【特集】従来の学びにICTの利点を生かしたハイブリッド教育…履正社 – 読売新聞

花のつくりとはたらき

 履正社学園豊中中学校・履正社高等学校(大阪府豊中市)は今年度、中1生に1人1台のタブレット端末を配布し、各教室に電子黒板を導入した。順次中学全体で1人1台の体制を整えるという。同校は、90年代からパソコンによるIT教育を続けており、その蓄積は新たにICT環境の中で生かされる見込みだ。始まったばかりのICT教育の現在とこれからの展望について取材した。

タブレット端末と電子黒板を中1から導入

「プラスの方向に学びを変えられる部分についてはどんどんICTを活用していきます」と話す小西教諭

 同校は今年度、タブレット端末と電子黒板を導入し、ICT環境の整備を本格化した。今年度入学の中1生は全員がタブレット端末を購入した。次年度からの入学生も同様に整備を進めて2年後には中学全学年で生徒1人1台の端末所持を実現する。また、電子黒板は2学期から全教室で使用を開始している。

 数学科の小西
正祥(まさよし)
教諭は、「文部科学省のGIGAスクール構想を受け、ICT環境の整備について校内で議論してきました。コロナ下で対面授業ができないという状況に直面したことが契機となり、ICT機器の導入を決定しました」と経緯を説明する。

 ICT機器の活用という面で、同校がまず取り組んだのは、教科書と問題集をタブレット上で見られるようにすることだった。同校は通常の授業以外に毎日、放課後進学講座を実施しており、生徒はその分多くの教科書・問題集を持参する必要があるが、タブレットで見られるようにしたため、生徒の登下校時の負担が大きく軽減されたという。

従来型の授業の良さも残すため、半分ずつ設置された電子黒板と通常の黒板

 もちろん、授業内でもICT機器のさまざまな活用が始まっている。小西教諭が中1の数学の授業でよく使うのは、生徒にタブレットから解答を送らせて電子黒板に映し出すという使い方だ。「こうすることで解答をクラス全体で簡単に共有できるようになりました。なかには間違った解答もありますが、その失敗から注意しなければならないポイントに気付くことができるし、他の生徒の考え方を知ったりすることもできます。ICTならではの有効性と感じています」

 国語や英語では本文を板書する手間が省ける分、授業が効率化され、社会や理科では電子黒板を使って画像や動画などの多様な資料を映し出せるようになったという。「本校では教員同士の風通しがよく、職員室でよく機器の活用が話題にのぼっています。教員間で情報共有し、各教科の特性を踏まえながら、試行錯誤してよりよい活用方法を探っていきたいと思っています」

90年代から実践してきた情報技術教育の蓄積

教科の特性を踏まえたタブレット端末の活用が進められている

 1人1台のタブレット端末と通信ネットワークを使ったICT教育はスタートしたばかりであるが、同校には早くから情報技術(IT)教育に取り組んできた歴史がある。90年代にはパソコンを導入し、クラス全員が1人1台のパソコンを使用できる環境を整え、技術の授業内でプログラミングを学習するなどの取り組みを行ってきた。

 中学では現在、技術の授業でマイクロソフトオフィスのさまざまなソフトウェアの活用法を学んでおり、他教科の授業や特別活動などの時間にもパソコンを使用する機会が設けられているという。

 例えば小西教諭は、数学の統計の授業で、エクセルを使ったグラフ作成を指導している。「基本的な使い方を教えた後は、生徒が自由にアレンジするための時間を設けています。すると、数学的な分析を深める生徒もいれば、グラフィックにこだわる生徒もいます。教科書の範囲を超えて、生徒の興味・関心が広がっていくように感じています」

 「6カ年特進コース」で中3時に行われる職場体験では、体験を通して学んだ事柄をまとめ、パワーポイントを使用してプレゼンテーションを行う。生徒たちはパソコンを使って、それぞれに工夫をこらしたプレゼンテーション資料を完成させているという。「自分で調べ、生徒同士で教え合って、自分なりのアレンジに挑戦しています。『タイトルにこだわりたいからワードアートの使い方が知りたい』などと、教員にもよく質問にきます。アニメーションの挿入や写真の見せ方に工夫するなど、それぞれのアイデアが発揮されています」

従来型の学びとICT双方の良さを生かす教育

パソコンソフトを活用してプレゼンテーションする生徒たち

 約30年かけて蓄積してきた、生徒の興味・関心を呼び起こすIT教育は、これからのICT教育に引き継がれ、新たな発展に向かう。今回新たに導入したタブレットにマイクロソフトのSurfaceを選択したのも、これまでの教育をスムーズに引き継ぎやすいという観点からだという。

 「本校のこれまでのIT教育は、パソコンを使いこなすことを目的としてきたのではありません。パソコンの活用は、目指す教育目標を達成するための手段なのです」と小西教諭は話す。「本校は、確かな学力を養うことを教育の柱としていますが、生徒の将来の可能性を広げることを目標とした取り組みも実施してきました。情報技術に関わる取り組みもその一環です。私自身本校の卒業生で、中学からパソコンに触れて基礎知識を学べたことから、その後のパソコンの活用技能が養えたのではないかと思っています。ですから、生徒にも積極的にパソコンを活用する機会を提供してきました。ICT機器の活用についても同様です」

 ICT機器の活用によって授業風景が変化していくことは間違いないが、同校は当面、これまでの授業方法のメリットを残しつつ、ICT教育を活用していく方向だ。「各教員が蓄積してきた授業のノウハウもあり、教員の個性も大切にしたい。ですから、教室も従来通りの板書が行えるよう、電子黒板と通常の黒板を半分ずつ設置する仕様にしました」と小西教諭は語る。「プラスの方向に学びを変えられる部分についてはどんどんICTを活用していきますが、従来型の学びにはタブレットでの学習で代えがたい部分があると考えています。例えば、数学で作図をする時、タブレット上で作図をすることもできますが、やはり自分でコンパスや定規を使って描いてみるという学習が必要でしょう」

 「ICTの活用も、本校がこれまで行ってきた教育の延長線上にあるものです。教員が目の前の生徒にしっかりと寄り添って指導し、確かな学力を定着させるという教育方針のもと、より良い教育を提供するために活用していきます」と小西教諭は語った。

 (文・写真:溝口葉子 一部写真提供:履正社学園豊中中学校・履正社高等学校)

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