学研HD Research Memo(5):「Gakken ID」を基盤としたDX戦略を本格始動 – ニュース・コラム – Y!ファイナンス – Yahoo!ファイナンス

基本問題

■今後の見通し

2. 中期経営計画「Gakken2023」

(1) 経営方針

学研ホールディングス

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は2021年9月期から中期経営計画「Gakken2023」をスタートさせている。教育分野と医療福祉分野を両輪として、DXの加速とグローバル展開も進めながら、「揺るぎない成長基盤の確立」を図り、持続的な企業価値の向上を目指していくことを基本方針として掲げている。

コロナ禍によって社会様式や生活様式が急速に変化するなか、同社グループとしてこの3年間で取り組むべき課題として、1)コロナ禍による「新常態」への適応、2)デジタル・トランスフォーメーション、3)国内成熟市場への偏重の3点を掲げ、こうした課題に対して、1)オープン・イノベーション(協創)の積極活用、2)事業ポートフォリオの最適化(選択・成長)、3)グローバル展開による新市場の開拓等に取り組み、2030年までの長期ビジョンを実現するための成長基盤を構築していく期間と位置付けている。

(2) 経営数値目標

2023年9月期の経営数値目標は、売上高165,000百万円、営業利益7,500百万円、親会社株主に帰属する当期純利益3,800百万円、ROE8.0%以上、配当性向30.0%以上とした。3年間の平均成長率で見ると、売上高で4.8%、営業利益で13.9%の成長率となる。また、営業利益率は2020年9月期実績の3.5%から4.5%に、ROEは6.2%から8.0%以上に引き上げる計画となっている。

事業セグメント別で見れば、教育分野で売上高82,000百万円、営業利益4,500百万円、医療福祉分野で売上高76,000百万円、営業利益3,600百万円を目標としている。売上高の年平均成長率は教育分野で2.0%、医療福祉分野で7.7%となり、いずれも実現性の高い目標値だと弊社では見ている。一方、営業利益に関しては教育分野で27.3%、医療福祉分野で9.5%の成長を見込んでいる。特に、教育分野の伸びが大きく、同分野の収益性向上が業績目標を達成していくうえでのポイントとなる。

(3) 進捗状況

a) 教育分野

・教室・塾事業

学研教室については、会員数の獲得施策として、幼児・児童向け教室から学研教室への送客を強化していく。特に、2021年7月に( 株 )綜合教育センターから事業取得する「知能教育 めばえ教室」(対象は1歳~小学生)は、全国のショッピングセンターを中心に約200教室を展開しており、グループ化することによる送客効果は大きい。同様に、JPホールディングスの運営する保育園からの送客も期待される。またDXの取り組みとして、全学研教室にタブレット端末を配布しネットワーク化するほか、保護者とつながる見守りアプリ「マナミル」の提供を2021年4月より開始しており、顧客満足度の向上を図ることで退会防止や新規生徒獲得につなげていく。

塾では、収益改善施策として好調塾のノウハウを不調塾に共有していくと同時に不採算校舎の閉鎖を進めている。またDXの取り組みとして、2021年4月よりオンライン専門コースとなる「Gakken ON AIR」を開校した。同社グループの有名講師によるオンラインライブ授業と、AIを活用した個別最適化された学習カリキュラム、学習プランの提供を特長としている。中学生を対象に開始しており、同社グループの塾が近隣にないエリアを中心に生徒の取り込みを図っていく。

・出版コンテンツ事業

出版については、教育に経営資源を集中させて企画の厳選を進めてきたことや、巣ごもり需要により児童書や中学学習参考書の新刊の販売が好調なこともあり、書籍の返品率が大きく低下している。医学看護は、オンライン営業の対応を進めたことにより、新規病院契約数が計画以上に伸長している。出版外では、文具カードやレターから撤退するとともにオンライン英会話を拡大し、収益改善を進めている。

・園・学校事業

幼児教育では、幼保・こども園向けの園児用絵本をリニューアルした。また園舎設計、大型遊具やデジタルカタログ発行により先生用衣類の販売が好調である。学校教育は、中学校教科書・教師用指導書(道徳、保健体育)の採択部数を前回の平成19年度から伸ばしている。

DXの取り組みとして、幼児教育では2021年6月にソフトバンク

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の子会社から事業譲受した子育てクラウドサービス「hugmo(ハグモー)」の導入をグループ内外の幼保・こども園に対して推進していく。また学校教育では、GIGAスクールに対応したデジタル百科事典や学習ドリルの販売など、デジタル教育コンテンツの取り組みを強化していく。

b) 医療福祉分野

・入居率・充足率

高齢者向け住宅事業は、今期から新規出店数を拡大しているとともに、自立高齢者の施設見学控えで入居の遅れがでており前年同期と比べ若干低下し90.5%となっている。認知症グループホーム事業は、98.0%と引き続き高水準を維持している。子育て支援事業は、不採算園を閉園しており、充足率は85.7%と上昇している。

・人材

従業員スタッフの離職率低減に向けた取り組みや、採用を強化している。定期面談制度実施によるコミュニケーション量の増加やES向上により、特に高齢者住宅事業において離職率は24.8%と大きく低下している。採用については業界5社による介護業界への就職支援サイトを2021年3月に開設するとともに、学研アカデミーの介護士・保育士養成コースから卒業生が同社に入社しており、人材に重点を置いた経営を進めている。

DXの取り組みとしては、介護記録の電子化による業務効率向上を図っている。

c) DX戦略

幼児期に顧客を獲得、囲い込みを行い、高齢者まで一貫して「学研」のサービスを提供するプラットフォームを構築することで、顧客のLTV最大化を実現していく。このため、今後は「Gakken ID」の会員を増やしていくことに注力する。グループ顧客をIDで統合し、IDを通じて全サービスを利用可能にすることで登録・決済や顧客管理の一元化が図れるほか、顧客の利便性向上にも寄与することになる。また、プラットフォームを通じて顧客体験(UX)向上に取り組むことで、グループ内の他のサービスの利用促進を図ることも可能となる。これまでは顧客獲得のために各事業・サービスで個別にプロモーションを実施していたが、今後は施策を統一しプロモーション効率も大きく向上するものと予想される。

まずは、幼保・こども園から小学校に上がる段階での接続強化に注力し、学研教室等の会員数の増加や、さらなる売上拡大を目指していく。前述したJPホールディングスとの資本業務提携や、複数の幼児教室のM&Aもこうした戦略の一環となっている。現在「Gakken ID」の会員数は20万人を突破した段階にあり、今後もさらなる会員数の増加を目指していく。人材を外部から招聘し、DX戦略を2021年9月期より本格始動している。グループ内には、教室・塾事業のように複数のブランドが混在している事業もあり、ブランディング戦略や顧客管理システムの統合など課題が多いのも事実だが、逆の見方をすればこうした課題を解消することによる成長余地が大きいことを意味しており、同社の今後のDX戦略の展開に注目したい。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)

《EY》

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