【特集】学びの裾野を広げ、バランスのよい人間形成目指す…獨協 – 読売新聞

花のつくりとはたらき

 獨協中学・高等学校(東京都文京区)は今年度、同校の卒業生で獨協医科大学1期生でもある上田善彦氏を第23代校長に迎えた。上田校長は、創立以来138年に及ぶ人間教育の伝統を受け継ぐ一方、系列の獨協医科大や医療現場と連携した体験的な学びやグローバル教育など、新たな試みを進めている。上田校長の考える教育の理想や同校の今後の展望などを聞いた。

他者を認め、敬う基本としてあいさつを励行

同校OBで、獨協医科大学1期生でもある上田校長

 同校は1883年の開校以来、「知育・徳育・体育」の三育を教育の基本に据え、第13代校長天野貞祐氏の就任以降は、「学問を通じての人間形成」を教育理念に掲げてきた。上田校長は、これらの教育理念を受け継ぎ、「知識偏重の教育ではなく、学問を通じて、知性や論理的思考、そして哲学や芸術を含めた人文科学的な感性をバランスよく培い、豊かな精神と体力を持った人間を育てていきたい」と語る。

 「生徒には、他者があってこそ自分があることを知り、他者を敬い、適度な距離を持ちながら互いの価値観を認められる人になってほしいですね。最近は他者を攻撃する人も多く見られますが、社会で生きていくうえで他人を敬うことは非常に大切です。その第一歩として、生徒には学校でも家庭でも、きちんとあいさつをするよう指導しています」

 上田校長は就任以来、毎朝校門に立ち、生徒たちに「おはようございます」と声をかけている。また、生徒が気軽に出入りできるように校長室のドアを開放しており、最近では帰りがけに校長室を訪れて、「今日も一日、おつかれさまでした」とあいさつして帰る生徒もいるという。

 「あいさつは他者を認め、敬う基本です。本校は社会のリーダーとなる人間の育成を目指し、これまで医学界や法曹界、教育界などに多くの人材を輩出してきましたが、どの世界でもあいさつはとても重要であり、コミュニケーションの基本となります。そのため、生徒には自分からきちんとあいさつできる人になってほしいと思います」

大学や医療現場と連携して学びの裾野を広げる

獨協医科大と連携した体験学習に参加する生徒たち

 上田校長はこれまで、獨協医科大学及び獨協医科大学越谷病院(現・獨協医科大学埼玉医療センター)の病理学教授や、獨協医科大学附属看護専門学校三郷校の校長などを務めてきた。その経歴を生かし、今後はこれまで以上に獨協医科大や獨協大との連携を深めていきたい考えだ。

 2022年度からは、獨協医科大学へ獨協埼玉中高と合わせて10人の系列校推薦枠を新設するという。また、今後は大学だけでなく医療の現場とも連携し、医師を目指す生徒も、そのほかの生徒も、さまざまな体験ができるようにと模索している。

 「本校には医師を目指す生徒も多いですが、医師には臨床医以外にも病理学や微生物学など基礎医学の研究職もありますし、一口に解剖といっても、法医解剖や病理解剖など、さまざまです。そこで、大学で実験を見学したり、基礎医学について学んだりするほか、実際の医療現場で手術を見学したり、患者さんの話を聞いたりするなど、さまざまな体験の機会を設けていきたいと考えています。現在はコロナ禍で見学などが難しい状況ではありますが、まずオンラインで可能なものは進めていきたいですね。さらに、医学だけでなく、自然科学や理科など多様な大学の講義を生徒が受講できるようにし、学びの裾野を広げていきたいと思っています」

 また、グローバル教育の推進も大きな目標の一つだ。同校はドイツ文化の移入を目的に創立された独逸学協会を母体としており、開校以来、海外を見据えた学びを進めてきた歴史がある。現在も中3~高2の希望者を対象に、約2週間のドイツ研修旅行を実施しているほか、アメリカ・シアトルでのホームステイやイエローストーン・サイエンスツアー、ハワイでの修学旅行など、さまざまな海外研修の場を設けている。

 「海外など多様な場所で経験を積むことで視野が広がりますし、海外の人と話をすると、日本の歴史や文化について知らないことが多いと気付かされます。そのため海外研修などでグローバルな視点を養うと同時に図書館と協力し、生徒が本を通して視野を広げる機会を今まで以上に増やしていきたいと考えています」

教員と生徒の距離の近さを生かして進路をサポート

卒業生による講演会

 生徒たちの進路指導について、同校の卒業生でもある上田校長は、「生徒と教員の距離が近いこと」が大きな役目を果たすと考えている。この特徴を生かすことで、中学校では教員が生徒一人一人の個性を見極め、5教科すべてを満遍なく伸ばしていきたいという。さらに高校では、「どういった方向に進みたいか、自分には何が向いているのか、将来どのような仕事に就きたいかなど、生徒一人一人に合った道を探すサポートを行いたい」と上田校長は語る。

 「時折、『学部はどこでもいいから、〇〇大学に行きたい』という生徒や保護者の方がおられますが、理系と文系では将来進む道が異なりますし、文系でも語学と文学では学ぶ内容が異なります。大学に入ることを目的にするのではなく、大学の先にある道を、中高6年間を通して、生徒と教員が共に見つけていきたいと考えています。進路指導部や情報センターなど学校一体のサポート体制を充実させ、例えば、『将来バイオ関係の仕事に就きたいならこの大学に進学するといい』『弁護士を目指すならこの大学で学ぶといい』といった進学情報を提供し、これまで以上に生徒の夢や目標をかなえていきたいと思っています。そのうえで、国公立大学や難関私大の合格率を伸ばしていきたいですね」

 上田校長は、生徒と教員の距離が近いだけでなく、生徒同士のつながりや卒業生との絆も深いのが同校の特徴だと言う。卒業生が同校で講演を行ったり、部活の試合の応援に来たりするほか、さまざまな大学の医学部に、同校の出身者が集い、
研鑽(けんさん)
を深める「獨協会」があるそうだ。

 「本校の生徒は愛校心が強く伸びやかで、私自身、獨協で学んでよかったと感じています。実際、獨協ならではの校風に引かれ、親子2代あるいは3代にわたって本校で学ぶ方々もいます。今後も伝統を守りながら、大学や医療現場との連携など新たな試みを進め、『獨協に来てよかった』と思っていただけるような学校をつくっていきたいと思っています」

 (文:籔智子 写真:中学受験サポート 一部写真提供:獨協中学・高等学校)

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