教職員定数巡る予算攻防 教科担任制の新規要求が焦点 – 教育新聞

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 公立小中学校の教職員定数を巡る来年度予算編成の攻防が今年も本格化してきた。文科省は来年4月からの小学校高学年の教科担任制導入に合わせ、新規の加配定数として来年度に2000人、4年間で8800人の定数増を要求。これに対し、財務省は▽日本の小学校教員の年間授業時間数は、主要先進国の中では低水準▽小規模校の中学校教員は授業持ちコマ数が少なく、小中連携に活用できる▽小学校の担任間での授業交換や遠隔合同授業などによって教員の負担軽減につなげることができる--などと指摘して定数増の圧縮を図っている。40年ぶりの学級編制の見直しとなった小学校全学年の35人学級の実現が教職員定数に与える影響をおさらいした上で、年末に向けて焦点となってきた小学校高学年の教科担任制導入を巡る予算折衝の現状を探ってみたい。

(教育新聞編集委員 佐野領)

今年度の教職員定数は2000人増

 現在執行されている2021年度予算の教職員定数は、68万8000人(前年度68万6000人)。内訳は、義務標準法の規定により学級数などに応じて機械的に算定される基礎定数が63万8000人(同63万3000人)、政策目的に応じて配分される加配定数が5万人(同5万3000人)となっている。

 教職員定数は、児童生徒数の増減に合わせて増えたり減ったりする仕組みなので、少子化の進展とともにじわじわと減り続けてきたが、20年度に比べ、21年度は約2000人増えた。文科省初等中等教育局財務課によると、小学校全学年の35人学級を定めた義務標準法の改正で、小学2年生を35人学級とするための加配定数が基礎定数に移行されたことが主な要因となっている。

 35人学級に伴う基礎定数の改善は、今後5年間にわたって継続されることが、先に改正された義務標準法で定められている。基礎定数は2025年度までに1万3574人改善される計画で、このうち来年度予算の概算要求には3290人の改善が盛り込まれている。ただ、都道府県は国が算定した教職員定数の中で弾力的に教員を配置できるので、実際には国の算定を上回る教職員を配置する自治体もあれば、そうではない自治体もある。都道府県によっては期限を限って任用する臨時的採用教員や非常勤講師を積極的に活用するケースなどもあり、学校現場の実感は自治体の判断に左右されるところが大きい。

小学校高学年の担任教員 持ちコマ数5コマ減目指す

 基礎定数の改善が進む中、文科省は教員確保に向けた次の一手として、来年4月に本格スタートする小学校高学年の教科担任制に伴い、新たな加配定数を来年度予算の概算要求に盛り込んだ。25年度までの4年間で8800人の加配定数を改善する考えで、その1年目として来年度予算には2000人の改善を求めている。

 小学校高学年の教科担任制は、STEAM教育の重要性などを見据えた専門性の高い教科指導と、教員の持ちコマ数軽減など働き方改革の2つを目的に導入されるもので、外国語、理科、算数、体育の4教科を優先的に専科指導の対象とすることが文科省の検討会議で決まっている。これらの教科を専科指導するために、8800人の加配定数を確保できた場合、教員の負担はどのように変わるのか。

 16年度学校教員統計調査を元に、小学校教員1人当たりの平均担当授業時数を文科省が算定したところ、各学年1クラスの6学級校では週23.7コマ、各学年2クラスの12学級校では週24.6コマ、各学年3クラスの18学級校では週24.1コマだった。この担当授業時数は、8800人の加配によって「小学校5・6年生の担任教員の場合、持ちコマ数は5コマ程度減る」(初中局財務課)という計算になっている。

 ただ、専科指導を担当できる教員の確保が自治体によってはすぐには難しいことや、学校の規模によって教員の持ちコマ数に差があることなどから、文科省では「現実には、一気に教科担任制に移行することは難しい。自治体が計画的に専科指導ができる教員を確保できるように、段階的に加配定数を増やしていきたい」(同)と説明している。

 目標年度の25年度は年次進行で進む小学校全学年の35人学級化の最終年度に当たり、それと同じ年度に教科担任制に必要な加配定数の確保を終えることで、文科省では、小学校教員の体制整備に「25年度には一つの形をつけたい」(同)としている。こうした教科担任制に必要な教員の確保に見通しが付いた後には、義務標準法を改正して加配定数から基礎定数に振り替えていくことも選択肢としてにらんでいる。

財務省「新たな人材獲得なしでも実現できるのでは」

 小学校高学年の教科担任制導入に伴う加配定数の新規要求に対して、財務省は11月1日に行われた財政制度等審議会で、問題点を次々と指摘した。

主要先進国における教員の年間授業時間数(2020年)

 まず、「日本の小学校教員の年間授業時間数は、主要先進国の中では低水準」として、経済協力開発機構(OECD)が今年9月に世界各国の動きをまとめた報告書『図表でみる教育2021年版(Education at a Glance 2021)』のデータを挙げた=グラフ参照。それによると、教員の年間授業時数は、小学校の場合、日本の747時間に対して、米国1004時間、フランス900時間、英国855時間などとなっている。

 また、「中学校教員1人当たりの平均授業時数は週平均18コマに対して、小規模校(各学年1クラスの3学級校)は12コマと極端に少ない」と文科省が算定したデータを挙げ、「特に小規模校においては、中学校教員を活用すること(小中連携)により、教科担任制を導入できる可能性がある」と指摘。持ちコマ数の少ない中学校教員を活用するよう求めた。

 さらに、「教科担任制は年間授業時数の増を伴うものではない」として、「新たな人材獲得を行わなくても、担任間での授業交換や学校間連携、オンライン授業化の工夫(GIGAスクール構想の活用)により導入できる可能性がある。授業交換を実施することで、担当教科が減少し授業準備が効率化できるなど教員の負担軽減となる面もある」と指摘。文科省の検討会議で兵庫県が示した資料を取り上げながら、例えば、1学年3クラスの学校では、1人の教員が3クラス全てで特定の教科を指導し、それを教科の違う教員3人で組み合わせる授業交換によって、新たな専科教員がいなくても教科担任制を導入している事例を挙げた。

 いずれも、新たな専科教員を加配しなくても教科担任制を導入できるのではないか、と切り込んでいる。

末松文科相「進めなければならない重要テーマ」
財務省の指摘に反論する末松文科相

 こうした財務省の見解に対し、末松信介文科相は11月5日の閣議後会見で、「自分の思いも込めて申し上げたい。教育の質の向上を図っていく上で、また学校の働き方改革を進めていく上で、小学校高学年の教科担任制は進めなければならない、一つの重要なテーマだ」と切り出し、逐一反論してみせた=写真

 日本の教員の年間授業時間数が先進国でも低水準との見方には「休憩時間を算入するなど、算定方法に各国でばらつきがある。一概に日本が低水準であるとは言えない」とした上で、「諸外国の教員の業務は、主に教科指導に特化している。日本の教員の場合は、教科指導と生徒指導をやっている。風土が違うんじゃないかと考えている」と述べた。

 小規模校での小中連携や授業交換の活用によって、新たな専科教員がいなくても教科担任制が導入できるのではないかとの指摘については、「一部の学校においては、小規模校における小小連携、あるいは小中連携や義務教育学校化とか、学級担任間の授業交換を促すことなどで対応することも考えられるが、これには学校の規模とか、地理的にずいぶん離れているとか、いろいろな条件がある。文科省としては各地域や学校の実情に応じた取り組みが可能となるように、必要な教職員定数をしっかり確保していきたい」と、新たな加配定数の要求に理解を求めた。

 初中局財務課では、財務省の見解について「教員の持ちコマ数が少ない中学校の3学級校は、全体の17%しかない。小規模校での小中連携によって、教科担任制を導入できる学校は非常に限られるだろう。授業交換ができる学校も限られるし、もし進めたとしても、コマ数の削減にはならないので、教員の働き方改革にはほとんどつながらない」と、教科担任制の導入には加配定数の新たな確保が必要だという立場を崩していない。

 12月下旬の来年度予算案の閣議決定に向け、予算折衝はまだ始まったばかり。9月21日に就任した文科省の義本博司事務次官は、昨年、35人学級を巡る財務省との攻防で麻生太郎前財務相との大臣折衝までもつれこんだ萩生田光一前文科相の姿勢にふれながら、「現場に寄り添う文科省でなければならないし、ここ一番の政策で譲らない文科省であり続ける必要がある」と職員にあいさつした。教科担任制での加配定数の新規要求は、その真価が問われる展開となりそうだ。

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