児童全員を中学受験にチャレンジさせる私立小学校として近年、人気を集めるのが川崎市にある洗足学園小学校だ。幼稚園から中学・高校(女子校)、さらに音楽大学・大学院も併設する一貫教育の学校ながら毎年、多くの卒業生を首都圏の難関私立中などに送り込む。子どもたちをどんな人間に育て、そのためにいかなる教育を行っているのか。吉田英也校長に聞いた。
【表はこちら】洗足小卒業生が進む開成・筑駒・桜蔭などは東大合格上位校だ
洗足学園は1924年(大正13年)、創立者の前田若尾が東京・品川で開設した私塾が前身。その2年後、目黒区洗足に移転して洗足高等女学校と命名し、女子教育の場としてスタートした。川崎市にキャンパスを移転したのは46年(昭和21年)で、その3年後に共学の小学校が誕生した。
洗足学園の建学の精神「謙虚・奉仕・犠牲・愛」には、敬虔(けいけん)なクリスチャンだった創立者の思いが多分にこもる。建学の精神に基づき、「『社会のリーダー』の礎を築く学校」をモットーに掲げ、全員が中学受験にチャレンジする小学校であることを特徴と打ち出したのが吉田校長だ。
東京の小学生、4人に1人は中学受験
「洗足学園小は誕生当初から実は、中学受験を前提にしていたのです。併設する中学・高校は女子校のため、男子は中学から外に出ざるを得なかったからです。経済的にゆとりがある家庭の子が多かったせいか、男子はみな私立の中高一貫校などに進学し、それに女子児童も刺激された環境がもともとありました」。ただ、それを前面に打ち出さずにやってきたのには、それなりのワケがあった。
当時はまだ公立の学校が全盛の時代。受験といえば高校や大学が一般的で、中学受験はごく一部の子どもに限られたものだった。「ガリ勉」「詰め込み」とネガティブなイメージもつきまとったからだろう。吉田校長はこう分析する。
だが今、時代は変わった。少子化で小学生が減っているにもかかわらず、中学受験者数は増加しており、東京に限って言えば、小学生の「4人に1人」が中学受験をするというデータもある。ならば中学受験を前提として打ち出し、その目標に向かって皆で頑張る子どもたちを学校もサポートする方が、今の時代のニーズに合致するのではないか。そんな校長としての読みがあった。
社会のリーダーと中学受験がどう関連するのか。その疑問に対する吉田校長の答えは明確だ。「幅広く深い知識や思考力、発想力だったり、多面的な見方や考え方、粘り強く努力する姿勢だったり。そんな資質が社会のリーダーには求められると思っていますが、それらを磨いていく上で、中学受験のための勉強が役に立つから」という。
吉田校長は慶応大学法学部を卒業後、社会科教諭として洗足学園中学高等学校に就職した。学年主任や教科主任、入試広報委員長などを歴任後、2009年に洗足学園小へ異動。副校長を1年務めた後、校長となり、現在に至る。福島県内で中学の教師だった父親の背中を見て育った家庭環境も教師を目指した理由の1つになっている。
洗足学園の中高勤務時代には入試問題の研究などにも従事。その関係で難関私立中などの問題を分析する機会が多かった。各校の入試問題を読み解く中で分かったことは単なる知識の詰め込みではなく、データを読み込ませ、考え方を問うなどよく練られた問題が多く、その傾向が今どんどん広がりつつあるという。「課題を見いだし、一つ一つ解決していく能力などは、まさに現代社会で求められているものだ」と吉田校長は指摘する。
物事にはとかくプラスとマイナスの側面があり、中学受験でもそれは当てはまる。それでもプラスの側面をしっかりと捉えた方が、むしろ次世代のリーダーを育成する上でも欠かせない礎になるという結論に至った。
中学受験を前提にした小学校6年間のカリキュラムは綿密だ。1年生の3学期からスタートする「日記漢字」もその1つ。日記と漢字の練習をセットにしたもので、毎日続け、翌朝に学校に提出するのが日課で、卒業まで続く。中学受験には家庭学習の習慣が大事といい、そのために日記漢字がある。
【関連記事】
Powered by the Echo RSS Plugin by CodeRevolution.