全国学力テストは「失敗」です 目的が不明確、学習状況の把握も向上もできていない 福岡教育大准教授・川口俊明さんに聞く – 東京すくすく

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酒井ゆり (2021年10月5日付 東京新聞朝刊)

 小学6年生と中学3年生の全員を対象に、文部科学省が実施している「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)。自治体や学校間の点数競争を招くなど、批判も根強い。そんな中、同省は2025年度にも中学校から端末を使った新方式に移行する方針で、今年10月から、全国の小中学校で1万人にパソコンを使った試行調査を実施する。福岡教育大の川口俊明准教授(40)は、全国学力テストが「大規模調査として『失敗』している」と指摘してはばからない。

全国学力テストとは 

 「ゆとり教育」導入後、学力低下の批判を受け、2007年度から実施。教科は国語と算数・数学で、理科(2012年度開始)と中3の英語(2019年度開始)は、3年に1度程度行う。民主党政権下の2010年度、2012年度は抽出方式となったが、自公連立政権の発足で全員参加に戻った。新型コロナウイルスの影響で、2021年度は2年ぶりの実施となった。

 ー全国学力テスト自体のどこに問題があるのでしょうか。

 一番は、調査の目的をはっきりと決めないまま、思い付きでスタートしてしまったことです。全国の児童生徒の学習状況を把握して教育施策に生かすとした一方、子どもたちの学力向上につなげたいという狙いもあった。ただ、残念ながらどちらも達成できていません。

 ー具体的には。

 そもそも、毎年内容の変わるテストの結果を比べて、学力が上がったか下がったかを判断することはできません。国際的な学力調査「PISA」は、「項目反応理論(IRT)」というテスト理論を採用し、受験者や試験日時、問題の難易度が異なっても客観的にレベルを測定し、結果を比較できるようにしています。全国学力テストは、このような仕組みを採用していないので、毎年の学力の変化を測ることができません。

川口俊明さん

 また、教育の実態や施策の効果を知るためには、子どもの生活環境や、その子が持つ素質も考慮して分析する必要があります。保護者に対する調査が数年に一度、実施されている以外には家庭の情報は少なく、分析が困難です。

 ー学年全員を対象にする必要はありますか。

 大規模な学力調査は、抽出調査の方が好ましい。IRTの理論を用いて異なる複数の問題セットを用意し、できるだけ幅広い領域を調査した方が良いでしょう。

 全員を対象にすると、どうしても隣の学校や自治体と点数を比べてしまうので、競争が過熱する可能性も高まります。全国学力テストは、学校現場に学習指導要領の内容を児童や生徒に正しく身につけさせるためのメッセージという側面の方が強く出てしまっています。

 ー改善するには。

 テストの目的をはっきりとさせることに尽きます。学習指導要領に沿った内容の理解度を測りたいのであれば、何も全国規模ではなく、それぞれの学校、あるいは自治体単位で実施すればいい。そのほうが結果も早く出て、すぐに指導に反映させられます。

 教育施策に生かす調査にするならば、学力の変化はもちろん、保護者の年収や学歴をはじめとする子どもの生活環境を調べる必要があります。

 ー端末を使った新方式に向けて、今秋から試行調査が始まります。こちらの課題は。

 テストのデジタル化はPISAなどでも導入しており、国際的な流れです。ただ、全国学力テストの場合は「導入ありき」。本来は、何か調べたいことが先にあり、その目的に「端末が有効だから使おう」という議論になるはずですが、そうなっていません。

 確かに、端末があれば、テストを受けた直後に結果をフィードバックすることも可能です。自宅でテストが受けられるようになるかもしれません。ただ、こうしたメリットが現在の全国学力テストの課題をどう改善するのか、十分な説明はできていないように思います。新しいことに手を広げる前に、まずは全国学力テストの問題点を理解し、その在り方から考え直すのが先決ではないでしょうか。

川口俊明(かわぐち・としあき)

 大阪大大学院人間科学研究科博士後期課程修了。専門は教育学・教育社会学。文部科学省の「全国的な学力調査に関する専門家会議」委員。近著に「全国学力テストはなぜ失敗したのか-学力調査を科学する」(岩波書店)。

元記事:中日新聞Web 2021年9月30日

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