【特集】新たなキャリアデザイン教育で未来を生きる力育む…近大附属 – 読売新聞

花のつくりとはたらき

 近畿大学附属高等学校・中学校(大阪府東大阪市)は昨年度、中学の「総合的な学習の時間」を活用した「総合表現」と「総合探究」の両プログラムをスタートした。「実学教育」「人格の
陶冶(とうや)
」という建学の精神に基づいて進められてきたキャリアデザイン教育を集約し、ICTの活用によって深化させた内容となっているという。2年目を迎えた両プログラムの現状と展望について聞いた。

学年ごとに取り組む「表現」と「探究」のプログラム

「探究プログラムを通じての生徒の成長に期待しています」と言う志船教頭補佐

 同校は、今年度からの新学習指導要領実施に先駆けて2020年度、キャリアデザイン教育にICT教育を融合させた21世紀型思考力の育成に取り組み始めた。
志船(しぶね)
八郎教頭補佐によると、それをカリキュラム化したものが、昨年度、中学の「総合的な学習の時間」を活用して開始された「総合表現」と「総合探究」というプログラムだという。この二つの授業を通して、知識・技能、思考力・判断力・表現力、学びに向かう力・人間性など、新しい時代に求められる力を育む考えだ。

 両プログラムはそれぞれ週1コマの学習時間が設定されており、学年ごとにステップアップできるように構成されている。

 「総合表現」では、高校で取り組む卒業論文制作に向けて、中学1年生から言語活動のトレーニングに力を入れる。中1で文章作成の基礎を学ぶ「文章トレーニング」、中2で「新聞作成」、中3で自分史を作成する「MY STORY」に取り組む。

 中2の「新聞作成」は新聞社の指導を受け、本格的な紙面づくりにチャレンジする。クラスごとに一つの面を担当し、グループに分かれて企画から取材、写真撮影、記事作成、レイアウトまで生徒たちの力でやり遂げるという。志船教頭補佐は、「生徒独自のユニークな切り口の記事も見られ、読み応えのある新聞が完成しました」と語る。「生徒たちも完成度の高い成果物を目にして、大きな達成感を感じているようでした」

総合表現の授業で中2生が一から作り上げた本格的な新聞

 中3の「MY STORY」は文章表現の集大成として、自身の過去を物語形式でつづる。過去を振り返る過程を通して、人生について考える機会を提供しているという。

 「本校の約6割の生徒が近畿大学に進学しており、附属推薦入試では8000~1万字の論文作成が課されます。『総合表現』では、この論文作成に必要な力をしっかりと養います」と、志船教頭補佐は話す。

 「総合探究」では、身近なことから社会、さらには世界までを、つながりの中で考え、発信するプレゼンテーション能力を育成する。

 中1で「自校教育・SDGs(持続可能な開発目標)探究」、中2で「人物探究」、中3で「企業探究」に取り組む。中1の「SDGs探究」では、近畿大学総合社会学部の先生とゼミ生の協力を得て、世界の国・地域が抱える問題を学び、その解決策を考えて発表する。志船教頭補佐は、「世界にはさまざまな国・地域があり、それぞれに多様な問題があると知るために、SDGsはとても良い教材となります。まず知識を得た上で、世界の課題を自分ごととして考えられるようになってほしいと考えています」と、その狙いを説明する。

 中2の「人物探究」では、著名人の人生を題材にドキュメンタリー作品を創作する。中3の「企業探究」では、企業が社会に生み出す価値を探究し、人が大切にしている価値観、仕事をすることについての考えを深めていくという。

 両プログラムに含まれるキャリアデザイン教育の要素は、2013年に高校、14年には中学でも実現した1人1台のiPad活用により、サポートされている。入試企画部長の原隆博教諭は、「リポート作成や調べ学習、データの共有など、さまざまな場面でICT機器が活用され、本校におけるキャリアデザイン教育の取り組みは深まってきました」と語る。

 依然、終息の兆しの見えないコロナ禍の中でも、整ったICT環境をフル活用して、両プログラムは順調に進められているという。

建学の精神に基づいた探究的な学び

「ICT機器の活用で、キャリアデザイン教育の取り組みは深まってきました」と話す原教諭

 「近畿大学の建学の精神である『実学教育』『人格の陶冶』に基づき、社会に貢献できる力と人間力を育てるのが本校の教育目標です。この目標の実現に向けて、偏差値を重視する学力の育成にとどまらず、社会に出てから必要となる力を早い段階から身に付け、自分の人生を設計する力を磨いていかなければならないとの考えからキャリアデザイン教育の取り組みが始まりました」と、原教諭は説明する。

 同校の探究的な学びは、新しい時代を生き抜く力を育てるキャリアデザイン教育への取り組みの中で2011年にスタートした。各教科の授業で、書く、調べる、話し合う、まとめる、発表するといった多様な力の育成を意識した教育が行われるようになった。原教諭自身、「私が担当する理科の授業では、実験の手順を一から説明せずに生徒に考えさせる、提出されたリポートを添削して再考させるなどの取り組みを行いました」と話す。

 16年には、答えのない課題について考え、表現する力を育成するためのプログラムとして「企業探究」の取り組みをスタートした。実在する企業からのミッションをチームで解決し、最終的にはチームの意見をまとめてプレゼンテーションする。初年度は希望者のみを対象としたが、翌年度は一部のコースの中3生全員に対象を拡大、19年からは全コースの中3生がこのプログラムに取り組んできた。

取り組みを通じての生徒の成長を実感

タブレット端末を活用して行われる探究学習

 「総合表現」と「総合探究」のプログラムは、こうした探究的な学びを集約し、さらに深化させることを目指して設定されたものだ。「生徒の未来に生きる力を養うという、これまでも取り組んできたキャリアデザイン教育の考え方を受け継いだプログラムになっています」と、原教諭は話す。「社会や自分についてしっかりと考える経験は、自分の未来を設計する力につながります。たとえば、大学の志望校・志望学部を決めるとき、これらの探究活動を通じて自分の人生について考えることの大切さが分かっていれば、何を大学で学んで、どんな人間になるのかという視点で選ぶことができるでしょう」

 志船教頭補佐は、「新聞作成や企業探究での学校外の大人との関わりの中で、現在の学びが社会や企業での仕事とつながっていると生徒たちは実感できます。中高での学びが将来、社会や企業で活躍するための土台となることが分かれば、学習への意欲も高まるはずです」と語る。

 プログラム開始から2年目の今年、すでに生徒の学習姿勢には変化が見られるという。原教諭は、「普段の授業でも、リポート作成に慣れ、人前で発表することに抵抗がなくなっています。グループでの協働作業でも自然と役割分担ができるなど、生徒たちの成長を感じています」と話す。

 志船教頭補佐も「昨年、探究学習に取り組んだ生徒が次年度の課題に取り組む様子を見ると、話し合う、考えるといったスキルが確実にアップしていると担当者から聞いています。中1から探究学習に取り組んだ生徒たちが3年になった時にどんな成長を見せるのか、今から楽しみです」と期待している。「現在のプログラムは良い形で構築できたと思っていますが、時代や社会の変化、生徒の取り組み状況などに応じて、さらに磨き続けていく必要があるでしょう。中学教員全員がファシリテーター研修を受講するなど指導する側のレベルアップも図っており、学校全体で探究学習を推進していきたいと考えています」

 (文・写真:溝口葉子 一部写真提供:近畿大学附属高等学校・中学校)

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