【特集】中2・3合同ゼミの「挑戦」で新たな自分に「変化」する…青稜 – 読売新聞

【特集】中2・3合同ゼミの「挑戦」で新たな自分に「変化」する…青稜-–-読売新聞 花のつくりとはたらき

 青稜中学校・高等学校(東京都品川区)は昨年度から、中2、中3の正規授業として週1回2時間の「ゼミ」を開講している。テーマは教科の学習に限らず、教員自らの趣味・関心領域から広く設定され、生徒も自分の関心に合わせて選択できる。主体的に取り組むゼミの経験は、生徒の積極性や行動力を高め、学校全体にも好影響を与えているという。今年度開かれた14講座の中から、特色ある3講座の様子を紹介する。

関心に合わせて自由に選べる14のゼミ

「ゼミで新たな挑戦をして変化のきっかけをつかんでほしい」と話す募集広報部長の伊東教諭
「ゼミで新たな挑戦をして変化のきっかけをつかんでほしい」と話す募集広報部長の伊東教諭

 「本校はChallenge(挑戦)、Change(変化)、Contribution(社会貢献)の『3C』を行動目標としています。ゼミはその第一歩であり、何か新たな挑戦をして変化のきっかけをつかんでほしいと考えました」。募集広報部長の伊東充教諭は、同校がゼミを開講した理由をこう語る。

 ゼミは、毎週月曜の6、7時間目に総合的な学習の時間とは別枠の時間を取って、中2、中3合同で行われる。「新たな挑戦」を奨励する考えから、2年続けて同じゼミを選択できないルールとし、テーマや担当教員も毎年改めて募集している。

 各ゼミの担当教員は、中高の全教員から自薦、他薦を問わず立候補を募り、職員会議で決定する。教員の専門教科だけでなく、個人的な趣味や関心事も含めてテーマを決めるため、授業内容も個性的なものとなる。「ゼミ企画のプレゼンでは、制限時間を超えて思いの丈を語る教員もいます」と伊東教諭は話す。昨年度に続き今年度も14講座が開講された。テーマは教科の発展的な内容やSDGs、プログラミングといった現代的な関心事、美術や文学、スポーツなどさまざまだ。

 ゼミに対する生徒の意欲も非常に高いという。「多彩な内容のゼミを自分の興味に合わせて選べることに加え、2学年合同で普段顔を合わせない生徒同士がゼミ仲間になることも刺激になっているのでしょう。午後の授業は疲れも出て眠くなりがちですが、ゼミでは生徒の目の輝きが増しているのが分かります」

社会貢献を考えながら自由な取り組み

「バナナアート」に取り組む生徒たち
「バナナアート」に取り組む生徒たち

 青田
泰明(やすひろ)
校長自らが企画したゼミもある。この「2030ミライへの挑戦」というゼミでは、企業のSDGs担当者に話を聞き、生徒自身ができる貢献について考えている。取材に訪れた10月4日は、大手日用品メーカーの花王からSDGs活動推進部の井上紀子さんを招き、「つくる責任、つかう責任」と題して商品の生産、流通、消費に伴うゴミや環境の問題を考えた。

 理科担当の山田紋教諭は昨年に続き「変態学~メタモルフォーゼへの誘い」というゼミを開講した。タイトルには「新しい自分に変わる」という意味が込められており、理科を軸として数学や福祉学、社会学などを織り交ぜて、生徒の発想力を伸ばす取り組みをしている。今年の内容はつまようじなどを使ってバナナに点描する「バナナアート」と、「パズオル」という折り紙パズルだ。このほか、学校近隣の福祉施設と連携してパンの商品開発に取り組んだり、教諭の出身大学や南極昭和基地の研究者とオンラインで結んだりと、多彩な内容だ。

森山教諭のゼミで、テーマ決めのためホワイトボードを囲んで話し合う生徒たち
森山教諭のゼミで、テーマ決めのためホワイトボードを囲んで話し合う生徒たち

 社会科の森山岳美教諭が開いたゼミ「Social Change~私たちにできること」では、教育支援業の「教育と探求社」によるプログラム「クエストエデュケーション」に挑戦している。3、4人のチームで社会問題に着目したテーマを設定し、解決法やアクションプランを考える。年末にはゼミ内で代表チームを決め、年明けに開催される全国大会「クエストカップ」に出場する。

 森山教諭は授業方針について、「社会問題というとテーマが大きく、人ごとになってしまいがちですから、自分ごととして考えるために、まず『自分が笑顔にしたい人を想定する』ことから始めました。あとは基本的に生徒の討論に任せています」と説明する。

 取材日はチーム討論の3回目で、テーマ決めの段階だった。チームごとに小型のホワイトボードを囲んで話し合い、キーワードを付箋せんに書いて貼ったり、図に描いたりして検討作業を進める。森山教諭は全体の様子を見ながら、「話がずれて雑談にならないようリーダーはコントロールしてね」などと声をかけ、作業を見守る。やがて中間発表となり、「SNSでのいじめ」「ヤングケアラー」「水質汚染」などのテーマが並んだが、やや抽象的だったため「身近な人を考えて、もう少し絞り込もう」と森山教諭からアドバイスがあった。

探究学習の全国大会でゼミ受講者がプレゼン

「社会問題を自分ごとと考える」というゼミの授業方針を話す森山教諭
「社会問題を自分ごとと考える」というゼミの授業方針を話す森山教諭

 森山教諭は昨年度も同じゼミを開講しており、受講者4人組のチーム「4kaす(フォーカス)」が昨年度の「クエストカップ」で「難病患者に対する差別・偏見をなくす」をテーマにプレゼンテーションを行った。

 その時のメンバーでリーダー役を務めた古川りのさん(現中3)は、テーマの設定や議論の進行を担当した。「前から社会問題に関心があり、特に差別が気になっていた」と言う。難病患者に対する差別にテーマを絞り、ゼミで議論を進めるうち、「差別の背景にある『自分との間に一線を引く感覚』を変えたい」という考えに至った。そこで、SNSに意見広告動画を投稿するとともに、YouTubeの「投げ銭機能(スーパーチャット)」を活用して資金を募り、患者の支援や広報活動に充てるアクションプランをまとめた。

 同じくメンバーだった中溝風雅君(現高1)は、「それまであまり関心のあるテーマではなく『難病患者は自分にとって遠い存在だな』と意識したので、考えを切り替え、難病のバイオリニストの新聞記事を読んで当事者の気持ちを想像することを考えのよりどころにしました」と話す。「議論の時は停滞しないように、次々とアイデアを出すことを心がけました。いいアイデアが出るとテンションが上がり、前へ進む力になりました」

 大会は今年2月23日にオンラインで行われ、チームは教室からプレゼンテーションを行った。古川さんは「他校から拍手や『いいね』のメッセージをもらって手応えを感じた」と言う。「大会を経験したことで、他の地方にも似た問題があると分かりました。いろんな人から考えが聞けたのもよかった」。中溝君は「街で難病の人を見ると、どんな態度をとるべきか考えるようになりました。答えはまだ出ていませんが、今後も考えていきたい」と話した。

 ゼミのスタートから1年半の経過を見てきた伊東教諭は、ゼミの経験が生徒の積極性や行動力を高め、学校全体にも好影響を与えていると感じている。

 「昨年度はコロナ禍により文化祭と体育祭が中止となりましたが、『多人数との接触を避けられる単学年で体育祭をやりたい』という申し出が中3から上がり、校長もその積極性を認めて6月に実施されました。それを見て、高2生も学年限定の文化祭実施へと動き、この10月に開催されました」

 また、昨年SDGsゼミに参加した中3生が、休眠状態にあった部活動の「JRC(青少年赤十字)部」を、「SDGs部」として再編し、活動を始めたそうだ。

 「『まずは先生が学びを楽しむ姿を見せよう』という思いで始めましたが、生徒たちのこうした行動につながってきたことは、ある意味で成功です。クエストエデュケーション全国大会の例など、何らかのゴールがあった方がモチベーションにつながるかもしれません。そうした観点も踏まえて、ゼミ活動のさらなる発展を目指したい」と、伊東教諭は今後の展望を語った。

 (文:上田大朗 写真:中学受験サポート 一部写真提供:青稜中学校・高等学校)

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