神奈川県真鶴町立まなづる小学校で毎年、「海の学校」が続いている。ふるさとの海にすむ生き物を知り、基幹産業の一つである漁業を支える豊かな自然を学ぶ機会だ。この春に入学したばかりの1年生たちは近くの磯に出かけ、様々な生き物を見つけては歓声を上げた。

 真鶴道路・岩インターチェンジの脇にある大ケ窪海岸。大潮の今月11日、1年生約40人が先生やボランティアの保護者らと一緒に歩いてやってきた。引き潮の磯にはごつごつした岩肌が現れ、たくさんの潮だまりができていた。

 磯の生き物探しを指導するのは、町立遠藤貝類博物館の学芸員・小渕正美さん(40)や、NPO法人「ディスカバーブルー」(DISBL、二宮町)のスタッフら。海洋生物などの専門家たちだ。

 「ねえ、見て見て。カニがいたよ」「あっ、ヤドカリのなかまだ!」

 子どもたちは潮だまりにじゃばじゃばと入ると、水中の石をめくったり、のぞき込んでみたり。永島奏翔(かなと)さん(6)は「でっかいウニやカニ、ウツボもいたよ」と楽しそうだ。

 約1時間で子どもたちが捕まえたのは、貝やカニ、ナマコ、ヒトデ、イソギンチャクなど約40種類。小渕さんは「100種類を超すこともある。海が豊かな証拠です」。教室に持ち帰ると2学級に分かれ、小渕さんやスタッフが生き物を見せながら種類や生態などを分かりやすく説明。子どもたちは身を乗り出して興味津々だ。中島明咲(めいさ)さん(6)は「ウニにはたくさんの足があると知って、すごく面白かった」。自然を壊さないように、生き物は学習後に海へ戻す。

 2006年に始まった「海の学校」のきっかけを作ったのは、指導員として参加したDISBLの渡部(わたべ)孟さん(75)だ。元中学校の理科教師。定年後、遠藤貝類博物館の設立準備に携わり、「真鶴の素晴らしい磯を使ったフィールドワークを、博物館のメイン活動の一つに」と町に提案した。10年の開館時には初代館長も務めた。

 「海の学校」は学校団体向けで、町内外から遠足などでやってくる児童生徒や教育関係者らに無料で開いている。まなづる小もその一環だ。当初は渡部さんが1人で指導したが、時々手伝っていた横浜国立大の当時の大学院生らが、海や海洋生態系に関する社会教育活動などを目指して、11年にDISBLを設立。事業を受託して博物館と一緒に「海の学校」を担ってきた。一般向けには「海のミュージアム」と題した有料のプログラムもある。

 「身近な海に、これだけ多くの生き物がいると知ってほしい。子どもたちは、絶対に生き物が大好きですから」。渡部さんらはそう願いを込める。

 まなづる小での「海の学校」のテーマは、磯の生物を自分で見つける(1年生)▽磯の生物を2週間程度飼育する(2年生)▽磯の生物を調べて図鑑を作る(4年生)▽海でプランクトンを採取して観察する(6年生)などだ。6年生の活動には例年、町内にある横浜国立大臨海環境センターの研究者らも参加する。DISBLのスタッフの多くが同大出身で、そのつながりも生きている。

 まなづる小の浜口勝己校長は「子どもたちは学年が上がるごとに海の生き物に詳しくなり、ふるさとを大事にする思いにもつながっている」と評価。保護者の参加も大きな強みで、「海での見守りに協力は欠かせない。活動が定着したのは、地元に多くの人たちの熱い思いがあるから」と話す。保護者からも「磯遊びをしながらの学習は、子どもにとって最高」「真鶴ならでは。親子の触れ合いも増えた」などの声が聞かれた。(豊平森)