【特集】生徒の英語への姿勢を変える創造的な授業…橘学苑 – 読売新聞

花のつくりとはたらき

 創造的な国際学習を柱に据え、実践的な英語力養成を行っている橘学苑中学校・高等学校(横浜市)は、中学1年からネイティブの教員を交えたチームティーチングですべての英語授業を行っている。さらに授業以外でも、ネイティブの教員が高校「国際コース」への進学指導や英検対策、オーストラリア研修の事前準備など、さまざまな場で創造的な教育を行い、生徒の英語に対する姿勢を積極的にしているという。その英語授業を見てきた。

ゲームやアクティビティーを楽しみつつ英語力向上

マカリ先生が指導する中1の英語の授業 

 同校は「グローバルマインドを育む学び」を教育目標の一つとし、中学1年からネイティブの教員と日本人教員のチームティーチングによる授業を行っている。その中で、中学1、2年生で週2時間、3年生で週3時間行っている「オーラル」の授業は、ネイティブの教員が主体となって授業を組み立て、ゲームやロールプレイを通して英語のコミュニケーション能力を高めていく。

 中学1年生の教室で6月10日、その「オーラル」の授業を見てきた。授業を行っていたのはアメリカ出身のクリスティン・マカリ教諭。教諭は、授業開始とともに次々とプロジェクターで黒板に出席番号の数字を映し出し、その番号の生徒3、4人に「今日は何日?」「曜日は?」「天気は?」と英語で質問していった。

 この質問が一通り済むと今度は、全員で立ち上がってゲームを始めた。マカリ教諭の質問に手を挙げて答えることができたら、じゃんけんをし、勝った場合は自分の席を含む縦、横、斜めのいずれかの列に立つ全員が着席できるルールだ。最後まで立ったまま残った生徒が負けとなる。「好きな教科は?」「家に本は何冊ある?」。繰り出される質問に答えるたびに生徒は、「やっと座れた!」「まだ座れない……」などと盛り上がっていた。

 質問の意味がなかなか理解できない生徒もいれば、すぐにその生徒をサポートする周囲の生徒もいて、生徒たちは一体となって授業を楽しんでいた。

 こうした授業についてマカリ教諭は、「さまざまなレベルの生徒に対応できる内容を心がけています」と話す。「特に中学1年生は、入学前に英語を学んだ生徒もいれば、学んでいない生徒もいます。そのため多様なレベルの内容を盛り込み、生徒一人一人が『今日は、この部分ができた』と実感でき、自信が持てる授業づくりを意識しています」

英語しりとりで発音をしっかり指導

中3の授業では、英語のしりとりが行われていた

 イギリス出身のスティーブン・ターナー教諭が担当する中学3年生の授業も見た。教室では、全員が立ち上がって英単語のしりとりをしていた。「orange→jet→tomato」などと単語を答えていき、答えられなかった生徒は着席する。ターナー教諭は生徒が答えるたびに、発音の仕方や、イギリス英語とアメリカ英語の発音の違いなどを説明する。生徒たちは単語が思いつかなくて苦労しながらも、楽しげに取り組んでいた。

 ターナー教諭は授業の眼目について、「日本の英語教育では付属的な要素になりがちな発音や、発音と
(つづ)
りを結び付けるルールであるフォニックスを、できるだけ盛り込むようにしています。例えば『Did you~』は『ディドゥ・ユー』ではなく『ディジュー』と読む。こうしたフォニックスをしっかりと説明していきます」と話す。「当校では毎学期、期末試験でスピーキングテストを行い、『
流暢(りゅうちょう)
・発音・文法・
語彙(ごい)
力』をチェックします。多くの生徒が1学期に比べ、3学期のスピーキング力が大きく伸びています」

 ターナー教諭の授業を受けた中学3年の清水
(そよ)()
さんは、「普通の英語の授業は、英文を書いたり教科書を読んだりすることが多いですが、ネイティブの先生の授業は話すことで発音が学べるし、覚えやすいと思います」と言う。同じく上田
(らい)
君も、「ネイティブの先生の授業はゲームが盛り込まれているので、楽しく勉強できます」と話した。

英語発表会や海外研修の準備もネイティブの教員が指導

クリスティン・マカリ教諭(左)とスティーブン・ターナー教諭

 2人の先生は、英語の授業以外にも、さまざまな場で生徒と関わっている。その一つが、毎年12~2月頃、英語学習の集大成として行う「英語発表会」だ。生徒は7~8月頃から準備を始め、学年ごとに英語劇や映画の吹き替えなどを全校生の前で披露する。発表の方法や内容は生徒が決めるが、その選択肢としてマカリ教諭とターナー教諭は多様なコンテンツを用意し、発表に備えて発音などを指導する。

 また、同校では中3生全員が、10日間のオーストラリア研修に参加し、一人一現地の家庭でホームステイをする。その際、ホストファミリーに日本文化を紹介できるよう、生徒はオリジナル英語カルタを作成するが、2人の先生はこうした事前準備もサポートする。

 くわえて2人は、高校の「国際コース」への進学指導にも携わる。実用英語技能検定3級の取得と英語の成績評定が4以上であることが「国際コース」の進学条件であり、2人は「国際コース」を希望する中学生を対象として、放課後に個別トレーニングを行っている。今年度も、英語の成績評定が2だった生徒が、ターナー教諭のきめ細かな指導を受けて、「国際コース」の進学条件をクリアできたそうだ。

 さらに今年度は、2人が中心となって、1年間に洋書を6冊読むプロジェクト「6ブックスチャレンジ」を開始した。図書館の洋書をレベル分けし、難度に応じて得点を設定する。生徒は本を読み、要約や感想を書いてマカリ教諭に提出することでポイントを獲得し、認定証を年度末に受け取る仕組みだ。優秀者には表彰もある。

 ほかにも英検対策や、英語圏への留学に必要な英語熟練度を測る「IELTS」の対策として面接指導を行うなど、ネイティブの教員は年間を通じて多様な場面で指導にあたる。

 これらの指導を通して生徒が経験する成長について、マカリ教諭は、「英語発表会では、生徒は『授業で習った文法は、こう使うんだ』など、劇や映画を通して自分の学んだ英語が実際に使えることを経験します。さらに、一人で頑張って英語を勉強するだけでなく、チームで成功するために自分は何をすべきか、どうやって勉強すべきか考える姿勢も身に付いていきます」と語る。

ネイティブの教員との授業について話す上之原教諭

 また、2人とチームティーチングを行っている上之原真一教諭は、生徒の英語に向き合う姿勢に変化を感じている。「生徒はとても積極的で、授業後、ネイティブの先生を質問攻めにすることもあります。その姿を見ると、『英語が正しいかどうか』ではなく、『とにかく英語を話そう』という姿勢や、黙ってその場をやり過ごすのではなく、自分の意見をしっかり話そうとする姿勢が養われていると思います」と語った。

 ここ数年、マカリ教諭とターナー教諭は、「英語を通して新しい出会いを経験してほしい」との思いから、教科や学年を横断した取り組みを意欲的に行っている。昨年度は総合的な学習の時間に、英語を通して手話を学んだり、理科の実験や手芸を行ったりする特別授業を行った。

 こうした取り組みについて上之原教諭は、「特別授業を経験することで、生徒の世界が広がると同時に、生徒にとって英語が目的ではなく、夢をかなえる手段になってほしいと思っています」と語る。「そのためにも、今後も引き続きネイティブの教員を主体とした授業やアクティビティーを行い、生徒が英語のシャワーをたくさん浴びて、多様な経験ができる時間を工夫していきたいですね」

 (文:籔智子 写真:中学受験サポート)

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