地方からの海外大学進学を決めた3人の高校生
いま、海外の名門大学に合格した3人の地方高校生が話題になっています。3人の合格ストーリーとともに、地方から海外大学進学を実現することの難しさや、最近の海外大学進学トレンドについて紹介します。
(1)茨城県の公立高校からハーバード大に合格! 松野知紀さん
一人目は、茨城県立日立第一高等学校から、ハーバード大、カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)や、ペンシルベニア大などに合格した松野知紀さん。
松野さんは、中学1年生のとき、ALT(外国語指導助手)の先生とのコミュニケーションで英語の楽しさを知り、中学2年生になると自らインターネットで調べて航空券を予約し、オーストラリアのシドニーに留学しました。高校進学後には、茨城県教育委員会が主催する「次世代グローバルリーダー育成プログラム(NGGL)」に応募。東京マラソンの英語通訳、ディベート大会の審査員などに参加しました。
高校1年生では、「模擬G20サミット」に日本代表として参加。2年生では「G20サミット公式付属会議・Youth 20サミット」に日本代表として参加するなど、課外活動に積極的に取り組みました。同時に、オンラインでのTOEFLの勉強や、SATというアメリカの高校生が受ける共通テストの勉強もネットで参考書を購入して解くなど、入試対策も進めました。
BBCの英語ニュースを毎日読んだり、英文を書いてALTの先生に添削をしてもらったりして、合格率3〜4%の難関を見事突破しました。
(2)徳島県からスタンフォード大に合格! 松本杏奈さん
二人目は、徳島県の私立、徳島文理高校からスタンフォード大、カリフォルニア大バークレー校などに合格した松本杏奈さんです。
松本さんは、幼少期からコミュニティになじめない感覚があったそうで、「アメリカだったら自分を認めてくれのでは?」という希望から、高校2年生の夏に海外トップレベルの研究者が次世代の育成を行う「アジアサイエンスキャンプ」に参加。
そこで出会った同世代たちの意識の高さに衝撃を受け、海外大学受験をめざし始めたそうです。自信がなかった英語の勉強に加え、東京大学が行なっている「東京大学グローバルサイエンスキャンパス」に参加し、国立情報学研究所の研究プログラムにも通いました。高校3年生になってからは芸術活動をしながら、自分で立ち上げた研究プログラムも並行して取り組んだそうです。結果、アメリカの6大学に見事合格しました。
(3)茨城県から清華大学・北京大学に合格! 阿部愛琳(あいりん)さん
三人目は、茨城県の私立、茨城高校から清華大学、北京大学などに合格した阿部愛琳(あいりん)さんです。
イギリスのタイムズ・ハイヤー・エデュケーションによると、清華大学は世界大学ランキングの20位、北京大学は23位と、日本の東大36位、京大56位よりも上位です。清華大学は「中国のMIT」と呼ばれ、習近平国家主席、胡錦濤元国家主席の出身校としても知られるアジアのトップ校、北京大学はアジアの大学ランキング2位の大学です。
阿部さんは、中学生からアメリカ、カナダなどで短期留学をくり返して英語を習得。中国語は語学教室や中国人の母親から学んだそうです。オンラインで受験して、中国の25大学に合格しました。
地方からの海外名門大学進学、都心との3つの教育格差
地方高校生の海外大学合格が話題になっているのは、まさに「地方」ゆえといえます。なぜなら、地方から海外の大学に進学するには都心と比較して大きく3つの格差があるからです。
(1)進学に関わる好条件は東京一極集中
海外の大学に進学する1つ目のハードルは、地理条件の格差です。海外大学進学実績の高い高校、予備校は東京に集中しています。TOEFLの受験会場は東京都には十数カ所あるものの、その他のエリアは数える程度、会場がない県もあります。海外大学合格に重要な課外活動の場も、東京中心です。
(2)海外大学進学のロールモデルがいない、情報格差
2つ目のハードルは、情報格差です。サンデー毎日のアンケートによると、海外大学の進学相談相手は、担任、進路指導、次いで英語の先生との結果が出ています。
たとえば、東京港区の広尾学園高校は1学年約300人のうち、2021年の海外大学合格者数は222名です。このような高校と、これまで海外大学進学者が出ていない高校とでは、情報に大きな差があります。
ほぼ独学でハーバード大学に合格した松野さんは、「周りに海外大学進学者がいない地方学生だと受験のレベル感がわからない。能力があっても、“自分もやればできるのではないか”というマインドセットがなければ、一歩を踏み出すのは困難だと思う」と述べています。
(3)地方では周囲の理解が得にくい
3つ目のハードルは、周囲の人たちの認識の格差です。
スタンフォード大への進学を決めた松本さんは、地域格差について「いちばんの壁は、英語力ではなくて、周りからの理解のなさ。『日本人は海外の大学に行けない』という周囲の思い込みが壁になって、そんな思い込みから反対してくる人たちへ何回も何回も説得し続けて。過去に海外大学へ進学した人がいる高校だったら絶対こんなところに時間をかけなくてもいいだろうに」と思ったそうです。
<参考>
・TOEFL iBT(R)試験会場
・2021年大学入試:全国87進学校 海外名門大合格実績 広尾学園、都立国際、沖縄尚学、立命館宇治…〈サンデー毎日〉(週刊エコノミスト Online)
・広尾学園 2021年合格実績(広尾学園)
・茨城の公立高校からハーバード大に合格した18歳が、日本の高校生に訴えたいこと(AERA dot.)
・「自分を認めてくれる場所を探して…」徳島の女子高生がスタンフォード大学に合格 逆境の中で感じた“地域格差”(livedoor)
急増する海外大学進学者
2021年の国内の大学入試では、昨今の新型コロナウイルス感染拡大が影響し、国際系の学部の人気が低下するとの予想が出ています。経済面から確実に合格できそうな大学、都市部でない地元大学への受験が集まる傾向にあるようです。
その一方で、独立行政法人日本学生支援機構が発表した日本人学生留学状況の推移を見ると、留学数はここ10年で3倍以上と激増しているという事実があります。学生の国内志向は強まっているわけではないようです。
今回紹介した3人の高校生のように、留学ではなく、最初から学部に入学するケースも増えています。2021年に222名の海外大学合格者を出した広尾学園高校も、2020年入試では79名だったので、昨年対比で3倍増です。
コロナ下において、海外大学進学は逆風だけではありません。特に地方の学生にとっては有利に働く面もあります。
たとえば、TOEFLは自宅受験できるようになりました。アメリカ版共通テストであるSATの試験が困難になって、アメリカの多くの有名大学はテストスコアの提出条件を取りやめました。面接試験もオンラインになったことで、現地の大学まで行く必要がほとんどなくなって、受験のハードルが下がりました。
アメリカではアジア系などのマイノリティー(少数派)の合格率が上がっていることが報道されています。松本さんは、英語の学習アプリで有名な「Duolingo」アプリを使って英語の勉強をしたそうですし、ネットで検索すれば情報もたくさんあります。
これまで海外大学進学は高い学費もハードルでした。しかし、財団のほか、企業などが奨学金を出す制度も少しずつ増えています。東大と京大を除いた日本の大学は軒並み世界ランキングが急落中。このまま日本の大学の地位が低下し続けるようであれば、日本人の海外大学進学は今後ますます増えそうです。
<参考>
・日本人学生留学状況の推移(独立行政法人日本学生支援機構)
(文:西村 創(学習塾・個別指導塾ガイド))
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