小中高等学校および特別支援学校の教育現場にICT環境を整備し、児童・生徒の学習活動の充実を図って、より深い学びを得られるような授業の改善を目指す政府の取り組み「GIGAスクール構想」が提唱されてから約2年が経過した。
小中学校などにおいて1人1台の端末を整備し、高等学校も含めて通信ネットワークを整備するという、教育現場への本格的なデジタル導入に注目が集まったこの構想は、進捗が不安視されていた時期はあったものの、コロナ禍でも学びを止めたくない学校や自治体等の教育関係者の尽力により、現在ではほとんどの地域で当初の計画通り整備が完了している。
文部科学省 大臣官房文部科学戦略官(併)デジタル庁参事官 初等教育局学校デジタル化プロジェクトチームリーダーの板倉寛氏
この陣頭指揮をとる初等中等教育局情報教育・外国語教育課長だったのが文部科学省の板倉寛氏。10月に組織改編が行われ、初等中等教育局学校デジタル化プロジェクトのチームリーダーなどの立場にある同氏に、GIGAスクール構想がそもそもなぜスタートし、どのような成果が得られたのかを振り返ってもらうとともに、現在進めている活動について聞いた。
デジタル端末を学習に使わず「エンタメ」で使う日本
——1人1台にデジタル端末を配るということで注目を浴びたGIGAスクール構想ですが、その発足にはどのような背景があったのでしょうか。
まだ現在進行形のところもありますが、日本のこれまでの学校教育は非常にアナログでした。それに対して、毎年実施されている「国際学力調査」、なかでも「PISA」と呼ばれる「OECD生徒の学習到達度調査」は、日本では高校1年生の年齢の人を対象に義務教育修了段階の学習到達度を測る調査ですが、その方法が2018年に大きく変わったことが、1つ背景としてあります。
PISAは「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」「読解力」の3つを測る調査で、最新調査ではなかでも特に読解力の調査が変わりました。まず、正答率によって問題自体が簡単になったり難しくなったりと、全員が同じ内容の問題を解くのではなく、その人がどれくらいできるかで問題のレベルが変わるようになりました。
また、調査方法がデジタル化されました。2015年にはすでにデジタル化されていましたが、紙の資料を単にデジタルデータ化したものを使うだけで、内容は従来の紙のテストと同じだったのです。しかし2018年からは、課題文がオンライン上の投稿や電子メール、フォーラムなどを利用したものになり、それらを読んで回答する形になった。ある意味インターネット世界での読解そのものが問題になったのです。
人によって違う問題を解くことになり、その問題自体も画面をクリックしたり、スクロールしたり、ドラッグ&ドロップしたり、キーボードをタイプしたり、といったような操作をしながら読んで回答しなければならない。しかも、PISAは以前から自由記述形式の問題が提出されるのが特徴です。日本の一般的なテストだと答えが1つですが、PISAの場合は答えはAでもBでもよくて、それよりもそういう答えに至った理由をしっかりと書けているかが大事だったりもします。
従来のPISAの特徴にオンライン的な要素が重なって、日本の生徒から見ると戸惑いも大きかったのかなと思うのですが、2018年の調査結果では日本の読解力の順位が落ち込みました。
画面上のタブをクリックして課題文を切り替えながら必要な情報を探し出したり、オンライン上のいろいろな人が書いた文章は必ずしも全てが正しいわけではないので信憑性を疑いながら読んだり、といったことが重要になってきます。そのうえで自分の考えを他者に伝わるように根拠を示して説明することも求められる。
これからの時代は言語能力も情報活用能力も必要となってきています。文章を読めるのは当たり前で、さらにコンピューターを操作できないと解けません。デジタル化によって日本ではそういった部分での課題があることが浮き彫りになりました。
——まさに今後の社会で求められる知識や応用力が求められるようなテスト内容になっているわけですね。
もう1つ、PISAの別の質問調査では、1週間のうち学校の授業でデジタル端末を利用する時間が、OECD加盟37カ国のなかで国語・数学・理科3教科全てにおいて、日本が最下位になったことも大きいですね。まさにPISAの読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーに関係している全ての教科で最低だった。2015年もその傾向はありましたが、2018年で他国との差がさらに開いてしまいました。
世界各国でデジタル端末を授業で使う時間が増えてきているのに日本は全く増えていません。そして私個人的としてもすごく衝撃を受けたのが、学校外でのデジタル端末の利用状況です。平日に「ネット上でチャットをする」、つまりLINEなどのメッセージアプリでやりとりすると答えたのは、OECD平均より20ポイント多い87.4%、「1人用ゲームで遊ぶ」も同じく20ポイント以上多い47.7%で、いずれもOECD加盟国中1位でした。
反対に「コンピューターを使って宿題をする」は、20ポイント近く少ない3.0%でした。学校の授業で使う時間が最下位なのに、自宅で遊びに使う時間は1位なのです。日本の場合はデジタル機器を使っていないわけではないけれど、その用途がエンターテインメントに偏りすぎている、というのも非常に大きな問題だと感じました。
さらに2018年の「21世紀出生児縦断調査」では、17歳の高校2年生が1日にどれくらいスマートフォンを使用しているかを調査していて、「使っていない」のはたったの0.3~0.4%。平日は1日あたりの使用時間が1時間から4~5時間までがそれぞれ10~20%くらい、6時間以上が8.6%で、休日になると6時間以上が19.6%に拡大しています。
学習に使っているのであれば良いのですが、先ほどの質問調査から考えると、学習ではなくエンターテインメントに偏って使っているのだろうと考えられます。実際、休日に6時間以上スマートフォン等を使っている人の55.3%が全く勉強していないと回答しています。せっかくエンターテイメントでは使いこなせる素養はあるのに生かし切れていない、ということがわかります。これがGIGAスクール構想開始前の状況だったわけです。
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