講師の偽造 県教委見抜けず
教員免許を偽造し、県内の特別支援学校に勤務していたとして、8月中旬、福井市内の男(26)が有印公文書偽造、同行使の疑いで県警に逮捕された。免許に関する情報は、都道府県教委が運用するデータベース「教員免許管理システム◆」で管理され、採用時に照合可能であるにもかかわらず、同種の偽造事件は全国で後を絶たない。県教委はなぜ、見抜けなかったのか。制度を検証した。(長沢勇貴)
■採用試験出願で発覚
県警の発表などでは、男は2018年に県内の特別支援学校に非常勤講師として任用される際、特別支援学校と小・中学校の教員免許状をパソコンで偽造し、学校に提出した疑い。調べに対し「教職課程の単位が足りず、大学卒業時に免許を取得できなかったため」などと供述しているという。
任用後、男は契約の更新を重ね、計2年8か月間、非常勤講師や臨時講師として勤務。同じ学校での更新事務では、原本に変更がない限りは、細かい点検を実施していなかったという。
発覚のきっかけは、今年5月に男が教員採用試験に出願したことだった。出願書類に、通常は年度末であるはずの免許の有効期限が「9月30日」と記入されているのを不審に思った県教委職員が、教員免許管理システムや、発行元の京都府教委に照会し、免許自体が発行されていないことが判明した。
■全国で相次ぐ
偽造問題は、全国でも相次いでいる。大阪府では、14年に教員免許がない男性が、市立中で教壇に立っていたことがわかり、府教委は男性を採用時に遡って失職とした。男性は、友人の免許状をコピーして、名前などを書き換えて偽造し、府教委に提出していたという。
問題発覚後、府教委は、採用時に免許状のコピーではなく、原本の提示を求めるようにした。
16年には山形県教委が、教員免許を取得しないまま32年間、県立高校で保健体育を担当していた女性の任用を、採用時に遡って無効にした。
■「性悪説」で対策を
そもそも免許状には、紙幣の透かしのような偽造対策は施されておらず、パソコンの文書作成ソフトを使うなどして、原本自体を偽造できるという。
文部科学省は18年、採用時に原本の確認をするよう、都道府県教委に通知したが、教員免許管理システムでの照合については「必要に応じて活用する」にとどめており、福井県教委ではこれまで実施していなかった。
事件後、県教委は、新規採用職員すべての免許情報を、教員免許管理システムで照合する仕組みに変えた。しかし、照合に使うパソコンは庁内に1台しか配備されておらず、職員1人で作業をするため、膨大な時間を要するという。
文科省は「偽造対策は教委が実施すべきだ」とするが、県教委の担当者は「悪用する人もいるという性悪説に立った対策が必要だ。国主導で対策を進めてほしい」と求めている。
岩田康之・東京学芸大教授(教育学)の話「教員免許制度は、偽造を防ぐ目的ではなく、性善説に基づいて運営されてきた。免許は教育の質を担保する。子どもたちに不利益が生じないよう、監督官庁である文科省が責任を持って指導や対策をすべきだ」
◆教員免許管理システム 各都道府県教委が運営。免許が付与された人の氏名、免許番号、有効期限などが登録され、教委の端末から接続できる。教員採用試験時に、受験者が提示した免許状の情報と、データベースの失効情報などを照合できる。
更新制度 23年度にも廃止
教員免許制度は、1949年施行の教育職員免許法に基づいて導入された。同法は教壇に立てる人を有資格者に限定し、教育の質を保つために制定された。
教員免許のうち、一般的なのは「普通免許状」。教育心理学など法令で定められた単位を大学などで修得した卒業者に都道府県教委が発行する。
教員採用試験を受けられるのは、免許保有者もしくは、必要単位をそろえ、発行される見込みの人。合格すれば教委が採用する。
採用試験に合格しなくても、各学校の面接試験などで合格すれば講師として任用される。
普通免許状以外にも、優れた社会的経験のある人に教育職員検定を経て発行される「特別免許状」もある。
2009年度には教員免許更新制度がスタート。それまで無期限だった免許に10年ごとの有効期間が設けられ、30時間以上の更新講習を受け、手続きをしなければ失効することになった。
しかし、「講習に時間を取られ、教員の負担が大きい割に資質向上の効果が低い」として、文部科学省は更新制度を廃止する方針を決定。早ければ23年度にも廃止される。
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