「私の青春は虎ノ門ヒルズにあるんです」 大手企業のアドバイザーも務めた“高校生起業家”の意外な日常 – ニフティニュース

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「義務教育を無駄にするのは人間失格」1年で1000万円稼いだ”小学生投資家”の日常 授業中はスマホでトレード、朝は5時起きで相場をチェック… から続く

 高校3年生にして、事務所を構えるのは東京都港区にある虎ノ門ヒルズ。ヤフー株式会社の事業プランアドバイザーも務めていた高校生実業家が、中澤治大さん(17)だ。

 中高生向けのキャリア教育を行う会社を2020年12月に17歳の時に友人と起業。今は会社、実家、ホテルを行き来する忙しい日々を送りながら、慶應大学への進学も目指すという「正統派の天才高校生」だ。そんな彼はいま、どのような日常生活を送っているのか――。本人に詳しく話を聞いた。

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■目標を持つことの価値に気づいてもらうための支援活動を

――現在はどのような仕事をしているのか、教えてください。

中澤 いまは高校3年生ですが、株式会社Unpackedという会社で、主に18歳以下の中高生を対象としたキャリア教育事業を行っています。専門的には「アクティブラーニング」と呼ばれる学習方法に関する事業です。簡単にいえば、勉強であれ、部活であれ、仕事であれ、「どのように目標設定をして、行動し、達成すべきか」を意識的に行う能力を鍛えることを目標とした事業です。

 例えば大人になってからピアニストを目指すといっても難しいですよね。ビジネスも同じで、ITスキルなどは小学生など習得時期が早ければ早いほどいい。そのためにはまず目標を持つことの価値に気づいてもらわなければならない。その支援活動をしています。具体的には「U-18キャリアサミット」というイベントを年2回ほど行っていて、前回6月に行った際には1000人以上の中高生が参加してくれました。TV東京コミュニケーションズともタッグを組んで開催しています。

 また、課外授業の一環として、同志社中学校や立命館高校、広尾学園高校でU-18キャリアサミットを学生に紹介してもらっています。また、同志社では「課外」の授業で講師を務めていました。過去には別の会社で外国人の人材派遣業をやったり、酪農アプリをリリースしたりと、色々なビジネスを経験してきました。

■不登校の時に知ったN高の存在

――ビジネスに興味を持つきっかけは何だったのでしょうか。

中澤 中学3年生の時に家出をしたのがきっかけです。両親が離婚したことをきっかけに、ずっと都内で母と一緒に住んでいたのですが、思春期のはずみで家を飛び出してしまいまして…。どこにも行く当てがなかったので、千葉にあった父の家に居候することになったんです。ですが、それまで通っていた学校も遠くて通えないので不登校になり、やることもなく、どん底の状況でした。

 学校に行かない私を見て、父が家庭教師をつけてくれたのですが、勉強には全く身が入らず、どうしようかと思っている時に知ったのがN高の存在でした。調べてみたら、当時堀江貴文さんが顧問をやっていた「起業部」の存在も知り、そこでようやく「高校生起業家になるぞ」という目標ができました。自分も目標を持てない生徒の一人でしたが、この時に人生が大きく変わりました。

■「高校生なんですけど、雇ってくれませんか?」

――中学生がいきなり「起業家になりたい」という目標を持っても、なかなか一歩目を踏み出すのは難しいですよね。

中澤 おっしゃる通りです。無事にN高に入って起業家になりたいとは思ったものの、ビジネスについては何も知りませんでした。そこで高1の時、元学生起業家が始めたベンチャー企業を調べて、会社前で社長の出待ちをしたり、オフィスに電話して「高校生なんですけど、雇ってくれませんか?」とアプローチを始めたんです。

 今では経営者の立場になったので気持ちがよくわかりますが、当時はすごく胡散臭がられました(笑)。ただ、私の場合は運よく2社ほど話を聞いてくれ、そのうち1社でインターンをさせてもらえることになったんです。でも、いきなりこんなことをやれといってもハードルが高いですよね。だからこそ「ビジネスをやってみよう」という目標を持った中高生が、私のような大変な思いをせず、もう少し楽に一歩を踏み出せる環境をつくりたい。そんな気持ちがU-18キャリアサミットをはじめたきっかけでもあります。

■深夜に顧客データをめちゃくちゃ分析して、昼に営業を

――周りで働く人の多くは成人ですよね。「高校生」ということで、どんな風に見られることが多いですか?

中澤 初対面の時はやっぱり、「変なやつが来たぞ」みたいな目で見られることが多いですね。面白がられることもありますが、基本的には「しっかり仕事ができるのか」という感じ。やっぱりなめられることが多いとは思います。先ほど挙げたインターンの時も、周りは全員大人のなかで私だけが高校1年生。経験や特別なスキルがあるわけでもないので、深夜などの勤務時間外に顧客データをめちゃくちゃ分析して、それをもとに昼に営業をやっていました。このあたりの時間の使い方は、N高だからできたことでもあると思います。当時、睡眠時間は2〜3時間ぐらいだったと思います。それで少しずつ成果が出てきて、インターン先のアプリ開発を自分で行うようになり、その後は現在もやっている2つの会社を立ち上げるに至りました。

 高2の秋にはヤフーの事業プランアドバイザーになり、ひろゆきさんも同時期に在籍していました。今のPayPayモールのeコマース事業について、事業部長に「どうやったら流動性の高いサービスを提供できるか」等をアドバイザーとして提言していました。

■物欲についてはもともとあまりないんですよね

――金銭面で言えば普通の高校生よりもはるかに多くの額を稼いでいることになると思います。普段はどんな生活を送っているのですか?

中澤 特に派手な生活を送っているわけではありません(笑)。物欲や食欲については、「この服が欲しい」とか「このご飯が食べたい」とか「遊園地に行きたい」とかもともとあまりないんですよね。父のおかげで物質的にはかなり恵まれた生活を送っていたので、根本的に欠乏感がないんだと思います。

 仕事を始めてからは、もちろんお酒は飲みませんけど、色々な企業の人たちと「会食」をする機会もあります。なかにはいわゆるパリピっぽい人たちもいましたが、特にその生活に惹かれることはありませんでした。仕事をする上での快適さを得るためには、お金は惜しみなく使いますが…。今はもう反抗期も終わって母とも仲直りしているので、週の半分は母が住む都内の実家にいて、半分はホテル暮らしです。仕事に集中していると、つい終電を逃してしまうこともあるので。

■私にとっての青春は、ここにあると思っています

――同年代の高校生が、楽しそうにいわゆる“普通の学校生活”を送っているのを横目に見ると、羨ましく感じることはありませんか?

中澤 めちゃくちゃ羨ましいですよ(笑)。ただ、それはまぁ…ないものねだりだと思っています。普通の高校生からしたら、高校生のうちから起業している自分が羨ましく見えるでしょうし、「隣の芝生は青く見える」というか、それは互いにあるでしょう。

 現在、会社の社員は8人ですが、私を含めて6人が高校生です。みんな昼間は普通に高校に通っていますが、放課後になるとヒルズに続々と出勤してきます。仕事自体はリモートでどこでもできますが、私にとってはオフィスが仲間に会える学校のような場所です。オフィスにはニンテンドースイッチや卓球台があって息抜きにみんなで楽しめますし、シャワーもあるので快適なんです。私にとっての青春は、ここにあると思っています。

■「やりたくないことをやってお金を稼ぐ」世の中を変えたい

――教育事業を手掛けているということですが、現状の日本の学校教育についての意見を聞かせてください。

中澤 私が憧れるのは、「ビジネスの経験値」と「アカデミックな専門知識」、「政策的な視野の広さ」の3つを兼ねそなえた人間です。自分が今熱中しているのは統計学ですね。いわゆる学校でのテストの点数では測れない、目標の立て方や、計画遂行能力などを含む「非認知能力」を定量化するためには統計学の知識が必要で、そうなると数学的知識はもちろん必須です。理科の実験を通した実証プロセスもめちゃくちゃ参考になります。先人の考え方や思想を知る上で、国語や社会も欠かせません。私自身、点を取るためだけの勉強には全く身が入りませんでしたが、義務教育の内容には圧倒的に価値があると思います。ただ、その価値を高められるかは、本人に目標があるかどうかにかかっているでしょうね。

 特に教育分野は「自分がこうだったんだから、今後も●●するべきだ」と、経験で語られがちです。でも、教育の分野であっても、その効果は経験則ではなくデータで語るべきだと思っています。だからこそ、しっかりと効果を測定するために、統計学を学ぶ必要がある。慶大SFCの中室牧子教授が同様の研究をしているので、自分も今後は慶大で教育経済学の分野を極めたいと思っています。

――高校生にしてそこまでビジネスにのめりこむ…そのモチベーションはどこにあるのでしょうか。

中澤「やりたくないことをやってお金を稼ぐ」という生き方はストレスが溜まりますよね。でも、実際にはそうしなければ生活できない人が今の世界にはたくさんいる。そんな世の中を変えたいと思っています。例えば他の若手起業家に多いように、SNSを活用して情報商材を売るなど「個の力」を高め、世界に影響を与える方法もあるとは思います。ですが、ベンチャー界隈にいる私としては、ソーシャルビジネスとして「やりたくないことをやらなければ生きていけない」という社会を変える起業家になりたいと思っています。

撮影=上田康太郎/文藝春秋

(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))

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