各学校でICTの活用が進む中、千葉県船橋市立飯山満中学校(太田由紀校長、生徒312人)では6月、前期の中間テストにおいて、2年生理科のテストをグーグルフォームで行った。実施した辻史朗教諭は「1人1台になり授業スタイルが変わったことで、日頃の授業や提出物で思考力や論述的なものを評価しやすくなった」と話し、定期テストは知識を問う問題に絞って行ったという。太田校長は「これまで評価における定期テストのウエイトが高すぎた。評価の在り方を変えていけば、そのウエイトも下げられるのではないか」と期待を込める。実施までのプロセスや、1人1台になったことで変わる定期テストと評価の在り方とは——。

評価の在り方を変えるきっかけに
辻教諭が作成したグーグルフォームの定期テスト

評価における定期テストのウエイトが高すぎる。太田校長と辻教諭はかねてから、こうした課題意識を持っていた。太田校長は「中学では今年度から新学習指導要領が施行され、評価の観点も3つになった。生徒の変容を日頃の授業の中でしっかり評価するようにするなど、評価の考え方を各教科で定めていけば、定期テストのウエイトも低くなるし、なくすこともできるのではないか」と指摘する。

同校では、3月初旬に1人1台のクロームブックが配布された。本格的に活用が始まった4月からは、授業スタイルも徐々に変化し、辻教諭は「1人1台になり、グーグルクラスルームでの提出物など、評価できるものが増えた」と話す。

思考力や論述的なものは、日頃の授業や提出物などで十分に評価ができるようになった。そこで、「定期テストはグーグルフォームを使って、知識の定着がどれくらい図れているのかという観点で実施しよう」と考え、今回の問題は選択式と単語程度の記述式のものにした。

太田校長は辻教諭から今回の試みについて相談を受けた際、「普段から各教科の小テストでもグーグルフォームを使っていたので、例えばタイピング技術によってあまりにも差が出るような問題でなければ、定期テストをグーグルフォームでやることに対して、二の足を踏むようなことはなかった」とGoサインを出した。

生徒や保護者の不安に対応しながら実施

今回、6月の定期テストをグーグルフォームで行うことを生徒と保護者に伝えたところ、主に「タイピングが心配」という問い合わせが数件あったという。また、4月以降、小テストでグーグルフォームを活用する際に、校内のネットワークがつながりにくくなるケースもあった。

こうした不安やトラブルに対応するため、今回はグーグルフォームの問題をプリントアウトして冊子にしたものも同時に配布し、パソコンと紙のどちらでも受けられるようにした。実際にテストを受けた92人のうち11人が紙のテストを選択したという。

解答ページでは各問題にフィードバックのリンクやコメントをつけられる

また、普段の授業ではクロームブックは画面を立てて物理キーボードを使っているが、後ろの座席の生徒に画面が見えてしまうため、定期テストではタブレットモードにして、画面キーボードで実施。テスト前に画面キーボードで練習する機会を設けたものの、テスト中には「小数点の打ち方が分からない」といったトラブルや、「画面キーボードだと打ちづらい」「画面の半分がキーボードになって、問題が見えづらい」といった意見が生徒から出たという。

ただ、全体的な感想としては、「パソコンでのテストはやりやすかった」という意見をはじめ、「デジタルだと図が分かりやすかった」「いつもより見直しの時間が確保できた」とメリットを挙げる生徒の方が多かった。

辻教諭はこうした生徒の反応を受け、「クロームブックを平らな状態にして、物理キーボードで打つようにすれば、後ろにも画面は見えない。次回以降に試してみたい」と話した。

テスト後の採点については「メリットしか感じなかった」と辻教諭。紙のテストの場合は、各クラスの採点に小一時間はかかっていたが、グーグルフォームの自動採点ならば全3クラス分で30分にも満たないほどで完了した。

さらに「これまではテスト後に各問題について解説していた。『分かっている子にとっては退屈だろうな』とモヤモヤした気持ちがあった」と言うが、グーグルフォームは各問題の解答にフィードバックのリンクやコメントを付けられるので、個々のニーズにあった形で解説が届く。全体的に誤答が多い問題は自動でピックアップされるので、そうした問題は全体に解説するなど、メリハリがつけやすいのもメリットだ。

また、テスト後はグーグルフォームのコピーを作り、グーグルクラスルームで配信。約1週間ですでに105の解答が届いており、辻教諭は「何回も解き直しができることで、より知識の定着につながるのではないか。普段は何もやらない生徒も取り組んでくれている」とプラスアルファの効果に期待を寄せている。

教科によっては紙とパソコンのハイブリッド型も
今年度の「GIGA推進教師」を担当する辻教諭(右)と太田校長

今後の定期テストでのICT活用について、太田校長は「教科ごとの特性もあるので、すぐに使える教科とそうでない教科がある。しかし、評価の在り方を考えていく上でも、今年度中には全ての教科で1回はグーグルフォームで実施してみてほしいと思っている」と話す。

辻教諭も「今回は私だけが活用したが、前向きな教員も多い」と笑顔を見せる。他の教員との話の中では、例えば国語で知識を問う問題をグーグルフォームで20分間、記述式の問題を紙で30分間やるような、ハイブリッド型の案も出たという。

また、ICTを積極的に活用している辻教諭でも、グーグルフォームによる定期テストの問題作成は「いつものテストより1.3~1.5倍ほど時間がかかった」と言い、ICTにまだ苦手意識がある教員ならば、問題用紙は紙で作成し、回答用紙をグーグルフォームにする方法もある。

こうしてICT活用の取り組みが広がっている同校だが、太田校長は「本校が育成を目指している資質能力は、言語能力と情報活用能力。ただ、今はどうしても情報活用能力のウエイトが高くなりすぎていて、バランスが課題だと思っている。ICTを使っても、教科の目標が達成できなければ意味がない。成功も失敗も重ねながら、教科に合った使い方ができるようになれば」と力を込める。

辻教諭は「1人1台になってから、授業中に生徒たちが黙々とパソコンを使う時間がある。もちろん、そういう時間も必要だと思うが、個別最適化された学びを達成しつつ、より対話的になるような授業をどうデザインしていくべきか、模索していきたい」と展望を述べた。


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