GIGAスクール構想が本格始動して3カ月が過ぎた。多くの学校現場が頭を悩ましていることの一つは、端末を使うルール作りではないだろうか。教育新聞が4月に行ったアンケートでも、ルール作りに頭を抱える教員は多かった。 神奈川県の横浜市立鴨居中学校(齋藤浩司校長、生徒518人)では、生徒自身が話し合って端末利用のルールを決める取り組みを進めている。「休み時間にYouTubeを見てもよいか」「自分専用のマウスを持参してよいか」「アカウントのアイコンは好きな画像を使ってよいか」――。こうした課題に生徒たちはどう向き合い、教員はどのようにサポートしたのか、学校に話を聞いた。

「ICTサポーターズ」を募集
6月末の生徒会集会で報告された「クロームブック使用のルール」

6月末のある日の午後、鴨居中では、理科室を基地局として各教室をオンラインでつないで生徒会集会が開かれた。そこで発表されたのは、「生徒ICTサポーターズ」と呼ばれる生徒のチームが中心となって作った端末利用のルール。「誰もが嫌な気持ちにならず、気持ちよく利用するために、ルールを守りましょう」と生徒代表が呼び掛けた。

生徒ICTサポーターズは、パソコンやタブレットなどに詳しい、興味がある、または人に教えるのが好きといった生徒が集まり、クラスでのICT活用を主導したり、担任をヘルプしたりするために結成されたチームだ。昨年10月、齋藤校長の発案で募集が始まり、委員会や部活動の合間を縫って、週1回、1時間ほどの活動を続けてきた。現在は3年生7人、2年生10人、1年生7人の計24人が活動する。

昨年10月の発足後、端末やアプリの使い方などを一通り体験した後は、GIGAスクール構想での1人1台端末の整備を見据えて、端末利用のルールに関する意見交換を開始した。「いずれ使い方やルールを決めていかなければいけないが、子供が使うときに子供の意見を聞かないというのも、腑に落ちないと思っていた」と齋藤校長は振り返る。

生徒たちが意見を出し合った記録

ルール作りの過程では、まずさまざまな論点を出し合った上で、アカウント・パスワードに関すること、扱い方に関すること、電源に関すること、ソフト・アプリに関すること、といったカテゴリーに分けて整理を進めていった。

仲の良い友達に誘われてメンバーに加わったという3年生の高岡那琉(なる)さんは「(端末利用の考え方は)人によって視点が違う。マウスを持ってきてもよいという人もいれば、だめだという人もいた。カテゴリー分けだけでも意見が一致しないことがあり、話し合いを進めるのはなかなか大変だった」と語る。

同じくメンバーで3年生の鈴木愛莉さんは「YouTubeを自由に視聴してよいか」を議論した時のことが、とりわけ印象に残っているという。「利用に条件を付けるべきか、付けない方がよいのか、議論がまとまらなかった。ただ、自分たちで考えてルールを作った方が、使いやすい環境ができると思い、自分と違う意見も取り入れるようにした」と話す。

鈴木さんはまた「自分たちが使うものなので、自分たちの意見を聞いてほしい。こうした(生徒主導の)話し合いは、端末の使い方に限らず、校則などを考えるときにも使えるのでは」と、生徒自身が参画することの大切さを実感している。

ルールは常に見直していけばいい

「自分の情報(パスワードなど)を他人に教えない」「借り物という意識を持つ」「他人が不快になるような書き込みをしない、させない」――。生徒たちが作ったルールは、整理してまとめるとA4用紙2枚に及んでいる。

GIGAスクール構想の環境整備担当として、生徒ICTサポーターズを支援してきた吉岡誠司教諭は「正直、初めは子供たちがルールを決めるという感覚はなかったが、すごくまっとうな進め方だと感じた」と話す。アカウント管理や肖像権、インターネットモラルの問題などに最低限の助言はしつつも、基本的には生徒の自主性に任せてきたという。

同じく生徒の支援にあたった木村拓也教諭は、生徒会集会で全校に向けてルールを告知した際、「このようなルールを作るにあたっては、(生徒ICTサポーターズのメンバーの)たくさんの思い、考えがある」と、ルール作りに直接関わっていない生徒たちにも理解を求めた。

生徒ICTサポーターズの発案者である齋藤校長

さらに「ルールにないから何をしてもいい、守らなくてもいいという感覚でルールを運用するのではなくて、こういうことをしたら他の人はどう思うだろうか、自分自身のためになるだろうかと、そういう基準を持って端末を利用してほしい」と、ルールとして明記されていない部分についても、自覚を持って使い方を考えるよう促した。

生徒たちの議論を見守ってきた齋藤校長は「学校でYouTubeの視聴を禁止したところで、家庭でも見ることはできる。むしろ、YouTubeの有効な使い方を考えていくべきだ。学校だけが特別なのではなく、家庭や社会も含めて、端末を使う上で大切なことは何だろうか、という問いかけをしている」と話す。

また、「端末のルール作りを巡って、教員と生徒が腹の探り合いをするより、みんなで作り上げたほうが分かりやすい。ただ、ルールは常に見直していくものだと思っている。『先輩たちがこう作ってきたルールだよ』と後輩につなげて、改良していけばよい」と今後の見通しを語る。

「そういう仕組み、すぐに作ろう」
生徒ICTサポーターズのメンバーで3年生の高岡さん(右)、鈴木さん(左)と木村教諭

最後にあらためて生徒ICTサポーターズの高岡さん、鈴木さんに、1人1台端末でやってみたいことを尋ねた。

「今までと違う感じ。楽しい」と鈴木さんは笑顔を見せる。「大学生のように、パソコンにノートが全部入っていて、シャープペンすら必要ない、というくらいに身軽になるとよい。移動教室も楽にできる」と期待する。

最近、デジタル教科書を初めて使ったという高岡さんは「紙ならばすぐにページが開けるが、端末を立ち上げて、パスワードを入力して…というのは少しめんどうだ」と戸惑いも感じているという。

一方、「授業後などに先生とチャットができれば、もっと質問がしやすくなると思う」というアイデアも。取材に同席していた木村教諭が「そういう仕組み、すぐに作ろう。『ここが分からない』とメモして、送ってもらえれば対応できる」と応じる場面もあった。


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