山脇学園中学校・高等学校(東京都港区)は来年度、高校に「サイエンスコース」を新設する。同校はこれまで、本格的な実験機器をそろえた教育施設「サイエンスアイランド(SI)」を拠点として、中学を中心に理系の探究学習を強化してきた。今回の新コースは、中学で生徒が行ってきた探究を高校でも継続的に発展させて、総合型選抜などの大学入試にも対応できるようにしようという狙いがある。西川史子校長らに新コースの構想を聞いた。
中高通した研究実績を生かして総合型選抜の合格へ
同校は、中1と中2で「サイエンティストの時間」というオリジナルの必修授業を実施している。大学並みの実験機器をそろえたSIを拠点に、基礎的な機器操作の習得、考察力、表現力を磨く探究学習の入門編だ。中3になると、さらに探究学習を深めたい生徒向けに選択授業「科学研究チャレンジプログラム(科チャレ)」があり、ロボットグループ、パソコングループ、生物グループに分かれて自分たちの関心のあるテーマに取り組む。「科チャレ」は、毎年定員オーバーするほどの人気だ。2020年度から「探究サイエンス入試」も始まったことから、理系に興味関心を持つ生徒たちが着実に育ってきている。
高校進学後も研究活動を続けることはできたが、これまでは課外活動の扱いとなっていた。今回設置するサイエンスコースは、それを「総合的な探究の時間」の一環に組み入れ、さらに「科学英語」と「データサイエンス」のカリキュラムを加えた3本柱で、理系教育を強化しようというもの。
西川校長は「SIを活用した中学の理系教育を10年続けてきましたが、高校でそれにつながるクラスがありませんでした。これまでも、生徒がSI部に入部し、個人の志で研究を続けて、学会やコンクールに出場し、その実績を生かして総合型選抜で大学に合格することはありましたが、今後は学校として、総合型選抜の合格やその先につながる研究ができる環境にしていきます」と話す。
サイエンスコースで実験や研究の活動を行うのは、「総合的な探究の時間」での授業だ。一般的な高校の理科では物理、化学、生物だけで、地学を扱わないこともあるが、地学分野も目標の一つとしている点が特徴で、ファシリテーターとして大学教授や専門家らに監修してもらう計画だという。
探究・校外学習担当の大島悠希教諭は、「学内だけの学びでは広がりが少ないので、フィールドワークを多く実施する予定です。土曜日を使った校外学習で、三浦半島やJAXA(宇宙航空研究開発機構)などを訪れるほか、宿泊を伴う富士山研修や沖縄研修でフィールドワークを行います」と話す。このほか、放課後や長期休暇なども利用して生徒の研究を充実させていく予定だ。
「仮説を立てて実験をすると、必ず次の課題が出てきますから、研究を完成させるには約3年かかると考えています」と大島教諭は話す。中3の「科チャレ」で自分の興味ある実験研究に着手し、その結果をもとに高1で研究を改善、高2で完成させて学会や外部コンクールで発表する。高3の1学期にはその成果をまとめ、大学の総合型選抜の志望理由書の作成にもつなげていく。
研究活動が総合型選抜に直結している授業設計だが、一般入試にも十分対応できるカリキュラムになっているそうだ。
データサイエンスで研究を充実させる
「実は三者面談でコースの説明をしたところ、生徒や保護者が一番興味を持ったのが、データサイエンスでした」と鎗田謙一教頭は明かす。「今や文系・理系を問わず100以上の大学でデータサイエンスが必修科目となっています。本校は数年後には文系クラスでもデータサイエンスの授業を行う予定で、サイエンスコースは、そのパイロット的な位置付けです」
高1のデータサイエンスの授業では、エクセルを使って統計学を学ぶ。棒グラフや折れ線グラフだけでなく、ヒストグラムやクロス集計もマスターさせ、集めたデータから、実証的な考察を引き出すことができるようにしていく。
高2ではそうしたデータを分析するためにプログラミングも学ぶ。「MATLABというアプリケーションを使い、そのプログラミング言語で画像解析や音響解析ができるようにしていきます。これができると研究に非常に役立つのです」
例えば、今年度の日本水産学会秋季大会で優秀賞を受賞した、「カワリヌマエビ交雑種の色覚が導く行動」という生徒たちの研究では、水槽に沈めた解剖皿に2種類の色テープを貼り、カワリヌマエビがどちらの色に集まるかを定点カメラで撮影した。今後はその画像データを解析することによって、目視することなく結果を知ることができるという。
「さらに重要なのはIoT、デバイスの制御です」と鎗田教頭は話す。ラズベリーパイというマイクロコンピューターにつなげることで、センサーやアクチュエーターの制御ができるようになるという。生徒たちはその技術を使って、水中で土壌調査できるロボットを開発し、「西表島の生態系を調査するロボット」という研究にまとめた。これを2017年に韓国で行われたIEEEの学会でポスター発表して、銅賞を受賞している。
科学英語で自分の研究を世界へ発信
さらに「科学英語」への取り組みもサイエンスコースの大きな柱だ。英語の授業の1コマをこれに充てるという。SSH申請準備担当の梅川元一教諭は「高1で主に科学論文の読み方や書き方を学び、高2では英語でプレゼンやディスカッション、ポスタープレゼンを行います。高3では、自分の研究成果を英語論文にして書き上げます」と授業内容を説明する。
同校はケンブリッジ大学出版の英語教材を採用し、ケンブリッジ英語検定を取り入れているケンブリッジ・イングリッシュ・スクールに認定されており、ケンブリッジ大学出版が持つ多彩な英語論文を読むことができる。地球、宇宙、平和、SDGs(持続可能な開発目標)などに関する英文を読み込んで科学英語の力を付け、各種学会の世界大会などに向けて、自分の研究を英語で発表できるようにするという。
鎗田教頭は「SIができてから、理系は7クラス中、2クラスから3クラスに増えました。女子校では薬学や看護に進む生徒が多いのが一般的ですが、本校ではロボットやプログラミングに興味を持つ生徒が多く、工学系に毎年20~40人が進学しています。サイエンスコースを設置することで、女子の理系進出をさらに後押ししていきます」と話す。
西川校長は「本校の生徒は、素直で言われたことをきちんとやる生徒が多いです。それが地道な実験作業に結び付くのでしょう。カワリヌマエビの研究をした生徒たちは、専門家に厳しい意見を言われても、めげずに研究をやりぬいたことが、受賞に結び付きました。この生徒たちのように、自ら考えて行動し、チャレンジする生徒に育ってほしいと考えています」と生徒たちの今後に期待を寄せていた。
(文・写真:小山美香 一部写真提供:山脇学園中学校・高等学校)
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