【医学部受験の現場から】地域医療を充実させる道のり – 産経ニュース

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兵庫県豊岡市で開催された地域医療を担う将来の医師を養成するセミナー。中高生を対象に地元出身の医師らが医学部へのチャレンジなどを訴えた

今夏、職域接種の会場運営があったり、家の前で倒れている人がいたりで、個人的に救急車手配の現場に居合わせることが4回ほどあった。どの回も救急車の到着そのものは5分程度だったが、その後、救急車は現場からなかなか動けなかった。患者を搬送しようにも、受け入れ先が見つからないからだ。

以前からこの種の問題は指摘されていたが、身近に同じことが繰り返されると、新型コロナの蔓延(まんえん)に伴う医療現場の逼迫(ひっぱく)が課題になっている現実を改めて突き付けられた気がした。動けぬ救急車の赤色灯ほどハラハラするものはない。

医療を受ける機会の確保の今後を考えると、近い将来になんとか医師を増やし根本的に解決する方法を選択する必要がある。現時点の対策とともに、医師増員の将来計画を併せて考える必要があることは以前にも本欄でお伝えした。

さて今夏、全国の医学部の入試要項がおおむね発表された。ほとんどの大学には地域医療を充実させるための「募集区分」がある。2月頃の「一般選抜」が実施される際に、区分を分けて「地域枠」として実施される大学もあるが、圧倒的に多いのは、「推薦型選抜」や「総合型選抜」のような特殊枠だ。これらは「一般選抜」より早く、12月〜2月の別日程で行われる入試だ。

こうした特殊枠の入試は、大学卒業後に都道府県の医療環境に合わせて「診療科を限定」したり、卒業後「9年程度の地域診療を義務付け」したりする代わりに、都道府県から相当額の奨学金を医学部生に出すケースが多い。

9年程度の義務年限を終了すれば、奨学金は返還無償となる制度だ。このほかにも、地域の病院が独自に運用している奨学金もあるが、こうした情報が1カ所に集約されることがなかなかないため、注意しないと情報にたどり着けない。

これら特殊枠の出願時期は11月ごろなので、出願の決断はかなり早い時期に行う必要がある。また、出願資格として、評定平均値がA段階(5・0~4・3)以上の者と定められていることがほとんどだ。評定平均値は、高校に入ってから高3までの全ての教科・科目の平均だから、高校に入る前までに知っておくかどうかで準備の心構えが変わってくるだろう。

本来、特殊枠は地域医療を担う募集区分だから、その地域の人から出願者を増やしたいところだ。このため、評定平均のことは、将来の医学部受験生が中学生のうちに伝えておきたいが、それを実現することはなかなか難しいだろう。

地域医療に関わる枠といっても、出願は広域募集するので、優秀な他地区出身の受験生が推薦型で入学してしまえば、義務年限終了後に地域医療に残らないことも少なくない。

こうした状況のなか、今夏、一般社団法人「こどもと教育と地域」の皆さんが、兵庫県豊岡市で夏のセミナーを主催され、私も講演にお邪魔した。高校生のみならず、地域の中学生やその保護者も参加される地域主導のセミナーだ。

このセミナーは、神戸大学医学部在学中の地元出身の医学生、高校の先生、市の教育委員会、豊岡病院など多くの協力者によって支えられている。但馬地区の医療の充実を実現するために、地元出身の医師をいかにして増やすかを具体化させるための連携だ。病院・教育・保護者のそれぞれの関係者だけの努力では実現できない連携がそこにはある。この貴重な機会のセミナーに医学部入試に関する情報提供をする講演で、河合塾が少しだけお手伝いさせていただいた。

病院からは現役ドクターの講演があり、病院の奨学金の説明があるなど、中学生たちが自分の将来に何を目指すかを考える貴重な機会だっただろう。昨年は、新型コロナの蔓延によって中止された同イベントだったが、この1年のコロナ騒動を経験したなかで、参加した生徒たちにとっても今年開催された意義は大きかったと思う。

参加した彼らの顔つきを見ていると、自分の将来を地域に重ね合わせて考える大人の顔つきそのものだ。参加者はそれぞれに成長し、社会の仕組みをどのように自分と地域の未来に結びつけていくかを学んだに違いない。保護者もそのサポートの方向性を確認したことだろう。

これらのイベントを行政はもっと各地で開催できないのだろうか、と素朴な疑問がわいてくる。現在の医療の不足は、未来の医療の充実によってのみ解消される。未来は私たちではなく、この若い世代の人たちのものだ。その彼らに、彼ら自身の未来が待ったなしで託されていることを知らせる機会は必要だと切に思うのだ。(河合塾 近畿地区医学科進学情報センター長 山口和彦)

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