「中学受験のタブー」合格最低点を男女揃えたら共学校は女子だらけになる – ニュース・コラム – Y!ファイナンス – Yahoo!ファイナンス

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中学入試にも「性差」問題は実在する――。中学受験塾代表の矢野耕平氏は「大学付属を含む都内の有名な男女共学の私立中学の中には、男女別の定員に偏りがあったり、結果的に男女の合格最低点が大きく違ったりすることがある」とそれらのいびつな現状に警鐘を鳴らす――。

■都立高校の「性差」問題は、中学入試にも存在する

 6月9日、現職の高校教員らで組織されるグループが東京都庁で記者会見をおこなった。

 会見では、東京都立高校の全日制普通科の入試では男女別定員制が設けられ、女子が不利になるケースのほうが圧倒的に多いことが報告され、性差による有利・不利が生じるこの制度の廃止を求めた。

 この制度を巡っては、別の現役の東京都立高校教員らを中心にした市民グループがやはり廃止を求めており、ネット署名を募ったところ、6月19日時点で約3万件の賛同が得られたという。

 「性差による有利・不利」と聞いて思い出されるのが、大学医学部受験の「性差」問題だろう。

 2018年、東京医科大学の入試において、女子受験生や多浪生が不利になる得点操作をされた事実が判明し、その後、複数の大学の医学部入試で同じような「不適切」な事例が確認された。

 得点操作などの悪質さはないものの、「性差問題」は中学入試にも存在する。

 共学校の私立中学校の中には、男女別に定員を設けていて、その人数バランスに偏りが見られる場合もある。それだけではない。結果的に男女の合格最低点が違うことも多々あるのだ。

■早実中や慶應中等部の女子の募集人員は男子の半分以下

 たとえば、法政大学第二中学校(神奈川県川崎市中原区)の2021年(今春)の第1回入試結果を見てみよう。

 募集定員は男子90人、女子40人で、入試の実質倍率(受験者数÷合格者数)は男子3.6倍、女子5.2倍である。そして、合格者最低点(350点満点)に目を向けると、男子が250点、女子は262点である。つまり、同じ入試問題に挑んだにもかかわらず、女子が男子に比べて12点も「不利」であることがわかる。合否のボーダーで涙を飲んだ女子受験生が、もし男子であれば、合格していたという可能性が高い。

 こうした事例は法政二中に限った話ではない。早稲田実業(東京都国分寺市)や後述する慶應義塾中等部(東京都港区)も、女子の募集人員は男子の半分以下だ。実は、中学入試における「性差」問題は以前から他の共学校にも多く見られる。学校によっては女子ではなく、男子が「不利」になるところもある。

 2021年度の主要共学校の中学入試結果一覧を見てみよう(各校HPより筆者が作成)。

■「女子差別」と言い切れない中学受験事情:慶応義塾中等部の場合

 なぜ、中学入試の共学校の入試でこのような事態が生じるのか。

 たとえば、中学入試の募集人員が男子約140人、女子約50人の慶應義塾中等部には、慶應グループの各校との「兼ね合い」という構造上の問題がその原因になっていると言われている。

 付属の小学校である慶應義塾幼稚舎からは例年男子約20人、女子約50人が中等部に内部進学する。一般募集枠を含めるとそれぞれの合計は、男子約160人、女子100人で、明らかに女子の枠が少ない。

 だが、これには理由がある。

 慶應義塾中等部の女子の大半は、すぐ近くに校舎を構える慶應義塾女子高校に進学するが、同女子校には一般募集の高校入試で約100人が入ってくる。校舎のキャパシティの問題もあって、どうしても中等部から受け入れる女子の人数を少なくしなければならず、そのため中学入試での女子の一般募集枠を男子よりもはるかに小さなものにしなければならないのだろう。

■「合格最低点を揃えれば、女子の比率が7割を超えてしまう」

 このように学校の諸事情により募集人員上の男女差が生じることもあるが、一方で「男女の人数バランスに配慮した」ために、合格者最低点に男女差が生まれるケースもある。

 都内のある共学校(大学付属校)の入試広報担当者が匿名を条件にこんな話をわたしにしてくれた。

 「ウチの学校の場合、男女の合格最低点を揃えようとすれば、女子の比率が7割を超えてしまう。そんな男女比になると、学校運営上さまざまな問題が起こってしまうのですよ」

 前出の表にあった青山学院中等部(東京都渋谷区)の場合、合格最低点(300点満点)は男子162点、女子191点と30点近くの差が生じている(実質倍率は男子3倍、女子約6倍)。これほどの差は見られないものの、合格最低点や倍率のギャップがある学校は少なくない。

 なぜ、こうした女子に不利な状況になってしまうのか。拙著『令和の中学受験 保護者のための参考書』(講談社+α新書)から一部抜粋したい。なお、引用部分に登場する偏差値は四谷大塚主催の模擬試験(合不合判定テスト)での数値を想定している。

 〈大手の模擬試験の結果を分析すると、学力のトップレベルに相当する層(偏差値70以上)は男子のほうの占める割合がかなり高くなる一方、学力上位層・中位層(偏差値45以上70未満)は女子の占める割合が高くなります。そして、学力下位層(偏差値45未満)では男子の占める割合がやや高いのです。これは毎年見られる傾向です〉

 性差による学力分布にこのような傾向が見られるのは不思議ではあるが、中学受験生(小学校6年生)全体では男子より女子のほうが学力的に秀でていることがわかる。その結果、首都圏の共学校入試では女子同士の競争が激化し、男子のほうが女子と比べて入試倍率、合格最低ラインともに「有利」な立場になる。

 しかし、ここに男女別学校を加えると、いささか様相が異なってくるのだ。

 東京都立中学高等学校協会の2020年度調査によると、東京都にある私立中学校182校のうち、共学校は84校であるのに対し、男子校は31校、女子校は67校となっている。女子を受け入れる学校のほうが圧倒的に多く、有名共学校にこだわらなければ合格のハードルは低いのである。

 2020年度の東京都学校基本統計を見てみると、私立中学校に在学する生徒数7万6707人のうち、男子は3万6167人(47.1%)、女子は4万540人(52.9%)と、わずかに女子の生徒数が多い程度。受け入れ校の数からすれば、「私立中学校は女子のほうに広く門戸が開いている」という見方ができる。

 しかし、前述したように共学校入試に限定すると、女子のほうが不利になってしまうことが多い。何ともモヤモヤする難しい問題が中学入試には横たわっているのである。

■塾も受験者・保護者も「性差」問題は“暗黙の了解”

 冒頭で取り上げた東京都立高校の入試における「性差」問題は、公的な教育機関ゆえ問題視されている面が強い。では、私立の中学高校にこのような問題が生じているのはどうなのだろうか。私学ゆえ学校ごとの裁量に委ねて全くさしつかえがないと見なしてよいのだろうか。

 だが、「東京都私立学校教育助成条例」に目を通せば、地方自治体(この場合、東京都)が私学教育に対してさまざまな助成をしていることがわかる。すなわち、私立中学高校を純粋な私的教育機関とは言えない側面もあり、この中学入試における「性差」問題が公立校と同様にクローズアップされる可能性もあるだろう。

 それでは、現在の中学入試の「性差」問題、不平等を解消するための何かよい「落としどころ」は存在しないだろうか。以下のような仮の事例を通じてシンプルに考えてみたい。

 都内在住で同じ共学私立中学校を志す小6の男女の双生児。入試結果は、男の子は合格したが、女の子が不合格だった。受験生本人が入試得点結果の開示請求をすると(一部の学校が請求に応じている)、男の子よりも女の子のほうの総合得点が高かった。この時、保護者や女の子が納得できるだろうかといえば、それは難しいだろう。

 先述したが、共学入試で男女差が生じるのは学校サイドの諸々の事情も関係している。その点は、わたしを含む塾関係者だけでなく、多くの受験者や保護者であっても「まあ、そういうものだ」と割り切っているのが現実だ。

■男女共学校の中学受験「性差」問題への2つの提案

 それでも、わたしは共学私立中学入試で次の2点を提唱したい。これで性差による不平等感が完全に解消されるわけではないが、1校でも以下の提案に耳を傾けてくれる学校があるとしたら、多少なりとも救われる受験生が出てくるのではないか。

 ① 私立中学校は事前に受験生、受験生保護者に向けて男女それぞれの定員をはっきりと明示する。目現時点では、募集要項で男女計●●人と発表をする学校が多いが、学校側の希望する男女比率を事前情報として明確に反映させることで、志望校選定の大切な参考材料となるだろう。たとえば、女子の入口が狭いことをあらかじめ知ることができれば、その学校の受験をあえて避けることだってできるはずだ。

 ② 上記①の男子別定員を明確にした上で、男女別に入試問題を作成する。これは、どちらかを易しくして、どちらかを難しくするということではない。同じ尺度を適用した結果、男女の合格最低ラインが乖離するくらいなら、最初から「男女別の尺度」を用意したほうがよいのではないか。もちろん、この場合であっても、男女それぞれの実質倍率、合格者最低点を公表すべきである。

 読者にとってわたしの申し上げることは暴論に感じられるだろうか。

 今回の東京都立高校の男女別定員制の問題が私立中学高校にも波及し、教育関係者たちの中学入試における性差問題への議論が活発になることを期待している。

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矢野 耕平(やの・こうへい)

中学受験専門塾スタジオキャンパス代表

1973年生まれ。大手進学塾で十数年勤めた後にスタジオキャンパスを設立。東京・自由が丘と三田に校舎を展開。学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校vs.新名門校』』(SB新書)など。

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