【特集】多様な「体験」と「対話」から将来の目標が見えてくる…上野学園 – 読売新聞

【特集】多様な「体験」と「対話」から将来の目標が見えてくる…上野学園-–-読売新聞 花のつくりとはたらき

 上野学園中学校・高等学校(東京都台東区)は、「体験」と「対話」を通して将来に向けての生徒の自己理解を促す教育を実践している。動物園や博物館などが集まる上野地区の立地や、音楽科併設校という特性を生かした体験学習に加え、少人数校ならではの教師との親しい対話が、生徒に個性や目標を自覚させる導きになるという。今春大学に進んだ2人の卒業生と当時の担任の教諭に、同校の教育の特徴を語ってもらった。

体験学習の中から「観光」というテーマが浮かぶ

「さまざまな方向性の体験をすることが『自分は何がしたいのか』という自覚につながる」と話す土屋教諭
「さまざまな方向性の体験をすることが『自分は何がしたいのか』という自覚につながる」と話す土屋教諭

 取材に訪れた8月4日、同校の多目的ルームに顔を合わせたのは、立教大学観光学部交流文化学科に進んだ大根
遥歌(はるか)
さんと、東京理科大学理学部第一部応用数学科に通う村上
竜聖(りゅうせい)
君、それに2人の在学中の担任だった生徒指導部の土屋久美教諭の3人だ。

 大根さんが観光学部を目指すようになった背景には、同校でのさまざまな「体験」があったという。「地元の上野や浅草には知的な刺激を得られる場が多く、授業でも積極的に活用しています。さまざまな方向性の体験をすることが『自分は何がしたいのか』という自覚につながっていきます」と土屋教諭は話す。

 好条件の立地を生かし、中学1、2年で実施しているのが「上野公園フィールドワーク」だ。中1で上野動物園や国立科学博物館などに出向き、自然科学の領域で課題を見つけて研究する「サイエンスプログラム」、中2では上野周辺の歴史や文化、地理などを探究する「ソーシャルプログラム」に取り組む。

 グローバル教育の面でも、浅草を訪れる外国人と交流する「Trip to 浅草」を始め、英国の街を再現した環境でオールイングリッシュの会話学習を行う「ブリティッシュヒルズ」研修や、10人グループでネイティブの講師にスピーキングのトレーニングを受ける「イングリッシュキャンプ」など、生の英語を体験することに力点が置かれる。

 
――大根さんは、在学中に学んだことで印象に残っていることは何ですか。

「特別授業のゼミで『観光』というテーマに行き着いた」と話す大根さん
「特別授業のゼミで『観光』というテーマに行き着いた」と話す大根さん

 小学校から英会話教室に通っていたので、英語関連のプログラムが面白かったですね。「ブリティッシュヒルズ」は街並みが外国のようで留学気分が味わえ、買い物や料理といった実践的な英会話も楽しみました。「Trip to 浅草」では、知らない人に話しかける難しさと、通じた時のうれしさを味わいました。

 カフェが好きだったので「フィールドワーク」は、上野にある大手カフェの比較を行いました。海外客の割合や客層に応じた店づくりなど、かなり違いがあることが分かりました。自分は物事を比較するのが好きだと気付き、いろんな国の文化を学びたいと考えたりしました。

 
――観光学部に進もうと決めたきっかけは。

 最初のきっかけは高1のとき、クラス担任だった土屋先生が行った「ゼミ」という放課後の特別授業です。個人テーマを決めて探究するのですが、自分をじっくり振り返り、家族旅行の思い出を始め、英語力を生かしたい、人が楽しめる仕事をしたいなど、さまざまに思い巡らせるうちに行き着いたのが「観光」でした。そこで高校2、3年生の探究学習では「東京五輪後のホテルをどう生かすか」というテーマで上野、浅草地区のホテルや台東区役所の取材を行い、課題や対策について考えました。

 具体的な進路を考え始めたのは高2の時です。進路指導主任の呼びかけで青山学院大学の海外ボランティアサークルの活動報告会に行きました。報告会はとても工夫されていて興味深く、「大学って面白い」と思いました。それを先生に話すと「レベルが高い大学ほど面白いよ」と言われ、進学への意欲が湧きました。改めて自分の関心領域を考え、観光学を学ぼうと決心し、明治大学国際日本学部を第1志望、日本で初めて観光学部を設置した立教を第2志望にしました。

 
――いろんな体験や先生との対話が進路を考える機会になったんですね。

 たくさんの先生にお世話になりました。勉強や進路の相談はもちろん、悩みがある時に通りかかった先生をつかまえて、たわいない話の相手になってもらったのも力になったと思います。第1志望には届きませんでしたが、英語検定のスコアで立教に合格できました。

先生へのライバル意識に火が付いて発奮

 さまざまな体験学習のプログラムに加え、生徒同士や教員たちとの「対話」を重視しているのも同校の教育の特徴だ。「1クラスの生徒が30人以下の少人数ですから、生徒や教員が互いに理解し合い、対話を通して自分の個性や目標を自覚できる良い環境となっています」と土屋教諭は話す。

 
――村上君は在学中の思い出で、強い印象を受けたものはありますか。

「中1のフィールドワークで疑問を持つことや、自分で物事を調べることを楽しめるようになった」と話す村上君
「中1のフィールドワークで疑問を持つことや、自分で物事を調べることを楽しめるようになった」と話す村上君

 一番の思い出は「ひとり一つの楽器」です。サックスを担当し、グループで毎週練習するうちにお互いのことを知り、打ち解けるようになりました。もともと内気で人の意見に流されるタイプでしたが、「いい演奏にしたい」という思いから、メンバーの演奏の特徴を踏まえてパートの変更を提案したりもしました。

 桜鏡祭で中学生全員が行う体育館装飾でも、交友関係が広がりました。中2の時は「海底宇宙ステーション」がテーマで、僕らのグループは黒いポリエチレン袋をたくさん貼り合わせ、巨大なクジラを作りました。学年縦割りのグループだったので先輩や後輩とも仲良くなれました。

 
――村上君は、「フィールドワーク」の思い出はありますか。

 中1の「フィールドワーク」で、国立科学博物館の展示を参考に「動物クイズ」を作り、桜鏡祭で来客に出題する企画をやりました。疑問を持つことや、自分で物事を調べることを楽しめるようになったのは、この経験からです。

 
――進路の決定は比較的遅かったそうですね。

 最初は進学に熱意が持てず、担任の先生に「行きたい大学がない」と度々相談していました。当時の担任が得意科目の数学の先生だったこともあっていろいろアドバイスをいただき、最終的にはAIの研究ができる大学の学部に志望を絞りました。先生は面白い方で、模試の後の面談で、自分の高校時代の成績表を見せて「まだまだだな」と得意気に言ったりするんです。それでライバル意識に火が付き、頑張ることができました。

 ただ、受験勉強の出足の遅れが重圧になって、高3の後半には授業に出るのもつらい状況になりました。その時も、担任の先生が「授業がつらいなら出なくていい。できそうな気分の時にできることを」と言葉をかけてくださり、しばらくは自習室で一人で勉強していました。おかげでだんだん落ち着き、問題を解く感覚も戻って合格できました。

 
――数学以外の科目はどうだったのですか。

 英語が苦手でしたが、高2の春休みに出された課題のおかげで克服できました。共通テストの問題を単元ごとに小分けしたもので、生徒によって違う内容でした。20分ほどでできる量だったので毎日取り組むことができ、いつの間にか成績が上がりました。上野学園は教える技術が高い先生が多く、問題の解き方よりものの考え方を教えてくれます。おかげで塾に行くことなく受験対応ができました。

 2人の話に耳を傾けていた土屋教諭は、「将来につながる体験や、支えになる教員と出会ってくれたことをうれしく思っています。生徒にはいつも『自ら選んだ進路に根拠と誇りを持とう』と言っており、本校はそれができる学校だと自負しています。これからも、広い外の世界をワクワクしながら歩いていってほしい」とエールを送った。

 (文・写真:上田大朗)

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