山口県下関市の市立豊北中学校(生徒109人)が生徒に体育座りを極力させない取り組みを進めている。体育の授業や集会などでは当たり前になっている座り方だが、専門家からは「座骨にストレスがかかる」など健康面の問題も指摘されている。PTAも巻き込んだ「脱・体育座り」に生徒たちの反応も上々だ。
きっかけは矢田部敏夫校長が4月ごろ、体育館で開かれた生徒会などで体育座りをしている生徒のつらそうな表情を目にしたことだった。生徒会や講演会、月1回の全校集会――。体育座りをする機会は月1~2回とはいえ、長い時は1時間に及ぶ。矢田部校長を含め教職員も体育座りをしていることもあり「無理な姿勢を長時間続けることは生徒の健康に関わる」と判断した。
対応を協議した教職員らは、入学式や卒業式など特別な行事で使っていたパイプ椅子に目をつけた。使う場合は、床を傷めないよう幅約1・5メートル、長さ約20メートルのゴム製シートを数枚敷く手間がかかることが課題だったが、椅子につける傷防止用のゴム製カバーがあると分かった。費用は同校PTAに協力を求め約140脚分を購入した。岸田宏志PTA会長(44)は「体育座りは私たちのころでもきつかった」と振り返る。
カバーを装着した椅子は6月29日の集会で初めて使用した。生徒たちは、事前に生徒会メンバーが出した椅子を自分の場所まで運ぶ。集会は通常より5~10分開始が遅れたが、矢田部校長は「慣れれば時間もそれほどかからなくなる。子どもの健康を考え、今後も椅子の使用を続けていきたい」と話す。
集会後、生徒たちからは「お尻が痛くて話に集中できなかったので良かった」「スカートなので床に座るのが嫌だった。椅子はうれしい」などの声が上がった。校内で体育座りをするのは体育の授業での数分だけになったという矢田部校長は「学校現場は子どもたちに無理を強いている場面が多く、体育座りもその一つ。(全国的に)見直しの動きが進んでほしい」と話す。
地域によっては「体操座り」「三角座り」などと称される座り方が、国の資料に初めて登場するのは1965(昭和40)年のことだ。文部省(現文部科学省)が出した「体育(保健体育)科における集団行動指導の手びき」に、「腰をおろして休む姿勢」として、両手でひざを抱えて腰を下ろす子どもの写真が掲載されている。
スポーツ庁によると、「手びき」は学校生活を円滑に送るための参考資料という位置づけで、指導が義務づけられている学習指導要領とは異なるが多くの学校で定着している。スポーツ庁には「体育座りは体に悪いのでは」などの問い合わせもあり、担当者は「長時間、同じ体勢で座るのが子どもたちの体に負担をかけることは事実。体育座りだけでなく、適切な時間で座らせる指導が教育現場では重要ではないか」と話す。
長年、姿勢などの研究を続けている武蔵野美術大の矢田部英正講師は「長時間の体育座りは、内臓を圧迫し座骨にもストレスがかかるなど、体には不合理な座り方。前屈をしている姿勢に近いため、成長期にあたる子どもたちには腰痛などの原因にもつながる」と指摘する。立て膝やあぐらなど、体育座りと比べ体に負担が少ない座り方はさまざまあるといい「一人一人に合った座り方を指導することが大切だ」と話した。【大坪菜々美】
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