後悔しないために知っておきたい 子宮頸がんを防ぐ「HPVワクチン」 | 大人から学び伝える 新しい性教育 | 高橋幸子 – 毎日新聞

後悔しないために知っておきたい-子宮頸がんを防ぐ「hpvワクチン」-|-大人から学び伝える-新しい性教育-|-高橋幸子-–-毎日新聞 基本問題

 性被害、望まない妊娠、ネットにあふれる性の情報--。改めて今、性教育の重要性が見直されています。新連載「大人から学び伝える 新しい性教育」では、年間120件の性教育講演を行う産婦人科医の高橋幸子さんが、子供の前にまず大人が学ぶべき性教育について伝えていきます。第1回は「HPVワクチン」についてです。

性教育って何ですか?

 趣味は性教育、特技は性教育、仕事は性教育の産婦人科医、高橋幸子です。「サッコ先生」と呼んでください。どうぞよろしくお願いします。

 皆さん、「性教育」と聞いて、何を思い浮かべますか?

 「赤ちゃんってどうやってできるの?」「月経、射精、性行為ってなに?」など、生殖に関わることを教えるものだと多くの人は思っているかもしれません。ただそれは、性教育のごく一部にすぎません。

 「性教育をしたい」。私はそんなちょっと変わった理由から産婦人科医になりました。ここ3年ほどの間に「性教育」という仕事は、「ちょっと変わった人」がする仕事から、「人権意識の高い人」がする仕事に格上げされたと思います。でも本当は昔から、性教育は人権教育でした。その人が、その人らしく生きる権利、それが人権です。

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)による性教育の指針「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000374167?fbclid=IwAR3M2Rdlc0G1EjLfYDUgo5UyexVF9oMavcZDDtpYoGsauNXmYm12yG8w-B8)では、八つのキーコンセプトが示されています。

(1)人間関係

(2)価値観、人権、文化、セクシュアリティ

(3)ジェンダーの理解

(4)暴力と安全確保

(5)健康とウェルビーイング(幸福)のためのスキル

(6)人間のからだと発達

(7)セクシュアリティと性的行動

(8)性と生殖に関する健康

――の8項目です。

 日本では、小4で月経・射精、小5でヒトの誕生、小6・中1で第2次性徴、中3で性感染症を学びます。避妊について学ぶのは高校生になってからです。中3で性感染症を教える際に「コンドーム」という単語は出てきますが、「性行為」については触れません。これは学習指導要領の中の「歯止め規定」によるものです。実際にコンドームを見たり触ったりするチャンスはほとんどありません。

 一部の学校ではカリキュラム化してしっかり行っていますが、保健体育などの授業では教科書を読むだけで終わってしまう学校も多く、学習指導要領の内容は子どもたちの現状に即していないという問題があります。外部講師を招いて学習指導要領を超える部分の性教育が行われている中学校も一部あるなど、日本では「性教育は運次第」といわれています。

 これが今の日本の性教育の現状です。「知っていること」で防ぐことができる痛みや悲しみがあります。しかし、それを知る機会が義務教育の中で保障されているとは言いがたい現状です。

 連載「大人から学び伝える 新しい性教育」の第1回は、「HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン」について、性教育の側面からお話しします。国際セクシュアリティ教育ガイダンスは、「入手可能な地域においては、何歳からどこでHPVワクチンを受けられるのかを説明する」ことを9~12歳の学習目標の一つに挙げていますが、日本の現状はどうでしょうか。

高校1年生は11月が無料で接種できるラストチャンス

 9~11月は「高校1年生女子を見たらHPVワクチンと叫べ!月間」と勝手に呼んでいます。それは2017年12月、ある女子校での出来事がきっかけでした。

 高校2年生を対象にした性教育の講演会で、HPVワクチンの話をしました。子宮頸(けい)がんという病気がある。気づくのが遅くなると子宮を失ったり、命を落としたりすることがある。日本では年間約1万人が罹患(りかん)しているが、HPVワクチンで子宮頸がんを予防、さらに子宮がん検診で早期発見できる。そんな内容でした。

 「でもね、ごめんね、みんなはもうHPVワクチンを無料で打てる時期は過ぎてしまったんだよ。5万円かかるけど、打つことはできるよ」と言うと、体育館に「ひいーっ」という静かな悲鳴が響きました。

 「子宮頸がんワクチン」としても知られるHPVワクチンは13年4月、予防接種法に基づき、小学6年生から高校1年生の女子を対象に定期接種化されました。しかし接種後に多様な症状の訴えが相次ぎ、同年6月に自治体から接種対象者に個別に接種を呼びかける「積極的勧奨」が中断されました。

 多様な症状については、「名古屋スタディ」をはじめとした調査研究により、ワクチンとの因果関係が認められないことが分かりました。にもかかわらず、積極的勧奨は再開されず、現在に至ります。日本の接種率は他の国に比べて極めて低く、異常な状況です。

 HPVワクチンは、HPVというウイルスにより感染する子宮頸がんや肛門がんなど六つのがん、他にも性器にできる良性のイボ「尖圭(せんけい)コンジローマ」を防ぐワクチンです。HPVは性行為により感染します。そのため、セクシュアルデビュー(初めての性行為)前の接種がベストだとされています。ただ、セクシュアルデビュー後でも、45歳までは医療経済的な面から接種が推奨されています。

 HPVワクチンには、子宮頸がんの主な原因となるHPV16型とHPV18型を防ぐ「2価」、それに加えて尖圭コンジローマの原因となるHPV 6型とHPV 11型も防ぐ「4価」、これらに加え、31型、33型、45型、52型、58型のHPVを防ぐ「9価」があります。

 公費対象は2価と4価で、9価は自費で接種することができます。それぞれ接種回数は3回で、全て打ち終えるまでに半年かかります。なお、20年12月、9歳以上の男子も4価を自費で打てるようになりました。4価だと費用は5万~6万円です。

 積極的勧奨が再開されていない現在も、小学6年生から高校1年生の女子は、定期接種として無料でHPVワクチンを打つことができます。高校1年生の場合、9月中に1回目を接種しなければいけません。ですが、実は、打ち始めるのが遅くなってしまった高校1年生は、11月から4カ月間で打ち終えることができる接種法もあります。 そのため、9月から11月は「高校1年生女子を見たらHPVワクチンと叫べ!月間」なのです。

HPVワクチンの意味と重要性

 高校2年生の悲鳴が頭の隅に残り、HPVワクチンの積極的接種勧奨の中止も続くなか、19年4月、私も関わっている女子栄養大学の学生サークル「たんぽぽ」の新年度が始まりました。

 養護教諭を目指すこのサークルでは、活動の一環として、私が中学・高校へ性教育の講演に行く際に使用するオリジナルの教材を毎年二つ作成しています。この年には、「中学3年生が理解できる、HPVワクチンの資料作成」に取り組みました(https://www.jase.faje.or.jp/jigyo/journal/seikyoiku_journal_202007.pdf)。

 半年かけてHPVワクチンについて学びながら、中学3年生が理解できるよう工夫しながら学生と一緒に資料作りを進めていきました。そこで私は、「HPVワクチンは、知れば知るほど打ちたくなるワクチン」だと感じました。学生も同じ思いでした。

 ある日、「たんぽぽ」の活動日、なんの気なしに「この中でHPVワクチンを打った人?」と聞きました。すると、大学2年生は4人中3人が手を挙げました。「じゃあ打っていない人?」と尋ねると、なんと大学1年生の全員が手を挙げたのです。

 「私たちは先輩たちと同じ道を歩んでいないんだ」

 ショックを受けた大学1年生たちは、胸の内を語ってくれました。

 「中高生の時に受けた性教育では、HPVワクチンの意味や重要性を十分に理解できなかったし、そもそもHPVワクチンのことを誰も教えてくれなかった。大学生になってセクシュアルデビューがあり得る年齢となってきたとき、これらの情報を得て、『どうして自分はこのワクチンを打っていなかったんだろう』と、親をうらむ気持ちにさえなった」

 20年2月、このような大学生の声を届けるための活動「HP…

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