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聞き手・田中ゑれ奈

 男性器を切断しても、しばらくすればまた生えてくる。取れた男性器は時にペットのように、時に誰かの分身として、女性たちに可愛がられている――。そんな世界を舞台にしたオムニバス漫画「それはただの先輩のチンコ」(太田出版)が、読み手の性別を問わず共感を集めている。荒唐無稽な物語がどうして生まれたのか、作者の阿部洋一さんに聞いた。

 ――なぜ「男性器が切断可能」という設定にしたのですか。

 僕の漫画は、始めからテーマが決まっているわけではなく、描いていく中で自分の内面を探るようなやり方です。「男性器が取り外せたらいいのに」という願望が自分の中にあったことも、この作品を描きながら発見しました。

 小さい頃は性器をそれほど意識しておらず、遊び道具か友達のような感覚でした。それが小学校高学年ぐらいになると、トイレで互いの性器を見てからかいあう空気があって。僕はもともと恥ずかしがり屋で、体育の着替えで上半身裸になるのもつらいほどだったので、性器を見られるのがとにかく嫌でした。

 中学校でも、トイレで一緒になると必ず性器をチェックしてくる子たちがいました。のぞき込まれて、小さかったり包茎だったりするとバカにされる。恐ろしくて、その人たちがいる時は、次の休み時間までトイレを我慢しました。

 修学旅行の大浴場でも、彼らはチェックをして回っていました。水風呂に隠れてやり過ごそうとしたのですが、そういう時に限って最悪の想像が膨らんでしまう。「もし勃起して、それを見られたらどうしよう」と考えたせいで本当に勃起してしまい、やっぱり見つかってからかわれた。以来、勃起した性器を誰かに見られること自体、すごく嫌だと思うようになりました。

男性性を期待されるのが苦しいと語る阿部洋一さん。記事後半では「性器」と「本体」の二者択一という、緊張感のあるテーマについても聞きました。

 漫画の中に、落ちていた男性…

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