デルタ株まん延の中で、いちばん不安なのは、高校受験を控えた受験生ではないでしょうか。
内申書(調査書)に出欠日数が記載されたり、私立高校では欠席日数が年間20日以下などの厳しい条件を課す学校もあります。
このような中で、文科省が受験生にコロナ関連欠席が不利益とならないよう教委・高校に求める通知を9月10日に出しました。
※文部科学省「令和4年度以降の高等学校入学者選抜における更なる配慮等について」(令和3年9月10日)
この通知は、令和3年度の高校入試への基本方針に上乗せする内容が追加されています。
※文部科学省「令和3年度高等学校入学者選抜における配慮等について」(令和2年5月13日)
以下、その5つのポイントを説明します。
ポイント1・高校入試でコロナ関連欠席(出席停止)した受験生に不利益が生じないように教委・学校は配慮せよ
そもそも大学入試は出欠日数で受験生の不利益とならない文科省方針
1番のポイントは以下の部分です。
高等学校入学者選抜等の調査書において出席等に係る日数(「出席日数」「出席停止・忌引き等の日数」「出席しなければならない日数」など)の記入欄を設けている場合には、臨時休業や分散登校、出席停止等に伴う当該欄への記載内容により、特定の入学志願者が不利益を被ることがないようにすること
要するに、臨時休校やコロナ関連欠席(出席停止)は、受験生の不利益にならないように高校側に配慮を求めています。
公立学校・国立大学付属校の場合には、この方針にしたがいますが、私立高校は志望校への確認が重要です。
また在籍する中学校への確認も必要です。
進路保障の妨げとなる場合には民事損害賠償請求の対象となりうるため、保護者が学校訴訟に強い弁護士さんに相談し交渉なさることも選択肢となります。
以下の記事もご参照ください。
※末冨芳「2学期に備えよ!受験は大丈夫?感染・濃厚接触による出席停止、#念のため欠席 #臨時休校 どうなる?」(2021年9月2日)
なお大学入試では、もともと出欠日数をもって不利益とならないルールを文科省方針として示していることも、わざわざ強調されています。
ポイント2:スポーツの大会や検定等が中止になった場合にも不利益にならないようにせよ
ポイントの2番目は、以下の部分です。
中学校等の部活動等におけるスポーツ・文化関係の行事、大会の実績や、資格・検定試験等の成績を入学者選抜において評価する際には、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するため中止、延期又は規模縮小等となったこれらの行事等に入学志願者が参加出来なかったことのみをもって不利益を被ることがないよう、参加することが出来た他の行事等における実績・成績を評価すること等の措置を講じること(令和2年5月13日通知)
私自身は、スポーツの実績のみで高校入試・大学入試を可能にしていることに強い懸念を覚えています。
漢字が読めない・書けない、スポーツの中で負ってきた心身の障害(体罰・暴言によるPTSD含む)、脳障害について十分なケアがされていない深刻な状況の学生たちに、私も日本大学で会ってきたからです。
しかしいまスポーツ・文化活動(主に音楽分野)に頑張っている中学生・高校生の進路が不利益を受けることのないようにという思いも同時に強いのです。
夏の甲子園で、新型コロナウイルス陽性で出場辞退をした高校のことを記憶されている方も多いかもしれません。
野球に限らず、スポーツの大会や吹奏楽コンクールが、デルタ株まん延の中で強行されるのは、中学生高校生の進路がかかっているためでもあります。
そのような高校・大学入試のあり方を問い直すのは、新型コロナウイルスが終息してからの課題にはなるかもしれません。
しかしいま重要なのは、高校入試については中学生たちの進路保障です。
大会や検定が中止された場合でも受験生の不利益にならないようにする、文科省の方針は妥当なものだと思います。
受験生のみなさん、保護者のみなさんは推薦入試等の出願にあたって、顧問や担任の先生に相談をためらわないでください。
ポイント3・高校入試ではいったん入試実施要項を定めたのちは教科・会場が不利益になるような変更をしないように
昨年同様に、出題範囲制限をする都道府県・高校も出てくる可能性
ポイントの3番目は以下の部分です。
地域における中学校等の臨時休業の実施等の状況を踏まえ、令和3年度高等学
校入学選抜等における出題範囲や内容、出題方法について、各実施者において、例えば以下のような方法により、特定の入学志願者が不利にならないよう、必要に応じた適切な工夫を講じていただきたいこと。なお、この例に限らず、各実施者の判断において、必要に応じた適切な工夫を講じていただいて差支えない。
(工夫の例)
・ 中学校第3学年からの出題は、地域における中学校等の学習状況を踏まえ、適切な範囲や内容となるよう設定する。(令和2年5月13日通知)
地域 の感染状況 が著しく深刻であるような場合を除き 、各実施者において定める入学者選抜実施要項 の公表後は、学力検査を実施する教科等の変更など、入学志願者に不利益を与えるおそれのある変更は行わないこと。
なお、感染 拡大 防止の観点から、試験開始時間や実技検査の方法、試験会場等の変更など、入学志願者に不利益を与えるおそれがない 変更 を行う場合には 、可能な限り早期に入学志願者への周知に努めること。
今年の入試についても昨年の入試と同様に、出題範囲制限をする都道府県・高校も出てくる可能性があります。
また新しく追加されたのは、いったん出題範囲制限等について定めた場合には、受験生の不利益になるような変更を行わないこと。
つまり出題範囲や教科を増やすようなことはしないように、と教委・学校に要請する内容になっています。
ただし2学期までの内容は原則として出題されるでしょうから、受験生のみなさんは、分散登校やオンライン授業の中でも、2学期の内容はしっかり取り組んでください。
日程や会場は感染状況次第ですが、昨年度と同様に原則予定通り実施し、感染者・濃厚接触者のための追試日程を設ける対応が、国公立高校では一般的になると思われます。
私立高校は追試日程を設けない高校もあると思われます。
まずは昨年度の対応を確認し志望校の入試要項を確認しましょう。
学校の先生方も多忙な日々の中で、学習内容や、入試日程等の確認・フォローアップに取り組まれることと思います。日々ご苦労様です、ありがとうございます。
ポイント4・PCR・抗原検査の陰性証明やワクチン接種の確認は、受験生にも入学者にもしないこと
4番目のポイントは、以下の部分です。
高等学校入学者選抜等の実施に当たって、PCR検査結果等の陰性証明や新型
コロナワクチンの接種を受検要件にしないこと。
また、入学志願者がPCR検査結果等の陰性証明を提出しなかったり、新型コロナワクチンを接種していなかったりしたとしても、当該事由をもってこれらの者が不利益を被ることがないようにすること。(令和3年9月10日通知)
PCR・抗原検査の陰性証明やワクチン接種の確認は、受験生にも入学者にもしないこと。
中学校・高校関係者のみなさまもどうぞお気をつけください。
中高生にもアレルギーや、保護者の強い反対などで、ワクチン接種をしたくてもできない若者がいます。
ポイント5・そもそも内申書(調査書)はミニマムな内容に精選せよ
5番目のポイントです。
文科省はそもそも、高校入試の内申書(調査書)は出欠日数を必須としておらず、ミニマムな内容に精選せよという方針を示しています。
それも1993(平成5)年度から、30年以上、ずっとこの方針が示されています。
なお、公立高等学校入学者選抜の調査書の記載事項については「高等学校入学
者選抜について」(平成5年2月22 日付け文初高第243 号文部事務次官通知)において、「高等学校入学者選抜の資料として、真に必要な事項に精選すること。」としているところであり、今後の調査書の検討に当たっては、入学者選抜の実施に真に必要な事項に見直しを図ること。また、私立高等学校における入学者選抜については、各私立学校及び私学団体の自主的改善努力を促しつつ、公立高等学校に係る上記記載の趣旨に即し、一層の改善を図ること。(令和3年9月10日通知)
なぜこのような問題提起がされているのでしょうか?
最後に問題提起:内申書支配でいいのか?文科省に言われても30年以上続く内申書支配の闇
中学校生活のすべてが内申書のための監視体制化
中学校、教委・高校は内申書支配の見直しを
広島県の取り組みに注目!
1993(平成5)年、学習指導要領改訂にもとづき、高校入試はそれまでのテストスコア重視から、「意欲・関心・態度」も重視する評価になりました。
これにより、意欲・関心・態度を評価するために、宿題や出欠日数、学校行事や部活への取り組みなどが中学校で、それまで以上に重視されることになったのです、
しかしそれは多くの中学生を苦しめることになっていたのではないでしょうか。
いまの40代前半より若い世代のみなさんには、中学校生活が、息苦しかった記憶がある人も多いのではないでしょうか?
宿題、出欠日数、学校行事や部活、中学校生活のすべてが内申書のための監視体制化となってしまうことは、1993年当時から教育学の研究者や、教員によっても批判されてきました。
文科省(当時は文部科学省)はこうした事態を憂慮して、1993(平成5)年に、内申書(調査書)をミニマムにという方針を出していたのです。
しかし30年以上、中学校と教委・高校は内申書支配を改めてきませんでした。
いまも多くの中学校は部活・行事、授業のフルスペックで頑張り、欠席のない生徒を高く評価することで、生徒集団のコントロールをしようとしています。
コロナの中でも部活をしてクラスターを発生させたり、対面授業にこだわりオンライ授業に対応できず慌てふためいている中学校も多いことでしょう。
このような中学校教育、高校入試の弱点がコロナ禍の中で明るみになったのです。
中学校、教委・高校はこれを機会に、内申書支配の見直しをせよ。
文科省のそのようなメッセージも隠されているのかもしれません。
高校入試について広島県の取り組みは注目されています。
調査書の内容を「名前、性別、学習の記録」だけとし、出欠日数の記載はなくなります。
また今年度から、中学校3年間の活動の記録については受験生自身が自己PR書に記載することとなったのです。
※教育新聞「推薦廃止、調査書も大幅見直し 広島県高校入試」(2019年9月18日)
オンライン授業も広がるウィズコロナ・アフターコロナの時代にあって、30年間停滞してきた高校入試や中学校は進化しなくていいのでしょうか?
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