現職と新顔の計3人が立候補し、14日に投開票される広島県知事選。県内の課題を現場から報告する。

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 瀬戸内海に浮かぶ大崎上島。港から10分ほど車を走らせると、緑豊かな風景の中に真新しい建物が見えてくる。広島県が2019年に開校した全寮制中高一貫校「広島叡智(えいち)学園」だ。

 10月中旬、学校を訪ねると、体育館から英語が聞こえてきた。中学2年の生徒がネイティブの教員から指示を受け、マット運動に取り組んでいた。英語科以外でもネイティブの教員による授業が行われ、高校1年の冬までに約5千時間の英語学習を取り入れる。

 別の教室では、中学1年の生徒が理科の実験の振り返りをしていた。実験テーマは「海水から真水を取り出すには」。四つのテーマから生徒自身が選び、手順も考えたという。静岡県出身の女子生徒は「『この通りにやりなさい』じゃなくて、『どうしたらできるかを考えなさい』と教わる。その自由さがおもしろい」。実験結果はタブレット端末を使ってリポートにまとめる。

 今春で開校から2年が経ち、中学の3学年がそろった。1学年の定員は40人で、県外出身者が3~4割を占める。来年度からは外国籍や海外の学校で学んだ経験をもつ生徒が加わり、高校がスタートする。福嶋一彦校長は「多様性がものすごくある学校。お互いに学び合い、生きるすべを自ら切り開く力を身につけてほしい」と話す。

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 県教育委員会は14年にまとめた「学びの変革」アクション・プランで、知識の積み上げから「主体的な学び」への転換を掲げた。その中で、国際的に活躍できる人材の育成をめざして設立されたのが広島叡智学園だ。

 約69億円をかけて校舎などが整備され、全校生徒が約80人だった20年度の運営費は約6億円に上った。「先見性のある取り組みだ」。県議会などから肯定的な声が聞かれる一方、教育現場からは「1校に対して莫大(ばくだい)なお金や人手をつぎ込むのは公教育としておかしい」などと疑問や批判の声も上がる。

 学校見学には、連日のように教員や自治体関係者が訪れる。先行して進める「学びの変革」を県内全体に波及させられるかどうか。福嶋校長は「まだ開校3年目。少しずつほかの学校にも浸透していくものがあるだろう」と話す。

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 先進的な教育が進められる一方、県内でも不登校の子どもは増え、学習機会の確保が課題になっている。

 文部科学省の調査によると、県内で年間30日以上登校しない「不登校」の子どもは、小中学校で18年度3512人、19年度3961人、20年度4434人で増え続けている。

 県教委は19年度から、教室や集団が苦手な子が個々のペースで学べるよう、校内に「スペシャルサポートルーム」の設置を始めた。教室とは異なる居場所で「校内フリースクール」とも呼ばれる。今年度は福山市や呉市など12市町の21校(6小学校、14中学校、1義務教育学校)に設置されている。

 一方、廿日市市でフリースクールを運営する横山はるみさん(51)は「学校そのものの雰囲気が苦手だという子どももいる。民間と学校側の双方の取り組みが必要だ」と指摘する。その上で、利用者から集める月謝や寄付でまかなうスクールの運営について「全然余裕はない」と話す。

 県と民間のフリースクールとの協力は道半ばだ。県教委は19年度、不登校の子どもを支援する民間団体について調査を実施。課題として「活動・運営資金の確保」を挙げた団体は70・5%に上ったが、運営経費や各家庭が支払う利用料への県の助成制度はない。鳥取県福岡県など全国では財政支援が行われているところもある。

 横山さんが9年前から運営するフリースクールには小中学生約15人が通い、農作業などをして日中を過ごす。新型コロナウイルスの感染拡大による一斉休校があった昨年春からは、相談や見学の問い合わせが一気に増えたという。「今まで何とか我慢してきた層が、休校をきっかけに学校以外の選択肢もあると気付いたのではないか」。横山さんはこう感じている。

 フリースクールに通いたくても、家庭の経済的な事情からあきらめてしまうケースもある。横山さんは「子どもたちが自分に合った選択をできるように、行政が後ろから支援してほしい」と訴える。(宮城奈々)