学部学科を超えて出会った大学生たちの「エコ×エネ宣言」…J-POWERが問い続ける持続可能な社会 – リセマム

花のつくりとはたらき
 J-POWERグループがエネルギーと環境の共生を目指して社会貢献活動に取り組む「エコ×エネ体験プロジェクト」。昨年はコロナ禍で中止となった水力編ツアーが今年はオンラインで復活した。

 2021年8月26日(木)~27日(金)の2日間にわたり開催した「エコ×エネ体験ツアー2021 水力学生編@オンライン~エネルギーと環境をテーマに、リモートで全国の仲間とつながろう!」には、全国各地から所属学部・学科も多岐にわたる24名の学生(大学生・大学院生)が参加。水力発電所のバーチャル見学や、発電実験、エネルギーとエコロジーの共生のためのJ-POWERの取組み、環境教育の専門家による講義等、充実したオリジナルコンテンツを共に体験し、濃密なディスカッションへと発展した学生たちの熱い2日間のようすをレポートする。


環境をキーワードに交流した24人の学生たち

 学生たちは当日キャンプネームで参加。全国各地の多様な学部・学科から24名が集まった。

全参加学生のキャンプネーム@学科(学部)

しみず@総合基礎科学研究科

りら@教育学部

とりかわ@機械知能工学科

さささ@コミュニティ人間科学科

なつ@生物学科

ヨドバシ@地理学科

りのごし@現代生活学科

りの@現代生活学科

ぴあ@地球科学科

あると@国際資源学科

もくそん@政治学科

りなてぃ@生命科学科

Rinka@国際資源学部

はせきょー@生産農学科

GEeeeeN@応用経済学科

じゅん@教育学部

もも@国際経済学科

もっちー@商業・貿易学科

ゾエ@化学物理工学科

ヒロピー@環境学科

Yuya@土木工学科

あつと@経済学科

こうき@経済学科

たけ@生命科学科

深い学びとつながりを求めて、全国各地から集まった学生たち



初日にインプット、翌日にアウトプット

 プログラムは、初日に水力発電のバーチャル見学、森の体験、科学の実験、専門家のレクチャーとインプットが充実。そのインプットを踏まえて、2日目に学生同士の意見交換の場を経て、交流を深めながら展開された。

エコ×エネ体験ツアー2021 オンライン@学生編~水力発電所と環境をテーマに、リモートで全国の仲間とつながろう!~プログラム全日程

2021年8月26日(木)

10:00~10:15 はじまりの会

10:15~10:30 アイスブレイク~お互いを知る時間

10:30~11:00 水力発電所(奥只見)バーチャル見学

11:00~11:35 森の体験プログラム

11:35~12:00 ドクターと学ぶ「科学の実験教室」~水力発電編~

14:00~15:00 シゲさんの「J-POWERアワー」SDGs時代のエネルギー・環境問題について考える

15:00~16:00 ラビットの「環境教育概論」

16:00~17:00 ドクターの時間

17:00~18:00 行動化へのつなぎの時間

19:00~19:40 ひとり一言タイム

19:40~21:00 自由交流会:フリーの時間

2021年8月27日(金)

10:00~12:00 行動化へのディスカッション

13:00~14:00 グループセッションの発表

14:00~14:50 全体の振り返り~エコ×エネ宣言

14:50~15:00 おわりの会~プログラム終了


奥只見のダムと水力発電所の仕組みに迫るバーチャルツアー

 山梨県清里のキープ協会で、自然体験活動を通した環境教育に携わる「ぱりんこ」が進行役を務める。まずはウォーミングアップから。「今朝起きてから家電製品をいくつ使いましたか?」の質問で自分たちの暮らしがいかに電気に支えられているかを意識付けの後、エコ×エネ体験プロジェクトのリーダー、J-POWERのシゲさんの挨拶を経て、プログラムは奥只見ダム・発電所のバーチャル見学へと進む。

 J-POWERの発電所は日本全国にある。それぞれの発電所は水力、火力、風力エネルギー等、さまざまな方法で電気を作っている。今回は新潟県にある奥只見発電所と奥只見ダムで、電気と自然や森、水のつながりを探る。

新潟県にある奥只見発電所にバーチャルツアー



 東京から新幹線で1時間半のJR浦佐駅からバスで奥只見へ。道路には越後三山の山々や田んぼ、雪国ならではの生活の工夫が見える。さらに山の奥に進み、ダムの工事で作られたシルバーラインという数多くのトンネルがある道路を抜けると、奥只見ダムが見えてくる。

 J-POWERグループの電力館館長の伊藤氏が奥只見ダムと発電所を案内。このダムは、福島県と新潟県の県境を流れる只見川をせき止めており、発電所で作られた電気は送電線を通じて首都圏や東北地方に送られている。

奥只見ダムは日本最大級の重力式コンクリートダム



水力発電には位置エネルギーが使われている。運動エネルギーを電気エネルギーに変える発電機の解説をする伊藤氏



 ダム内部では、水力発電には、高いところにある水が低いところへ流れる「位置エネルギー」を利用していることや、水の量と落差が発電出力に大きく影響することが解説された。現在の水力発電は、電気の使用量が増える日中や夕方等のピーク時の対応として使われるのが一般的だという。ダムから水圧鉄管を通って運ばれた水は水車に導かれ、その水の力で水車が回り、回転軸につながる発電機が回って電気が発生する。ローターと呼ばれる電磁石が水車軸につながって回転して、まわりにあるコイルによって電気が発生する仕組みだ。発電に使われた水はドラフトチューブと放水路という水圧管を通り下流の川に流れていく。

生態系の保護を目的に復元されたエコパーク



 奥只見には、イヌワシやクマタカ、湿地にはモリアオガエルやムツアカネと言われる希少な生物が生息している。2003年の4号機の増設工事の際には、イヌワシの繁殖に影響を与えないよう騒音等に配慮し、工事の残土の埋立地に湿地を移植させて、エコパークとして人工的に復元した。当初は難しいと言われた生態系の移植を成功させ、環境との共生を図っている。

 その環境との共生のための取組みのひとつ「維持流量」について、シゲさんから説明があった。発電用に使用された水は、地下の放水路を流れて放水口まで行く。ダムの直下から放水口までの3kmの区間は川の水が少なくなり生態系に悪影響がある。そのためダムの直下で水を少しだけ流すという。これが「維持流量」だ。水があるのでこの区間3kmの生態系が守れ、環境に対する影響が低減される。維持流量の水はすべて発電に使える大事な資源なので、1号機から4号機とは別に、小さな維持流量発電機をつけて、2,800kw(一般家庭で約1,000世帯分)程を発電し有効利用している。

維持流量発電は生態系を守り、資源の有効活用へ



 ここで「ドクター」こと、エコ×エネ体験ツアーでおなじみの実験博士が発電の仕組みを解説。コイルの中に磁石が入っている懐中電灯が用意され、振るとコイルの中で磁石が動き電気が起きて光る。これは発電機と同じ仕組み。コイルの中で磁石が動くと、運動エネルギーが電気エネルギーに変わり、磁石が動かなければ電気は発生しない。こうした現象は「電磁誘導」と呼ばれている。直線運動では効率が悪いため、発電機では回転運動を利用する。回すと生まれる運動エネルギーが電気エネルギーに変わり、電気が発生。太陽光発電以外の火力・原子力・風力発電等はすべてこの電磁誘導を利用している。
回転エネルギーを生かした発電の実験


 学生たちは映像で観た発電所の内部を思い出しながら、ドクターの実験から電気が起きるようすをあらためて確認し、理解を深めていた。


豊かな自然を映像体験で実感した「森の体験プログラム」

 奥只見ダムや発電所、ダム湖の周りには多くの森が広がっている。キープ協会の「みかんちゃん」と「ぱりんこ」の案内で、銀山平の森で自然の体験プログラムが始まる。

遊覧船で移動し、銀山平へ。写真手前に奥只見ダムと発電所がある



撮影時の6月には銀山平の森の入口の雪がまだ残っていた。例年、5月のおわりまで残っているという



 森の中は少しひんやり。たくさんの木々がある。また森の中には、ねずみやキツツキ等の生き物たちのすみかもあった。ブナの森に入ると、いろいろな葉があり、形も大きさもいろいろ。

 ここで3グループに分かれての「葉っぱじゃんけん」開始。参加者は事前に5枚の葉っぱを集め、大きさ、ギザギザ、葉っぱの付け根から枝までの葉柄の長さ、筋や線の数、するどさ、匂い等の条件で競う。ヒマラヤ杉や朝顔、自宅にある観葉植物、道端に落ちている葉っぱを持つ参加者もいて、地域による特徴もある。ぱりんこからは、いろいろな視点を持って観察する大切さも伝えられた。

葉っぱじゃんけんのようす。皆かなり真剣



ブナの葉は、真ん中がくぼんで水を集めやすい



 ブナの葉はお椀型で真ん中が少しくぼんでおり、雨を受け止めるのに良い形だ。秋に実るブナの実は、森の生き物たちにとって大事な食糧だ。森の地面には、落ち葉もたくさん積もり、めくると葉っぱは細かくなって小さな根っこ等も出てくる。小さな生き物たちが落ち葉を食べて細かく分解して土をつくり、落ち葉の下にある土は触ってみると湿っていることがわかる。森の土からブナの木も草も森の植物も水や栄養をもらっており、そこには循環と共生を実感できる森があった。

エコとエネのつながりを知る。ドクターと学ぶ「科学の実験教室」

 「ドクター」と、J-POWER「よーこば」「かず」による実験では、「土」の重要性と自然と人間のつながりを解説。もともと粘土質の土は、落ち葉や雨、数々の生き物や微生物、カビ等が作用して、団粒構造をもった植物が成長しやすいふわふわの土に変わるという。そのふわふわの土は、水の地下への浸透がスムーズであると同時に、水の浸透に引っ張られる形で土の中の空気の交換がなされることで森の木々は根腐れしにくいのだそうだ。森の土は地下への浸透が早いが、植物の成長に必要な水は蓄えられている。これは団粒構造の土では毛管現象が働いて水が保たれているからだ。団粒土壌は植物の成長に必要な水は貯え、過剰な水はスムーズに地下の方に流れて地下水になるという自然の力だ。

森の土は団粒構造で、水や空気の通じが良く、保水しているので植物が良く育つ。雨が降ると地下水の流れに

自然と人間の力が合わさって水力発電ができる



 地下水として集まった水は、飲用水や農業用水、そして電気を作るために利用される。水を集めて電気を作るためにダムと発電機がある。水力発電には水がなくなれば電気を起こせないという弱点があるため、水力発電ダムは常時水がある状態で管理され、電気が必要な時にだけ発電する必要がある。奥只見ダムは日本最大級だが、フルパワーで24時間発電し続けると2週間で発電に利用できる水はなくなってしまう。そのため最近は昼間、日が照っているときは太陽光発電をおもに使い、風も吹かず、太陽光発電もできない夕方のピーク時に水力発電というサイクルで運用をしているのだそうだ。水力発電はこのように、自然と人間の力の2つで実現するものなのである。


持続可能な社会に向けての取り組み

 昼食後はまず午前の振り返りを兼ねて学生同士で交流した後、専門家のレクチャーがはじまる。最初は、電力の専門家であるJ-POWERのシゲさんによる講義。タイトルは「SDGs時代のエネルギー・環境問題について考える」。冒頭、世界中で取組んでいるSDGsの目標を確認し、J-POWERのエネルギーと環境、地域社会との共生のための具体的な5つの取組み事例が紹介された。

事例1は、高度経済成長期の御母衣ダム建設における白川郷近くの荘川村、中野地区にある村の水没問題を通じて、

J-POWERの地域共生の原点となった経緯が紹介された



事例2は、奥只見ダムにおける環境問題。イヌワシをはじめとする動植物の保護、トンボのムツアカネや

貴重な植物を守るために植生を移植し、現在のエコパークが生まれたこと等が紹介された



事例3では天竜川の河川環境再生。あゆが減ってきたために、地元のステークホルダーが手を取り合い、

河川環境を持続的に維持する取り組みが今も継続していることが紹介された



事例4は横浜という大都市での磯子火力発電所における環境と地域との共生。全国初の公害防止協定、

景観対策等で地域と環境の共生を図った



最後に、瀬戸内海の島に建設した石炭ガス化複合発電「大崎クールジェン」が紹介された。最先端の発電方式で

CO2を分離回収して水素を作る。焦点は地球規模の気候変動問題



 近年、持続可能な環境と平和で健全な社会があってはじめて経済活動が成り立つよう制度設計することが企業には求められている。気候変動対策の失敗や人為的な環境災害、生物多様性の損失等の世界的なリスクを前に、シゲさんからは、「日本も例外ではなく、持続可能な社会の実現を目指し、必要不可欠なエネルギーとエコの共存のため、身近なことが世界につながることを意識し、仲間と問題解決のための行動をすることが大切」と学生たちに伝えられた。


「〇〇×〇〇」で考える行動化 ラビットの環境教育概論

 環境教育の専門家、キープ協会の「ラビット」の講義「環境教育概論」。ラビットは山梨県清里のキープ協会で自然の魅力・楽しさ・大切さを伝え、自然と人を繋げていく役割を担っている。今回、学生と一緒に考えたいことは「地球規模の環境問題の解決に結びつけること」。

講義のはじめに学生たちに「心に残る風景」を問うラビット



リングノートに描いた「心に残る風景」



 環境問題を解決するための方法として1.法律や制度等の「ルール作り」、2.さまざまな技術をより良くしていく「イノベーション」、3.持続可能な社会を実現するために人々の意識やライフスタイルの変換を促す「環境教育」という3つの方法がラビットから明示された。人々の意識が変わらなければ、ルールは守られず、イノベーションも生まれない。環境教育はそれらの根底にあるものだという。

環境問題を解決するには、3つの方法が考えられる



 次に「環境」と聞いて何をイメージするかを参加者に問うた。実は環境教育の「環境・エコ」は扱う範囲も広く定義が難しい。また問題やそのアプローチも多岐に渡る。

 ラビットは環境教育を「関係教育」だとした。自分と自然、自分と他者、自分と自分の内面との関係が断絶するとひとりよがりになり、環境の問題は解決に向かわない。その関係を再構築するための働きかけが「環境教育」であるという。

 次にラビットから、SDGsには持続可能な社会を実現するための具体的な達成目標があるが、このSDGsと向き合うときに私たちが最も恐れるべきことは何かという問いが投げかけられた。参加者からは「本当の目的を忘れてしまうこと」「今までの生活を変えること」「他者の犠牲」等の素晴らしい反応が寄せられたが、ラビットの回答は「無関心」であること。

「無関心」がもっとも恐れるべきこと



 自分と同じ世代、自分と将来世代、自分と地球のシステムに「隔たり」や「偏り」がない社会を実現するために、「無関心」を抑止し「隔たり」をなくす必要がある。そのためには「感受性」「想像力」「複眼的思考」を促す役割が重要だ。このツアーの最大の目的ともいえる「行動化」に向けて、まず「エコ×エネ×〇〇」で考えることが促された。〇〇に「自分」を入れてみると自分事化でき、物事を複眼的な思考で捉えられると示唆。

自分事化することがはじまり



 ひとつの領域や分野への関心を掘り下げることは大切だが、複数の領域や分野にまたがって物事を捉える視点も合わせもちたいと、ラビットは学生たちに伝えレクチャーは終了した。


知識を基盤にして行動化すること

 ドクターの講義の時間は「知識から行動化へ」がテーマ。ドクター自身のプロフィールや活動フィールドの紹介から、これまで取り組んできた開発途上国の廃棄物管理の改善について話があった。

 インドネシアのスラバヤ市のごみの埋立処分場では、焼却処理をせずにほとんどのごみが埋め立て処分となっている。そこではウェイスト・ピッカーがプラスチック等の資源ごみを回収して生計を立ており、それに携わる子供も数多くいる。ごみは不衛生で悪臭もただよい、ガラスの破片や注射針がたくさん落ちているので感染症の罹患率も非常に高い。市街地のごみの集積所にもごみが溢れ、悪臭で鼻をおさえながら歩く姿も見える。

開発途上国の廃棄物管理の現状



 こうした状況は1960年代の日本のごみ処理状況にもあった。「夢の島」に山のようにごみが積まれ、メタンガスも発生、ヘリコプターでハエの発生を抑えるために殺虫剤をまき、周辺住民はごみの持ち込みに大反対するという、いわゆるごみ戦争が勃発した。日本は焼却処理を選択したが、海外では焼却処理はほとんどされていないという。焼却処理もダイオキシンが発生する等の問題があったが、現在はダイオキシン生成抑制技術のおかげで改善。こうした環境改善に向けて養った経験や知識を生かし、生ごみのコンポスト化の技術協力のためドクターはインドネシアに向かったのだそうだ。

 コンポストセンターを作り、ごみの発生源である家庭用のコンポストにも対処。家庭で調理くずが出たら容器の中に入れて処理すれば堆肥に変わる。堆肥はコミュニティの緑化用に使うと、緑豊かなコミュニティがどんどん増えていったという。海外での経験でドクターが実感した大切なことは、コミュニケーションからいろいろな人を巻き込むこと。特に家庭を巻き込むことが大切だったという。インドネシアでドクターは、コンポストを推進する替え歌をインドネシア語で作り、住民と一緒に歌いながら家庭への浸透を図った。コンポストを取り入れた家庭を訪れたところ、花が咲き、野菜がぐんぐん育っていると主婦が笑顔で一生懸命に話してくれ、子供たちも笑顔で、衛生環境の改善も実感したそうだ。

コミュニケーションしながら浸透へ。コンポスト容器は現地で「魔法の箱」と呼ばれるように



 ドクターの人生を振り返ると常に「環境」が軸になっているという。ドクター自身、大学のときにキャンプカウンセラーのボランティア活動を通じて仲間と一緒に活動し、目的達成に向けてディスカッションしたり、真剣に試行錯誤したりといった経験があるといい、自然とのふれあいやコミュニケーションの指導を学び、PDCAの重要性や組織運営の難しさ等を実感したことが人生の礎を築くことになったと明かした。そして「学生時代に与えられることを待っているだけになっていないか。大学は自らが探求と創造を磨く場であることを意識しながら過ごすことが有意義で、大学だけではなく卒業後も知識を得て実行することが大事」と参加者たちにメッセージを伝えた。

社会が期待し求めていること



 最後に、偶然を捉えて幸福に変える力「セレンディピティ」の考え方をもとに、幸運を捕まえる準備の大事さが説かれ、社会変革が伴うイノベーションや今後SDGsが大きなビジネス機会を生むことを紹介しながら、「知識は実行してこそ価値がある」「ただし、知識は行動の基盤であることを認識しなければならない」とエールを送り講義は終了となった。


レクチャーが続いた1日目の最後は、翌日の準備も兼ねた「行動化へのつなぎの時間」。「持続可能な社会」を、自分の言葉で置き換えると、どんな社会なのかをそれぞれ考える時間だ。参加者からは「過不足のない社会」「誰もが明日に希望をもって生きられる社会」といった社会の在り方そのものを考えた言葉から、「自然と生きる社会」「誰もが環境のことを考えて自分の好きなエコな行動をする社会」等、環境を軸足にした考えも多く見受けられた。1日目に大量にインプットされた情報を整理し、翌日のアウトプットに備える夜。参加者たちは電気を見つめながら何を考えたのだろうか。


濃密なディスカッションとプレゼンテーション

 2日目は朝の10:00から「行動化へのディスカッション」へ。持続可能な社会の実現に向け、自分が関心のある、あるいは取り組みたい分野や領域と結びつけて行動化を図ることが目的だ。

 テーマは「エコロジー&エコノミー」「コミュニケーション」「教育(次世代)」「共有・助け合い」「自主性と責任」。自分の興味関心のあるテーマに分かれてグループセッションを行った。ディスカッションのようすを覗くと参加者たちはとても真剣で、グループによっては具体的なアクション等の考えが出されていた。なかなか言葉に表せないグループには「明確な結論が出なくとも、グループで出た意見や学び合い自体のプロセスを伝えることが大事」と、ラビットやぱりんこが声をかけていた。

グループごとのディスカッションのようす



「エコロジー&エコノミー」を考え続けたグループでは、自然と接する経験や教育が環境への意識を高めるという視点から、

自然に触れ合いつつ経済活動を体験できる小中学生向けプログラムのアイデアが説明された



 「教育(次世代)」をテーマに話し合ったグループは、学校教育と地域のコラボレーションを具体的なアクションまで考えた



 「共有・助け合い」をテーマにしたグループは、メンバー各自が考えた「〇〇社会」を伝え合い、共通する要素を意識しながら、

どうやって共存と助け合いが実現するかを考えた。お互いの意見を丁寧に理解しながら議論を進めていた



 大学のゼミ活動やボランティア、SNS等、大学生だからこそ活用できる「場」を創出するアイデアが集まり、今後のアクションに大きな期待を感じられるプレゼンテーションとなった。


行動化に向けた「エコ×エネ宣言」・学生インタビュー

 プログラムの最後は、知識から実際に行動を移すための「エコ×エネ宣言」。学生時代に自分が取り組みたいこと、あるいは既に取り組んでいてこれからも続けていきたいことを学生がひとりひとり、一言で宣言した。明日から行動に移すと感じられる力強い宣言ばかりだった。

たけ@生命科学科さん「自分から動く」



もくそん@政治学科さん「自分の思い・経験を伝える」



ヨドバシ@地理学科さん「まずはもっと環境について勉強する、いずれはボランティアに参加したい」



 多くのスタッフに対して学生たちから「2日間、ありがとうございました」という感謝の声と拍手で、プログラムは幕を閉じた。

拍手(手話)で幕が閉じる。みんな笑顔で、またオンライン・リアルで会いましょう!



 エネルギーやエコロジーに興味をもったきっかけや、これからの目標についてインタビューに応じてくれた学生たちの力強い言葉を紹介する。

「将来はエネルギー分野の仕事に携わりたい」ゾエ@化学物理工学科さん


 小学生のころはそれほど理科を好きではありませんでしたが、中学生になって、世の中が原子という細かい粒子でできていることを知り、そこから科学に興味を持って地元の高専に進みました。高専では「熱電変換材料」を卒業研究のテーマにしましたが、普段、捨てられる熱エネルギーの再利用等、エネルギー分野に興味が出てきて大学に編入し、今は化学物理工学科に在籍しています。地元の秋田県にも風力発電があるので環境問題は身近でしたが、このツアーでドクターのお話を聞いて、まだまだ何かできることはあると感じました。将来は、エネルギー分野の仕事に携わりたいと考えています。

「無関心な人のいない社会を作れる教員になりたい」はせきょー@生産農学科さん


 小学校の頃は、はっちゃけて笑いを取るようなムードメーカーでしたが、とにかく不器用で、論理的に考えることが苦手で直感で考えるタイプでした。そのため、何かを判断する時も根拠がなく結局やってみるけどうまくいかない。やはり論理的に考えることは小学校の頃からも大事だと思い、今は小学校か中学校の理科の教員を目指しています。このツアーでは、ドクターの実験で生き物が水力発電に貢献していることがとても面白いと思いました。将来は、押しつけるのではなく、いろんな情報を与えて世界に関心を持ってもらえる、無関心な人のいない社会を作れるような教員になりたいです。

「再生エネルギーで地域を支えたい」ヒロピー@環境学科さん


 小学校低学年の時に、高学年の子がペットボトルのキャップを集めてワクチンを貧しい子供たちに届けるというエコキャップ運動をやっていて環境に興味をもちました。無関心な人に関してどうするかを私も今、思い悩んでいて、ボランティア活動を通じて環境問題について深く知ってもらいたいと考えています。今回は、火力編に参加したときに知り合った友人に誘われて参加しました。普通ではつながれない人たちにつながれるのは、オンラインの魅力ですね。将来は地域と関わる仕事をするのが目標です。太陽光発電で作ったエネルギーで、電気自動車による地域のエネルギーマネジメントを普及させたいと思います。

エネルギーやエコロジーに興味をもったきっかけ、これからの目標について話してくれた学生たち

(上段左から、ゾエさん、はせきょーさん、ヒロピーさん。下段左から、りらさん、あつとさん、りのさん)



「教育の大切さに気付いた」りら@教育学部さん


 自然豊かな保育園や小学校で入っていたマリンバの団体で出会った先生がとても優しく、自分自身も教える経験もできたこと、中学生のクラスが荒れたとき救ってくれた吹奏楽部の顧問の先生との出会い等から、教師は良いなと思い大学は教育学部に進みました。今回は、全国の学生と話す機会がとても楽しく、あらためて教育は大切だと気付き、教師になりたいという思いも一層強くなりました。将来は地域と教育に興味があるので、その研究をするか、あるいは現場に出るか、まだはっきりとは決めていませんが、これからいろいろな体験を通じて決めていきたいと思います。

「環境を守る仕組みを考える会社に入りたい」あつと@経済学科さん


 自然が大好きな子供で、毎日のように釣りに行っていました。滋賀大学で子供向けに農業や食べる文化、伝統工芸等を体感して学ぶ集まりが開催されていて、小学校の4年生から3年間ほど通いました。それが今、専攻している環境経済学に繋がっています。今回は、学部も違う人たちが、自分たちの専門分野の範囲から環境にどう取り組むのか、ひとりひとりができることを考えることに刺激を受けました。私はゼミ活動で環境と経済の2つを子供たちに伝えていくことが大事だと思っています。将来の夢は、大事な環境をどう守るのかの仕組みを考えることや、環境資本を大切にする会社に入りたいと思います。

「建設会社で環境の学びを生かしたい」りの@現代生活学科さん


 3歳の頃から看護師になるのが夢でしたが、受験時に迷い、分野を横断して広く学べる学科を選びました。大学の授業で環境への興味が高まり、環境に特化したゼミを選びました。2月の火力編も参加したのですが、今回も学部が違うのに同じ「環境」のことをシェアして話ができることがとても幸せでした。こんなにも全国のいろいろな学部学科の同世代の人たちが、環境問題のことを自分事として考えていることに刺激を受けました。来年から務める建設会社には環境部門があり、建設業で出る廃棄物の環境対策にも力を入れているので、エコ×エネでの学びを役立てられると良いなと考えています。

 こうした若い人たちが今後、社会を作る仲間として協力しながら行動すれば、何らかの問題解決策が見えてくるのではないだろうか。エコ×エネ体験プロジェクトでは、エコ×エネカフェ等で、さらに交流の場が継続して広げられる。ここでの集いは始まりに過ぎない。ひとりひとり、未来へ踏み出すための行動化を期待したい。

小学生、大学生、社会人までエネルギーとエコロジーを考える

「J-POWERエコ×エネ体験プロジェクト」イベント続々開催

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