健全な性へ 生きた教材 – 読売新聞

基本問題

元保健体育教師 清水 美春さん 41

 県立高校の保健体育教師として約20年間、性教育に携わってきた。より多くの若者が正しい知識を持ち、予期せぬ妊娠や性感染症から身を守れるように。そんな思いでユニークな教材「びわこんどーむ」を開発した。

「自分と相手を守る最低限のツールとして、コンドームを知っていてほしい」と話す清水さん(京都市で)
オリジナルの教材として作った「びわこんどーむ」

 自分と相手を大切にすること、行為に責任を持つこと、「自分で決めること」の大切さを訴えるメッセージを付けた、装着練習用のコンドーム2個入りのパッケージだ。「わたしのカラダはわたしが決める」と大書した。賛同する教師らを通じ、全国の高校生への配布を近く始める。

 教師となった当初、カリキュラムの一部としてエイズなど性感染症の予防について教えた。受け売りで知識を伝えるだけの内容に疑問を感じ「自分の目で実態を見たうえで、生徒に語りたい」との思いを強くする。青年海外協力隊に志願し、2010年にエイズ患者が多いアフリカ・ケニアに赴任した。

 派遣先は、首都ナイロビから北西約80キロのナイバシャという町だった。病院を拠点に小中学校などを回り、エイズの予防啓発を進めた。

 渋滞が深刻なナイロビに入る前にトラック運転手らが待機することの多い宿場町。性産業に従事する多くの貧しい女性がいた。コンドームを使うよう促しても「客に嫌がられる」と見向きもされない。病院で無料配布していることを伝えても「そんなものより仕事をくれ」と返された。

 今日、明日を生き延びられるかどうかの状況で、自分を守る最低限の手段さえとられない現実。衝撃を受ける一方、日本の若い世代に「自己決定」の大切さを伝える使命感に駆られた。

 2年の任期を終えて湖国の教壇に戻ると、赴任先のほか各地の中学校や高校で講演に励んだ。コンドームの実物を示し、同性同士で指に装着する練習もさせる。イメージキャラクターとして、ビワコオオナマズをモチーフにした「びわこんどーむくん」を考案し、「ファンクラブ会員募集中」と笑いを誘った。親しみやすくする工夫だ。

 だが、欧米では授業で装着法を教えているのに比べ、日本では性について家庭や学校で語ることへの抵抗感が根強くある。「一人の活動には限界がある。賛同者を募り、キャンペーンとして展開できないか」。そう考え、今年3月に退職。クラウドファンディングの仲介サイトで「びわこんどーむ」を全国の高校生1万人に無料で届ける事業を提案し、寄付を呼びかけた。目標を上回る180万円が集まり、1万1000個の教材を用意することができた。

 パッケージには、授業や講演で伝えてきたメッセージを目いっぱい詰め込んだ。

 例えば、性行為に必要なものとして挙げたのは「愛」「勇気」「経済力」「自分名義の保険証」――。相手を思いやること、避妊を訴え、守られない場合は拒むこと、そして妊娠のリスクがあることを考えようとの意味だ。

 賛同は北海道から九州まで全国の教師らに広がり、学校を中心に既に3000個の配布希望が寄せられている。

 避妊と性感染症予防を唱えることだけが、目標ではない。カップルが互いの将来を思いやる健全な関係づくりについて、もっと語りたい。「そのための最低限のツールがコンドーム。マスクと同じくらい当たり前の存在として、中高生に捉えてほしい」。そう願っている。(矢野彰)

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 長浜市出身。4月から立命館大大学院(京都市)で「性的快楽への包括的アプローチ」をテーマに、女性の自己決定や、パートナーとの関係性を構築するすべについて研究している。「びわこんどーむ」に関する問い合わせはメール(biwacondomaster@gmail.com)。2次元コードを読み取れば詳細が確認できる。

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