして探究学習を通じて、自分から他者、社会へと意識を広げ、同時に探究から教科、教科から社会へと学びをつなげ、社会の問題をまた探究するという往還を作っていきたいと考えています」

 (文:北野知美 写真:中学受験サポート)

 昭和学院中学校・高等学校について、さらに詳しく知りたい方は
こちら

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