2021年度の神奈川県公立高入試を振り返る
–2021年度の神奈川県公立高校の傾向を教えてください。
秋山氏:人気が固定化する中で一部の高校の人気がうなぎのぼりです。まず神奈川総合高校が倍率1.93倍と右肩上がり。自分でカリキュラムを作るという自由度のある学校で、倍率は5年ほど前から急激に上昇し始め、当時から2倍近くになりました。
もう1校は今年の春の東大合格者が50名(既卒生6名含む)となった横浜翠嵐高校。今まで都内の私立最難関校を受験していた子供たちが志望するようになってきています。公立高校3年間で、御三家と同等の大学進学実績を出しているのは驚異的です。
渡邉氏:横浜翠嵐高校の人気は、学費はもちろん、通学による交通費や時間も影響していると思います。東大合格実績が判明しないうちから人気は上昇していましたので、合格実績が判明し大変話題になったことから、2022年以降の倍率はさらに高くなることが予想されます。
秋山氏:横浜翠嵐高校に昨年お伺いしましたが、ひとつひとつの授業の質がとても高い。また生徒同士のグループの影響が強いと感じました。たとえば、クラスで東大志望が1名という学校では東大を目指すグループというのはできませんが、クラスの半数の生徒が東大を目指しているなら自分もというような、良い刺激や影響を与え合うグループができているように感じました。今後も注目です。
面白いのはこの2校が対極的な学校であることです。大学受験だけが勉強ではないといったご家庭や生徒のニーズによる高校の人気化と、大学進学実績で躍進した高校の人気化がさらに顕著になったといえるでしょう。
都内の難関私立校にも視野が広がる
–2022年度の神奈川県公立高校入試に変化はありますか。
秋山氏:横浜国際高校が学力向上進学重点校のエントリー校に指定され、2022年度からは共通問題と共通選択問題を使います。それまで独自の特色検査で英語の実技を課していましたが、これがどうなるかは現在のところまだ発表されていません(2021年5月25日取材時現在)。
–2022年度の公立と私立の志望校の動向を教えてください。
秋山氏:横浜翠嵐高校の倍率は確実に上がると思いますので、残念ながら受からなかった生徒たちの受け皿はどの高校になるのかに注目が集まります。その意味では、オープン入試で都内の難関私立をプラスアルファで受験することが、かなり一般化してくるかもしれません。
神奈川の公立上位校の併願校はこれまで、県内の山手学院、桐蔭学園、中大横浜といった内申点の重視される学校が中心でした。ただ翠嵐を志望する生徒は国公立大学を目指すことが多いので、GMARCHの実績とはギャップが出ます。今後は、都内の早慶附属校や国公立大学合格に実績のある学校群へのチャレンジが増える可能性がありますね。
新学習指導要領の影響は未知数
–4月から中学校で全面実施となった新学習指導要領の影響はいかがでしょうか。
渡邉氏:今、各学校の対応を確認中です。中学校側が学習指導要領にどの程度対応しているかはかなり未知数で、学校によって差異があると思います。そのため、ご家庭では学校からの資料を参考にしていただくことを前提としてください。私たちからは概論と、今こんなことをやっている学校があるというご紹介をしたいと思います。
まず評定に関しては、4観点から、3観点「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」になります。これまで暗記に近い部分の知識と技能が分かれていたのが一緒になる。要するに今までは4分の1ずつで全体の半分だったものが3分の1になり、記憶や暗記だけでは対応できなくなっていきます。
関心・意欲・態度は、主体的に学習に取り組む態度に変わります。ここは比率が大きいので今後に注目です。今まで授業態度が良い、ノートがきれい、挙手や発言の回数などを定量化して評定していたものが、学びに自ら向かい、粘り強く取り組み、自ら学習調整ができるかなどの視点が重視される可能性があります。
渡邉氏:また、生徒の個性が多様化する中で個別に評価するために、ポートフォリオを作って目標を設定し、課題をクリアできているかを見ていく学校もあるようです。学習評点の付け方も、いろいろな科目の先生の目にその生徒がどう映るのかによって判断されるようになるでしょう。
たとえば、数学や理科はあまり積極的ではないが、文系科目の取り組みは意欲的だと、個人の中で相対的に見ていく。本当に盛りだくさんで、先生もかなり試行錯誤でしょう。通知表や調査書も案が出ていますが、実際に成績が出ていないためまだ明言できません。
–推薦入試や一般入試への新学習指導要領の影響はありますか。
渡邉氏:新しい成績の付け方では「5」は少し取りにくそうに見えますが、学校側がどう成績をつけるのかによります。入試や他校との関連もあって劇的に変わることはないかもしれません。これも学校の成績が出た時期であれば違うことをお伝えできるかもしれません。
4技能強化、中学生の「英語」授業の変化は
–中学校の「英語」の状況を教えてください。
渡邉氏:湘南ゼミナールの調査では、神奈川県で10校ほど「5ラウンドシステム」で英語を学ぶ学校があります。英語の教科書を1冊、年間で5周するという方法で、中高一貫の横浜市立南高等学校・附属中学校が始めました。
1回目は、教科書にある絵を見てリスニングしながら順番に並び替え。2回目は、聴きながら文章を整序。絵ではなく英語そのものに触れていく。3回目は、読む、暗唱するなど、5回をどう分けるかは学校によってさまざまだと思いますが、読むことを何回かやって、最終的には絵を見ながら自分でストーリーを考案して文章化するなどで4技能を強化していきます。
ただ、現在の中1~3年生は、小学校での英語は旧課程です。英語を教科としてしっかりと学習してから中学校に入学していませんので、理想形まで急いで持っていくことは厳しいかもしれません。旧教科書では中学校の間に約1,200語が習得目標でしたが、今は2,000~2,200語と言われています。それも小学校で600~700語を学んでいる前提です。来年、再来年になれば、小学校で新課程を経験した生徒たちが中学生になってきますし、先生方の経験値も上がっていくので、軌道に乗ってより良い学習方法に変わっていくと良いですね。
秋山氏:現状、中学校の最初はアルファベットからスタートです。カリキュラムでは小学校で英語を学んだ前提でのスタートですが、現実と理想のギャップがまだ大きい段階と言えます。
出題傾向と学習アドバイス
–公立高校の出題傾向を教えてください。
渡邉氏:今春の特色検査では、「大学入学共通テスト」と共通した項目が増えたイメージです。2年前なら5科目の知識を必要とする問題の配分は100点で換算するとおよそ10点か20点で、5教科とは別の要素が必要でしたが、そこから年々、5教科の要素がある出題が増えてきています。また思考・判断・表現という要素が徐々に明確になっています。
学校の定期テストも、どの教科でも思考・判断・表現を要する問題が増えています。もともと教科書自体にそうした問題が掲載され、単に暗記して穴埋めをするという問題の比率は減っています。教科によっては学校の先生も定期テストの作問に入試を参考にしているようです。
秋山氏:入試を意識した定期テストは、社会科では20年前と比べてとても増えました。入試に出る歴史の年号などは1年生から、2年生、3年生でも継続して出たり、地理の時差の問題だけは年間通して出続けたりする場合もあります。また理科は、以前と入試問題が変わって、知識だけでは解けないものになっています。
渡邉氏:もとになるのは学習指導要領の改訂や大学入試変革なので、ある程度のイメージがあって動いていると思います。5教科の入試問題は全体的に易化していますが、今春に関してはコロナの影響もあり、来年以降を見ないと判断しにくい。劇的に難しくはできないと思いますが油断は禁物です。
秋山氏:これまでの神奈川の公立高校入試は、5教科が難しすぎた側面があります。上位校で6~7割、中堅・下位校だと3~4割しか取れない入試でした。その反省から一昨年から易化し、今春の社会科などはおそらく全県平均で7割。そのかわり特色検査をかなり難しくして、上位校の学力は特色検査で判断するという意図を感じます。1点や2点の比重が大きくなりました。
–秋までに子供たちはどう勉強に取り組めば良いでしょうか。
渡邉氏:学習指導要領の影響だけでいえば、大きな変化はないと思います。ただ英語に関しては、新教科書になって中3の内容がだいぶ変わりました。入試までに終えなければと、かなりのスピードで授業を進める学校もあるようです。学校の先生も、新しい教科書のため手探りの場合もあり、最終的な入試に向けては学校の進度も見ながら、自分の学習を計画的に進めることが必要だと思います。
秋山氏:東京と比べて神奈川県はカリキュラムの進みが遅いのも事実です。東京では中3の夏までに3年生のカリキュラムを終えるところが多いですが、神奈川は卒業までやっています。私立のオープン入試を受けるときには実力差として如実に現れる場合がありますので、生徒には注意を払ってもらうよう指導しています。
行きたい学校を必ず選ぶ
–私立併願を含めて志望校選びの注意点を教えてください。
秋山氏:併願校を選ぶポイントは、行きたい学校を必ず選ぶことです。中3の9月や10月は忙しく、定期テストもある中、12月には志望校を決めなければなりません。進学情報誌やネットで情報を得たのち、学校見学に1回行って決めるパターンが多いですが、自分がどこに行きたいかは、早いうちに考えをまとめるべきでしょう。そこを定めないと、どれだけたくさんの学校を見ても志望校を絞れません。
私立ならば、学校説明会の回数も多く、早い時期に開催する学校もあります。公立の場合は、昨年のコロナ禍で学校再開時に人気校のWeb予約は一瞬で終わりました。そのため神奈川県教育委員会では、各学校に学校紹介の動画を作ってもらい、YouTubeの「かなチャンTV」に掲載しています。学校情報誌やGoogleマップなどで付近の高校の検索や部活のトーナメント表を調べるなど、自分の興味関心の軸に沿った情報から入手をスタートするのは良いと思います。
湘南ゼミナールでは、「私立高校情報オンラインナビ」という私立高校専用の動画集をWebサイトに用意しています。また湘南ゼミナールの内部生用に用意している、東京・千葉・埼玉・神奈川の4都県の私立高校ほとんどのパンフレットはデジタル書籍で読むことができます。
秋以降周囲の声に振り回されないために
–この時期焦っている子、焦っていない子など、さまざまなタイプがいると思います。保護者へのアドバイスをお願いします。
秋山氏:この時期、焦っている子の場合、気を付けるべきポイントがひとつあります。それは、学習時間はどれぐらいで、普段の小テストの結果はどれくらいかです。そのバランスが極端に悪い子がいます。
勉強時間はしっかりと確保できているのに、テストで伸び悩むという子もいます。そういう場合はすぐに勉強のやり方をまず徹底的にチェックしましょう。丸写しでノートを書いたり、調べなくて良いことまで書いたりしていることがあります。
渡邉氏:数学のわからない問題をずっと眺めていることもありますね。
秋山氏:わからない問題へのこだわりからどうしても抜けられないケースもあります。長い時間勉強している場合、焦りばかりを感じてペースがつかめていない、ということもあります。
渡邉氏:私たちは上位校志望の生徒に向けて、部活のある人で週1,260分が学習時間の目安と伝えています。1,260分ですから1週間でおよそ21時間。1日およそ3時間と設定しても、部活があるとなかなか時間が取れないでしょう。9月以降に部活がなくなると、ほぼ倍の週2,400分が目安と考えています。そこを3,000分、4,000分と増やしていっても成績が伸びない場合は、学習の質を確認するようにしています。
秋山氏:今焦っていない子の場合は、別のことに時間を費やしていると思います。私が最初に聞くのは、何に時間を使っているか。もちろん話を聞ける関係性があってこそです。そこでゲームや部活など、別の何かが返ってくるので、ゲームならば何が面白いのか、どんなプレイをしている時に一番喜びを感じるのかを聞けば、その子の価値観がわかります。その価値観に沿って、それができる学校を探しにいこうという話に繋げています。
もっとも避けるべきは、本音を言わなくなる関係性に陥ること。男女とも同様ですが、特に男子の場合、帰り際に無言で帰ろうとするときに声をかけると、実は兄が毎週、こんな問題もできないのかと馬鹿にしてきて…などの理由でモチベーションが下がっていることを話してくれたりします。それも私たち講師が聞き出してやっと言葉が出てきますので、そもそもの関係性が悪いとそれすら答えてくれません。
–これからの学校選びで気をつけることを教えてください。
秋山氏:特に中堅校では「私立専願」に流れる傾向が加速しています。就学支援金の影響で私立の敷居が下がり、近くて安心、かつ大学に進学できる高校が選ばれます。ご家庭の希望も年間で急激に切り替わるケースが多く、春には公立志望と言っていても、秋には私立専願に変わることもあります。次々に専願で決まる子供たちも増えるので、生徒も保護者も秋以降に焦って振り回されないようにしてほしいと思います。
–ありがとうございました。
保護者だけでなく、子供たち自身もさまざまなことを感じながら日々を過ごしている。豊富な経験がある渡邉氏、秋山氏のお話からは、子供たちのようすを見守ることが大事だと痛感した。この夏は子供たちに充実した時間を送ってほしい。
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