自然科学の本で7万部も売れるのはめずらしい。それも化け学。2月に発刊した『世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)の著者、左巻健男先生にコロナ禍に身につけるべき科学的まなざしを聞いた。
左巻健男 さまき・たけお
東京大学非常勤講師。元法政大学生命科学部環境応用化学科教授。『理科の探検(Rika Tan)』編集長。専門は理科教育、科学コミュニケーション。
コロナ禍で認められたマスクの効果
火の発見から水爆の開発まで、人類の歴史を科学と化学の切り口ですぱすぱ切り分け、面白エピソードを満載した『世界史は化学でできている』。中学校の理科や歴史、高校の世界史や物理や化学で習ったことをチラチラと思い起こさせてくれる楽しい本だ。
身の回りにあるものを見れば、パソコンからキーボード、マグカップ、その中のコーヒー、ボールペンなどなど、すべてに化学反応が用いられ、技術の粋が詰まっている。ひとつひとつ分解していけば、科学の教科書になるだろう。今回のコロナ禍で身近になった科学、技術もある。
左巻 PCRというのは、新型コロナでみんなに知られるようになったけれど、40年近く前からある技術です。開発したキャリー・マリスという生化学者は、これでノーベル賞を受賞しています。ゲノム解析やDNA鑑定はPCR法によって一気に進展した。今では生物工学的な研究の土台ともいえる基幹技術です。
マスクについては、コロナ禍のはじめの頃、WHOは効果を認めていなかったですよね。それが今回、いろんな研究者が飛沫防止効果の実験をして、一定の効果があることがわかり、WHOも認めました。3層の不織布なら効果が高いこともわかってきました。
空間除菌と聞いて「なにそれ?」と思う人、思わない人の違い
1年以上もコロナ禍が続くが、災いにかこつけて出回るニセ科学に騙されないようにと警鐘を鳴らす。左巻先生の専門は「ニセ科学に気をつけろ」である。
左巻 コロナ禍は人々をものすごく不安にさせる。だからちょっとでも「予防によさそう」なものが出てくると、人々はワッと食いついてしまう。たとえば消毒剤。すでに実績があり、コスパも高い製品があるにもかかわらず、「こっちのほうが効果がある」と売り出される高い商品を買ってしまう。昨年は、次亜塩素酸水や空間除菌うんぬんという商品も出回りましたね。携帯型の二酸化塩素とか。こういうのにコロッと騙されてしまう。ぼくは、“首から提げるバカ発見器”と呼んでますが。
なんとなくよさそうだ……と思って買った人も少ないだろう。たしかに、科学的な根拠はよくわからない。それでもコロッと買ってしまう。なぜだろうか。
左巻 今は何でもすぐネットで調べられますけど、それが逆にワナ。調べるとよけいに騙されるようにできているから。検索の上の方に出てくるサイトを開くと、科学っぽい言葉を使って説明され、いかにも科学的根拠があるかのように書かれている。空間除菌にしても、いかにも科学的に実証したようなデータが載っている。これを見て、おかしいと見抜くことは難しいと思います。専門知識のある人ならともかく、ふつうはそんな知識は持っていないし、説明書を読んでも見抜けないですよ。
科学を装った宣伝文句……。今に始まったことではなく、ずっと前から宣伝の常套手段ではある。どうすれば騙されない?
左巻 健康や医療に関する新商品は、ほとんど疑ってかかっていいでしょう。本当にそれだけの効果が実証されているなら、宣伝なんかしなくても適正な価格で売れるわけだから。効果がよくわからないからギリギリの宣伝をして売るんです。
本当に効果があるものなら宣伝など要らない。なるほどそうである。そういう科学的、論理的なものの見方はどのようにしたら身につくのか。
→その2「確証バイアスにかからない方法」につづく
取材・文/佐藤恵菜
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