【特集】「革新的女子教育校」目指し、学びの新機軸続々…神田女学園 – 読売新聞

花のつくりとはたらき

 神田女学園中学校高等学校(東京都千代田区)は2019年から、「革新的女子教育校」に生まれ変わるという目標を立て、「4つのC」と呼ぶ能力の提唱や、リベラルアーツ教育、トリリンガル教育など数々の改革を行ってきた。また、昨年度からは5か国の海外校と提携する「ダブル・ディプロマ・プログラム」も開始している。これらの改革の狙いと2年間の成果について宗像(むなかた)(さとし)学校長に聞いた。

生徒のコンピテンシーを伸ばす「4つのC」

改革の狙いを語る宗像学校長

 「1890年の創立以来、女子に品格ある個人として生きていくための教育を与えるという学校の社会的使命は変わっていません。ただ、それを時代が求めるものに応じてブラッシュアップさせていく必要がある。そのように考えて2019年から始めたのが、『革新的女子教育校』への変革です」と、宗像学校長は話す。

 宗像学校長自身は、2018年に都内の私立中高から神田女学園へ副校長として就任し、翌年から学校長を務めている。副校長就任後、すぐ感じたことは「学校として非常によいものがあるのに、それが生かされていない」ということだった。

 「本校には生徒会や学校行事など、生徒が主体的に活動する伝統があるのに、それにどのような意義があるかを理解できていなかったと思います。そこで私はそれを、生徒たちの『コンピテンシー』、すなわち個人として求められる能力を伸ばすものと位置付け、さらに『4つのC』に整理して、提唱しました」

 「4つのC」とは、「Critical Thinking(多角的に考える力)」「Communication(相手を理解し伝える力)」「Collaboration(「ナカマ」と協働する力)」「Creativity(新しい価値を創造する力)」を指す。

 「自分なりの考えを持っていてこそ、相手を理解する力が育ちます。そして物事にチームで取り組むことを学び、新しいことを生み出せるようになります。その過程を経て、一人一人のコンピテンシーをさらに伸ばすことができるのです。これらを意識することで、個々の活動に、より意欲を持って取り組むことができるようになりました。その活動を通じて、トップリーダーとしてグループを導く力やサーバントリーダーとして支える役目を担うなど、一人一人の能力を発揮できる機会が増えたと思います」

10年後見据え、リベラルアーツ教育やトリリンガル教育

講堂で行われたニコルプロジェクトの成果発表

 カリキュラムの中では、複数の教科を横断した探究型授業により、知識と教養を身に付ける「リベラルアーツ教育」を実践している。「どのような社会貢献ができるのか?」「世界の課題を解決する方法は?」といった問いへの最適解を見つけ出すために、英語・社会・理科あるいは数学・理科・情報・技術といった教科を組み合わせ、複数の教科の教師がチームを組んで指導に当たる。

 同校では、このリベラルアーツ教育を具体的に理解できる探究学習を「ニコルプロジェクト」と名付けている。「ニコル」とは「Nature」「Culture」「Life」の頭文字N、C、Lを取ったものだ。この授業は週2回行われ、3月に開催される「ニコルウィーク」で発表を行う。「生徒たちが社会に出る10年後を見据えた活動です。プレゼンテーションを行う調べ学習は以前も行われていたのですが、『ニコルプロジェクト』では仲間と共に自分たちで答えを見つける全体的なプロセスを重視しています。探求学習ですので、仮説から検証を通じて自分なりの考えを持てる学びにしています」

 また将来、英語は「当たり前」になるだろうと見越して、教養としての「トリリンガル教育」も実践している。生徒は全員、中3から第2外国語としてフランス語、中国語、韓国語のうち一つを選び、それぞれネイティブの教師に指導を受ける。

 「まず、普段の授業で母語である日本語の運用能力を徹底的に鍛えます。すると、外国語である英語の運用能力も高まり、それを第3の言語にも応用させることができます。本校では、単に『英検の合格者数を増やす』といった目標は立てません。これからの時代、英語はできて当たり前。第3の言語を操ることができれば、将来、希望の職種に就こうとする際に大きなアドバンテージとなります。さらに、現在は言語運用能力の習熟度の高い生徒に行っていたオールイングリッシュのイマージョン授業を全ての生徒に対して行い、マルチ・イマージョンとして多言語でのテーマ学習にシフトしていきます」

 さらに、2020年度から、アイルランド、カナダ、ニュージーランド、アメリカ、イギリスの5か国の学校などと教育提携を結び、それぞれの現地校に長期留学し、現地の高校卒業資格を得る「ダブル・ディプロマ・プログラム(DDP)」を開始した。今年度から中学の「グローバルコース」に「DDP選抜クラス」を設け、中学1年からDDP参加に備える。中3から具体的な留学準備を始め、高1秋から高3夏まで海外校に留学する。帰国後は3月まで神田女学園に在籍することで、日本の高校の卒業資格も得ることができる。

 現在、1人がアイルランドに留学中で、今年もアイルランドとカナダへの渡航が予定されているそうだ。「本人に『海外で学びたい』という強い意志があり、渡航への疑問の声はありませんでした。卒業後は、海外の大学にも日本の大学にも進学することができます。他の学校の生徒にはない自分たちだけの強みとして、『ダブル・ディプロマ』を生かしてほしいと思います」

「好きだから通う」オンリーワンの女子教育校を目指す

生徒提案で公開討論会を経て購入された電子レンジ

 改革を始めて今年で3年目を迎える。4年前の入試では「出願者のうち中学の第1志望は1割、高校は単願と内部進学2割」だったのが、昨年度の入試では、「中学の第1志望7割、高校は単願と内部進学8割」となり、学校の魅力は大きく高まったと言える。

 「目標とするところを明確にするとマインドセットが大きく変わり、『授業が楽しい』『学校に来られてうれしい』という様子が生き生きと伝わってくるようになりました。学校全体の雰囲気の変化が、出願者の意識の違いに表れてきていると思います。自分が好きで選んだ学校ですから、生徒たちは学校をよくするために何ができるかを自分から考えるようになり、先生たちも『ぜひやってみなさい』と励ましています」

 例えば、第2外国語の授業では、中国語の得意な生徒が「アシスタントティーチャーをやりたい」と名乗り出て、先生の承認を得て授業のサポートを行っている。生徒会から学校に提案があると、学校長との「公開討論会」を開いて審議する。最近では、「お弁当を温めるために校内の電子レンジの数を増やす」という提案があり、生徒会役員が設置台数や予算をまとめて議案を提出したのち、討論会を経て無事、学校に承認されたそうだ。

 「とても小さなことのようですが、自分たちの学校生活を充実させたいという思いまで持たないと提案までいきません。背景として、電子レンジの数が限られていると、下級生が上級生に遠慮して列の後ろのほうで待っている。だから各階に1台ずつ置いて、皆が平等に使えるようにしようと、ちゃんと全体を配慮したプランが練られていたのです」

 宗像学校長は、女子の教育には「小さな成功体験の積み重ねが大事」と考えているという。「男子のように当たって砕けろというのではなく、失敗しても苦にならないスモールステップを繰り返しつつ、成功体験を確実に自分のものにしていってほしい。学校生活の目標は、レベルの高い大学に合格することだけではありません。自分のアイデンティティーを持った『品格ある個人』となり、成長を実感しながら自己実現に向けて行動することで、自分にとっての幸せを見つけることができるのです。さまざまなことを通じてオンリーワンの女子教育校でありたいと考えています」

 (文:足立恵子 写真:中学受験サポート 一部写真提供:神田女学園中学校高等学校)

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