言葉の力、家庭で養おう 国語力向上へ「話す」「聞く」|あなたの静岡新聞 – @S[アットエス] by 静岡新聞

花のつくりとはたらき

 「国語の力は全ての教科につながる」。子どもの読解力低下が指摘される中、国語の基本を学ぶ小学生の保護者はこんな重圧を感じながら学校の授業や宿題、民間教育に臨ませているだろう。夏休みの今は読書感想文が頭痛の種かもしれない。国語力向上へ家庭では何ができるのか。東京都公立小学校教諭の経験がある常葉大保育学部講師に助言を求めた。

国語力向上に向けた家庭での取り組みについて講話する増田泉さん=静岡市葵区の市藁科生涯学習センター

教科書を音読する山本綾加さんの子どもたち=静岡市葵区

 「国語、特に読解力に不安を感じる。家庭ではどう導けばいいのか…」。静岡市葵区の主婦熊沢映奇枝[あきえ]さん(50)は小学2年生のわが子が教科書の音読を苦手とすることを課題に挙げた。国語はもちろん算数の文章題を解くにも問題文を最後まで正確に読み、理解できなければ始まらない。音読に加え、国語の学力向上へより良い実践方法が知りたいという。


 「家庭でできることはある」と励ましたのは常葉大保育学部の増田泉講師(国語科教育)だ。同市葵区の市藁科生涯学習センターの講座に招かれ、公立小中学校で計24年間、国語指導の最前線に立ってきた経験から実感を込めて語った。


 2020年度から新学習指導要領に基づく授業が全面実施された小学校。国語科の目標は改訂前の「国語を適切に表現し正確に理解する能力」から「国語で正確に理解し適切に表現する資質・能力」とされ、まずは見て聞いて、読んで理解することが重視されたとみられる。


 経済協力開発機構(OECD)による国際学習到達度調査(PISA)など国内外の公的調査で読解力の低下が危惧される一方、ICT(情報通信技術)の発達に伴い、対面に限らない、意思疎通の手段が多様化している時代。文章から①情報を整理して②理解し③(自分の考えを)表現できる国語力が求められている。 国語力向上への土台となるのは語彙[ごい]の豊かさだ。増田さんは「言葉の力の素地を家庭でつくってほしい」と、量と質の両方を充実させる三つの実践方法を最初に説いた。

 実践1 したことを話す経験をさせる


 保護者は一日を振り返る時間を設け「何を話してもいいよ」と良い聞き手になる。格好の話題は給食。楽しそうな一品から会話を始め、色や形、数、感想を聞き、子どもの話をただ受け止める。保護者の感想は話さない。保護者が聞くことに徹することで子どもも「聞く」力をつけ、「話す」力に発展する。するとますます言葉は増える。

 実践2 読み聞かせを続ける


 書店や図書館に足を運び、新たな言葉に出合う機会をつくる。1年生はまだ保護者に絵本を読んでもらいたい時期。本人がたどたどしく読むのと全く違う世界が描けるという。過剰演出は不要だ。子どもなりに想像を膨らませ、理解しようとしているのを邪魔せず、淡々と読む。補足説明も感想を聞くのも無用。「『どう思ったの。面白い、それだけ?』なんて聞かれたら読んでもらいたくなくなる」

 実践3 言葉遊びを楽しむ


 カルタやしりとり、早口言葉、回文、辞書引き競争などがおすすめ。正月や七草、節分など季節の行事は食とともに楽しめる。

 国語力向上には、語彙力と同時に、論理的に(筋道を立てて)思考し、自分の考えを表現する力を身に付ける必要がある。そこで、実践4は理由を話させる。論理的思考力を鍛えるには、保護者が資料に付箋を貼るなど情報を整理する姿を子どもに見せるのも効果的。時々は一緒にさまざまな「論理クイズ」を実践する。その一例「三つのヒント」は「丸い、甘い、最初にリがつく」と三つのヒントを順に与え、答え(=リンゴ)を絞り込ませる。


 「四文スピーチ」は論理的思考力に加え、表現する力も養う。「はじめ」であらまし、「なか1」で具体例、「なか2」で二つ目の具体例、「まとめ」で具体例に共通する感想を話させる。例えば「昨日公園に行きました。ブランコに乗りました。すべり台もしました。楽しかったです」。1年生から型として体得させる。上達するにつれ「まとめ」は単なる感想ではなく、自分なりの考察を述べるようになる。


 この型で400字の作文も書ける。具体例二つはそれぞれ一段落に収めるよう徹底させるのが肝要だ。高学年に進むと例えば図書委員長に立候補する際、「私は図書委員長になりたいです。理由の一つ目は○○。二つ目は○○。選ばれたらみんなのためにがんばりたいです」と主張ができる。読書感想文にも応用できる。作品の中から「特にいいな」と思う2カ所を選んで詳しく書かせるのがこつだ。


 もちろん教科書の音読は「本当に学力が上がる」と増田さん。国語に加え算数も社会も理科も音読させるといい。難しい言葉に出合って詰まったら、保護者がフォローする。漢字の練習は「数より質」を心掛ける。数回書いて書き方が分かったら、例えば「行」は「銀行」「行事」などと使い方を学ばせる。増田さんは「国語力を向上させるのに、遅過ぎるということはない。今からが本当に大事」と強調。保護者の奮起に期待を寄せた。

 ■読解力 低下傾向


 子どもの読解力を巡っては、全79カ国・地域が参加した2018年の国際学習到達度調査(PISA)で、日本の高校1年生は過去最低の15位(平均点504点)。前回(15年)の8位(同516点)より大きく下げた。


 国内の中高生ら約2万5000人の基礎的読解力を調査した国立情報学研究所教授の新井紀子氏は自著「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」(東洋経済新報社、2018年)で、中高生の多くが中学校の教科書の文章を正確に理解できないとした。


 新学習指導要領の方向性を示した16年中央教育審議会(中教審)答申は「小学校低学年の学力差の大きな背景に語彙[ごい]の量と質の違いがある」と指摘している。

 ■保護者「隙間時間に」「季節感意識」


 増田さんの講座を受講した保護者に、国語力向上のために実践していること、今後挑戦したいことを聞いた。


 小学4年生の長女をはじめ3人の子どもを持つ静岡市葵区の会社員山本綾加さん(38)は毎日、風呂上がりの娘たちの髪を乾かしながら絵本を読み聞かせている。


 仕事と子育ての両立で忙しいが時間を捻出。ドライヤーの音量でかき消されないよう、大きな声を出す。「国語力は全ての勉強に必要。仕事を終えて疲れているけれど、子どもたちが読書好きになり、言葉の数が増えてくれればうれしい」と話す。


 新たに始めたいのは、講座で挙げられた論理クイズ。隙間時間である、車での移動中に挑みたいという。


 同市葵区の主婦田中美名子さん(45)は小学1年生の娘には幼稚園時代、遊びに集中させてきた。国語の授業の進度が速いと感じ、心配していたが、順調に文章は読めるようになった。今後は、七草がゆなど季節の行事を大切にして言葉遊びを楽しんだり、一日を振り返る話や現在「させっぱなし」の音読をしっかり聞いたりして、娘を支えたいという。

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