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中谷医工計測技術振興財団※(以下、中谷財団)は、全国の小学校、中学校、高等学校などにおける科学教育振興を目的とした取り組みに対する助成事業を、平成26(2014)年度より実施してきました。授業だけではなく、部活やクラブ・サークル活動などを含めた先生と子どもたちの科学を軸とした活動を支援しています。さらに、理科好きの子どもを増やすため、意欲的な取り組みを行っている小学校の先生方を支援する事業も行っています。
これらは、将来を担う子どもたちの論理的思考力や創造性を育み成長させることが、科学技術の発展はもとより我が国の発展に寄与する、という考え方のもとで行われている事業です。
ここでは、令和3(2021)年度に助成を受けた学校の活動事例を紹介します。
地域の課題を解決する自然科学部の研究活動
青森県立弘前中央高等学校
SDGsの開発目標を基盤とした「身近な課題から国際貢献へのつながりを見据える」科学部の活動に向けて
春には桜、秋には菊と紅葉に彩られる弘前城に隣接する青森県立弘前中央高等学校は、1900年創立の伝統校だ。同校の自然科学部ではいくつかのグループに分かれて複数の研究をしているが、そこには共通の研究方針がある。SDGs(持続可能な開発目標)を意識したうえで、身近な題材を研究テーマに据えて社会貢献の可能性を探る、という方針だ。
たとえば、青森県の特産品であるリンゴは、たびたび台風による落果被害に見舞われてきた。そこで、リンゴの廃棄量を減らすための新たな利用法を探るべく、リンゴに含まれるペクチンに着目。ペクチンのキレート効果(ミネラル分などを摂取しやすくなる効果)を立証して、機能性飲料としての応用例を提案する研究を行った。
SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」につながるこの研究では、2020年の青森県高等学校総合文化祭(総文祭)自然科学部門で最優秀賞を獲得し、“文化部の甲子園”ともいわれる全国総文祭「紀の国わかやま総文2021」に出場している。
同じく2年生の嘉手苅日向大さんは「授業ではできない本格的な実験ができておもしろかったです」と感想を聞かせてくれた。
一方、学校で大量に発生する廃チョークの金属イオン吸着効果に着目した研究では、化学の実験授業で発生する廃液などの廃棄物減量を目指している。これも、SDGsの目標12や目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」につながる研究テーマだ。
粉末廃チョークの焼成時間や温度によって金属イオンの吸着効果は変わる。実験を重ねて最適な焼成時間と温度を探っている2年生の中居佑太さんは「県の特産品であるホタテの貝殻も、チョークと成分が同じなので、将来的にはそれを使って河川の浄化などに役立てられないかと考えています」と先を見据えていた。
理科専科の教員が町内の複数校を担当する新たな理科教育の取り組み
南関町立南関第三小学校
複数校兼務型における理科専科指導の在り方
~オンラインを併用したハイブリッド型理科授業の研究~
熊本県の北西部に位置する南関町立南関第三小学校(旧・玉名北高等小学校)は、金栗四三が往復12kmの道のりを通学した母校として知られる。そんな「日本マラソンの父」が走った山間の道を、現在、南関第三小の近藤祐樹教諭は理科の実験器具を載せた自動車で走っている。町内に4つある小学校の高学年(5・6年生)の理科授業を、専科教員として一手に担っているのだ。
この複数校兼務型授業では各学校の教員の負担軽減効果も期待できるが、第一の目的は子どもたちに質の高い理科授業を提供することにある。
新学習指導要領で提唱されている「主体的・対話的で深い学び」を実現するため、観察や実験の方法を自分たちで考えるなど、子どもたちの科学的な資質や能力を育む取り組みを重視。理科免許を持つ近藤教諭に白羽の矢が立てられ、毎週火曜日と木曜日には南関第一および第四小学校で、月・金には第二・第三小学校で高学年の理科授業を行うことになった。
英語では導入例も多い複数校兼務型授業だが、理科での取り組みは全国的にもめずらしく、熊本県では南関町のみが行っている。そんな先駆的・実験的な取り組みゆえに課題は多いが、可能性も広がる。
たとえば、動植物の成長や天気の変化などの単元は45分間の授業内では結果を得られない。そこで、子どもたちには各個にタブレットPCで記録した動植物や雲の動きなどの写真・動画を送信させているが、近藤教諭は「他校の子が撮影した画像を共有して参考にすることもあります」と、学校横断的な情報共有の可能性を示唆する。
子どもたちは水溶液の見た目や臭い、リトマス試験紙や加熱反応など、教わった判別方法を自分たちで組み合わせながら答えを探す。授業を受けた南関第三小6年の子どもたちは「自分で考えて答えを探していくのがとてもおもしろいです」と口を揃えていた。
さらに近藤教諭は「私は中学校の免許も持っているので、将来的には小学校からのつながりをもたせた中学校の理科授業などもやってみたいです」と話す。自らの教え子と同様、考えをめぐらせて答えを探し出す実験的な取り組みに、大きなおもしろさを感じているようだった。
募集要項
現在、中谷財団では令和4(2022)年度助成の募集を行っています。応募の締め切りは令和3(2021)年12月10日。
【応募方法】
中谷財団のホームページにて募集要項を確認のうえ、ウェブシステムよりお申込みください。
ご応募の前に、必ずホームページ内のQ&Aをご覧ください。
具体的な助成事業は以下の3種類です。
●「プログラム助成(最大100万円×2年間)」
広く科学教育を振興するため、小学校、中学校、高等学校などの複数校の児童・生徒が主体的に共同で行う2年間の活動が対象
●「個別助成(最大30万円×1年間)」
小、中、高校などにおける児童・生徒の科学に対する関心を高めようとする授業やクラブ活動などが対象
●「意欲的な小学校の先生方を支援するプログラム助成(最大100万円×3年間)」
子どもたちの理科の力を向上させるための指導法の改善や学習法の開発などに取り組む意欲的な小学校の先生方、または先生方を支援する機関の3年間の活動が対象
※中谷医工計測技術振興財団
ヘマトロジー(血球計数分野)や血液凝固分野などで世界ナンバー1シェアを有する医療機器メーカー「シスメックス株式会社」創立者の故・中谷太郎氏が昭和59(1984)年に私財を投じて設立。医工計測技術分野の発展を願い、技術開発に顕著な業績をあげた研究者への「中谷賞」の贈呈をはじめ、各種研究助成、若手研究者支援や国際交流事業を展開。さらに、人材育成のすそ野拡大のため、科学教育振興活動などに対して幅広い助成事業を行っています。
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