AI型教材で基礎学力を定着、教員は探究的な学びの時間に集中する環境を(Impress Watch) – Yahoo!ニュース – Yahoo!ニュース

花のつくりとはたらき

GIGAスクール構想で小中学校での1人1台デバイスの整備が整った自治体では、ハードの問題は一気に解決され、既にフェーズは「どのように活用するか?」というソフト面に移行している。ソフト面では授業や学校生活のコミュニケーションツールとしていかに活用するかということと同時に、デジタル教材にも注目が集まる。

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そうした中、AI型教材「Qubena(キュビナ)」を提供する株式会社COMPASSは、2021年9月28日にセミナーを開催。世田谷区の実践事例を取り上げ、学校でのリアルな活用イメージを共有した。

■ AI型教材「Qubena」とは?

「Qubena」はウェブブラウザから利用できる学習教材で、小学校1年生から中学3年生までの5教科(算数・数学、英語、国語、理科、社会)に対応している。画面上で回答できるドリル型の教材で、選択や文字のタイピングでの回答だけでなく、タッチペンや指による手書きの文字入力や作図にも対応する。

いわゆる人工知能(AI)の技術によって支えられているのは出題パターン。個人のつまずいたポイントを判定して適切な問題が出題される。例えば、Aという問題を間違えたらBという問題に誘導する、とルートが決まっているのではなく、学習者の解答時間や解説ヒントの閲覧時間、解答プロセス、学習履歴等を見てAIが最適な問題に導く。また、漢字や英単語、理科や社会の用語など暗記的な要素を含む問題では、忘れそうになったタイミングで適切な復習問題を出題する。

株式会社COMPASSの後藤氏は、Qubenaは基礎学力の定着をサポートする教材であることを示し、「先生の授業がQubenaに置き換わるわけではありません」と強調する。教員には、得た知識を社会で生かす力や、正解のない問題を対話を通して思考する力などの育成に注力して欲しいということだ。

なお、生徒全員の学習状況をリアルタイムで把握したり、収録問題からオリジナルの問題集を作成、配信したりできるなど、教員をサポートする管理機能も充実させている。

■ 世田谷区は全小中学校にQubenaを導入

世田谷区は小学校61校、中学校29校の大規模行政区で、約5万人の児童・生徒が学んでいる。GIGAスクール構想に伴う1人1台端末の整備では、小中学校にiPadを導入した。通信はWi-Fiを採用し、家庭への持ち帰りも行なっている。

ICTの活用により、区の教育ビジョン「キャリア・未来デザイン教育」の大きな柱である「探究的な学び・協働的な学び」、「個別最適化された学び」の推進を目指している。Qubenaは「個別最適化された学び」の手段のひとつとして、2021年4月より区内全小中学校90校の小学3年生~中学3年生で導入された。教員が主役だった従来の学びから、「子どもが学びの主役になるための文房具」としてICTを活用し、学びの変革に取り組んでいるところだ。

世田谷区教育委員会教育指導課指導主事の高橋恵一氏は、Qubena選定の理由を、5教科すべてそろっていること、AIによる分析で出題が個別最適化されることなどの意見が選定委員からあり、選定の参考としたと明かした。ワーキンググループやアプリ選定委員会を通じて複数の教材アプリを丁寧に検討したが、「同じような問題がでるのではなく、ひとりひとりの理解度に応じて問題が変わっていくソフトは唯一だった」という。

■ 効率的な知識習得で年間約35時間の創出をめざす

Qubenaの活用実態については、世田谷区立深沢中学校の事例が紹介された。佐野晴子校長は、同校の生徒の学力は区の平均を上回る平均値を示すものの、「個々の特性の凹凸が学力的にも非常に影響しており、きめ細かい個別な対応が本校の最大課題」と話す。

Qubena導入のねらいは、「ずばり、生徒にも教員にもメリットになりプラスになるということ」と佐野校長。授業で活用すると、生徒ひとりひとりの特性や学習進度に応じた指導がしやすく、かつ、教員の授業の事前事後の作業時間が飛躍的に削減され、教員の働き方改革にもつながっている。

今年9月の2学期スタート時には、新型コロナ対策で分散登校が行なわれたが、その際も授業配信と共にQubenaを活用することで教員の負担軽減となり、登校時には実技教科を優先させられるなど優先順位をつけることができたということだ。

また、Qubenaの得意とする「知識・技能」の習得を効率化して得られる時間を、佐野校長は年間約35時間と試算。ここで得られた時間で、「思考判断表現を深める探究的な学び」に取り組むねらいだ。

■ 各教科での活用方法とその効果

同校 研究主任の深沢享史主任教諭はQubenaの活用について、教科の特性を踏まえて、各教科ごとに使いどころを次のように決めて実践していると話す。

例として数学科での具体的な使い方を見ていこう。まず、授業の導入で使う場合は、前の時間の復習としてQubenaで問題を配信する。効率よく知識の定着ができる上、教員はプリント教材の準備が不要となり負担が減った。

授業展開で使う場合は、20~30分の問題演習にQubenaを使用する。紙の教材に比べてQubenaは生徒個々の習熟度に応じた演習ができるため、演習中の個別指導がしやすくなったという。また、協働学習でQubenaを使用すると、ヒントや解説を参照しながら教え合えいが進むということだ。

授業のまとめでは、教員が長く説明する代わりにQubenaで適切な問題を出せば、限られた時間で生徒の理解度を確認できる。

全体として知識の定着が効率化できたことで、一次関数の学習では、指導書で19時間の指導計画を14時間で終えることができたという。確保できた5時間は、数学科としてより深い学びを実現するための学習にあてられた。

教務主任の佐藤哲主任教諭は社会科での活用方法を紹介した。授業の導入で前時までの授業内容をQubenaで出題し、クラス全体や個別の理解度をリアルタイムで把握している。管理機能で正答率や回答時間を確認することで、今復習が必要かどうかを即座に判断できるということだ。

これまでは、基本用語や基礎知識がどれだけ定着しているかを判断するには、小テスト、単元テスト、定期考査の実施と、授業中の生徒の反応が頼りだった。テストは授業で学んでからのタイムラグが大きく、生徒の反応は教員の勘で不確実だ。Qubenaは知識の定着度をすぐに判断できるので授業が進めやすくなったという。

■ 生徒の学習意欲が上がり、粘り強くなった

Qubenaの導入は、単にドリルのデジタル化というわけではなく、個別最適のいわば自走式の学習ツールともいえるわけだが、この新たな学習方法の導入で、生徒たちにどのような変化があったのだろうか。

深沢教諭は、「苦手意識のある生徒も意欲的に学習に参加できるようになったと感じています。苦手な問題も、解説ヒント機能を活用し粘り強く学習に取り組むことができています」と話す。

教員にとっても、説明中心の授業スタイルが変化するきっかけとなり、生徒の理解度を確認しながら、個別指導が必要な生徒への指導時間を確保できるようになったということだ。

参加者との質疑応答の中で、生徒の受け止め方に話が及んだ。深沢教諭によると、Qubenaを使う時点で生徒のモチベーションは上がっていて、ゲーム感覚で授業に参加してくれるという。物珍しさが薄れて飽きることのないよう、授業でQubenaを使う場面を日によって変えるなどの工夫をしているということだ。

この事例を見ると、デジタル教材の導入は、単に紙をデジタルに置き換えるという狭い範囲の話ではないことがわかるだろう。生徒が学ぶ手法や学びやすさそのものが変化し、教員の教え方や教える時間の使い方が大きく変化している。こうして学びのスタイルを少しずつでも変化させていくことが、ICT活用にはセットで必要だということを改めて感じさせられる。

そもそもたった1人の教員が40人近い生徒に個別最適な学びの環境を用意するというのがどれだけ困難なことかを想像してみれば、こうしたデジタルツールはむしろ必須だといえる。AIは決して万能ではないが、AIの助けを借りることは突破口のひとつだろう。AIの力を利用しつつも、考える力を育む場をデザインし、生徒を見つめサポートするのは変わらず教員の大切な役割。適所での活用と学びの姿のアップデートが同時に広がることを期待したい。

Watch Headline,狩野さやか

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