開口部が広くて明るく、開放的な中等部新校舎の教室。6階には理科の実験室がそろう。理科I(物理)の授業では、男女同数の4人チームで台車を使った「力学」の実験が行われていた
教科センター型を採用する中等教育の学校はまだ少ないものの、近年、いくつかの先行事例が見えてきた。2019年に新校舎が竣工した青山学院中等部もその一つだ。1965年竣工の2代目校舎は、公立校で一般的な「ハーモニカ形で廊下沿いに教室が並ぶ」設計だった。そこから、カタカナの「ロ」の字形に廊下を巡らせ、吹き抜けの中庭を配した3代目の新校舎に移行したことで自由闊達(かったつ)な校風が体現され、今後同校が目指す教育の内容もより良く見えるようになった。(ダイヤモンド社教育情報、撮影/熊谷 章)
上野亮(うえの・とおる)
青山学院中等部部長
1960年金沢生まれ。福岡で中学高校時代を過ごす。青山学院大学文学部教育学科卒業後、大学院に進学、在学中から青山学院高等部にて社会科の非常勤講師を務め、92年から中等部専任教諭。趣味は音楽、自らもトランペットを演奏し、吹奏楽部の指導に力を注いだ。2021年4月から現職。
光が駆け抜ける開放的な本校舎
(1)毎朝10時15分からの礼拝を行うほか、現在は音楽の授業でも活用されている礼拝堂 (2)廊下には聖書をテーマにした絵画も拡大画像表示
新型コロナ禍で学校での説明会が制限され、志望校の校舎を見学したことがない受験生や保護者も少なくない。各校とも工夫を凝らし、公式サイトでは動画も含めたさまざまな映像を提供しているが、百聞は一見にしかず。やはり、その場に身を置いてみることが学校を知る最良の方法だろう。
――中等部の校舎がすっかり変わり、驚きました。吹き抜けの中庭があり、窓も大きく、校内が大変明るいですね。
上野 中等部が新しい本校舎に移ったのは2017年、最終的にすべての校舎が完成したのが2019年です。1965年にできた2代目の前校舎は、一本の廊下沿いに南向きの教室が「ハーモニカ形」で並ぶスタイルでした。新校舎は、「ロ」の字の形状にすることで回遊できるようになりました。これを機に、それまでの46人・6クラス編成を、32人・8クラス編成に変えました。
――教室のサイズが以前よりコンパクトになりましたね。賛美歌が聞こえてきましたが。
上野 青山学院は、明治の初め、アメリカから来たキリスト教の宣教師が作った三つの学校をルーツとしています。その精神は今も引き継がれ、毎日2時限と3時限の間に15分間、礼拝を行っています。コロナ禍の現在、全校生徒が集まることができる礼拝堂での礼拝は行わず、各クラスに画像配信し、現在は密を避けるため音楽の授業をここで行っています。1日も早く以前のように、毎日全校生徒が集えるようにと願っています。
中等部の教科センター型の生活は、本来、毎朝各自のロッカーのあるホーム・ベース(HB)と呼ばれる部屋を併設したホームルーム教室に集まり、そこから1・2時限の教室に移動、授業を受けてホームベースに戻り礼拝に行き、3・4時限の授業後お昼休みになると再びホームルームに戻って昼食。5・6時限が終わったら最後にまたホームルームへ。2つの時限ごとに生徒は旅をして戻ってくるイメージです。
――それは新校舎の完成を機に中等部が採用した、教科センター型の授業で生徒が教室を移動するからですね。一般にはあまりなじみがありませんが、どのような点が従来と異なるのでしょう。
上野 アメリカのハイスクールを舞台とした学園ドラマで、授業が終わって休み時間になると、生徒たちが一斉に廊下に出てくるシーンをイメージしていただくとよいかもしれません。欧米型の校舎、あるいは講義ごとに移動する大学の授業に近いスタイルです。
また、一般の校舎の理科室や美術室ですと、実験用具やスケッチの画材にするような彫刻などさまざまな教材が置かれ、興味のある教材を見たりできますよね。教科センター型はそれがすべての教科にある、と考えていただければと思います。さらに生徒たちは、先輩たちの作品も含む、興味ある作品をいつでも見ることができます。学年やクラスを超えて、さまざまな生徒たちと交じり合い、刺激し合い、お互いを高め合うことができます。
ただ残念なことに、新型コロナ禍のため現在は感染防止の観点から教室間の移動を抑制しており、現状では教員が教室にやってくる、以前のようなホームルーム型の授業を行っています。22年の新入生が入ってくる頃にはなんとか再開できるといいのですが。
――教科センター型を採用するにあたって、参考にされた学校はありますか。
上野 最初に、すでに導入していたキリスト教主義でカトリックのカリタス女子中学高等学校を見学させていただきました。女子校ということもあるのか、また規模も違うからか、わが校より校舎をきれいに使用されている印象を受けました。
――男子校に比べれば共学校はまだきれいでしょう(笑)。他にはいかがでしたか。
上野 同じプロテスタント系共学校の京都の同志社中学校から最も多くのことを学ばせてもらいました。
――教科センター型ですと、各教科の教室を設けるため、より多くの教室が必要になる印象がありますが、その点はいかがでしょう。
上野 以前から特別教室のある理科、美術や音楽、技術・家庭科といった実技系科目以外については、ホームルームと教科の教室を併用することで、教科専用の教室を新たに設けた訳ではありません。例えば1年A組は国語1教室、F組は歴史1教室といった具合で、2・3年では英語や数学とも併用しています。
また、基本的にホワイトボードになりましたが、国語や数学などの教室は先生方のこだわりで黒板が採用されています。最初はどちらかに統一しようとしましたが、それぞれにこだわりがあるので、どちらでも選べるようにしました。
――クラスも六つ増えましたし、教員がより多く必要になりませんか。職員室には担任の先生と講師の先生がいらっしゃるようですが。
上野 専任教員の数はほぼ変わっていません。専任教員の机は教員室と教科準備室に、講師の先生方の席は教科準備室にあります。以前ですと、3年連続で担任を務めると1年間外れていたのですが、クラス数が増えたので担任をしない年が少なくなりました。ただ、1クラスが46人から32人に減ったので、担任の先生方はクラスの生徒1人1人に向き合える時間が増え、より細やかな対応ができるようになりました。教員側から見れば、より多くの教員が担任になることによって、教員みんなで生徒たちの成長を支えていこうという考えの表れとも言えます。…
ダイヤモンド社教育情報,森上教育研究所
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