【受験なんでも相談室】受験の「暗記」って必要? – 東大新聞オンライン

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 大学受験は悩みが尽きないもの。どうせ誰かに相談するなら、その道のプロにアドバイスをもらいたい! そこで、受験生や保護者などからお悩みを募集し、東大生や東大の教員などに話を聞く連載企画を始める。今回は化学オリンピック委員を務めたこともある真船文隆教授(東大大学院総合文化研究科)に「暗記」に関する質問に答えてもらった。(取材・黒田光太郎)

今回の質問

受験勉強、特に理科では「公式」を覚えて解答することが求められますが、腑に落ちないことが多々あります。本などで調べてはみるのですが、どうやって学んでいくのがいいのでしょうか?(高3)

高校で覚え、大学で学ぶ

 高校の理科で学習するものの中に物理の公式や化学の反応式があります。これらは「覚えるもの」としてひとくくりにして考えている方も多いかと思いますが、この二つは少し意味合いが違うので、分けて考える必要があると思います。

 まず、物理の公式などについてです。これらは使っているうちに自然と覚えていくのが理想だと思います。というのも、ゼロから自分で導出することも不可能ではないものの、やはり大変なのではないかと思うからです。一歩考えを進めて、こうした公式は便利な道具として使うのがいいのではないでしょうか。覚えるというよりも、使っていくことで感覚的に身に付いてくる、というのが望ましいと思います。同じようなものとして、数学の三角関数の公式や、化学の気体方程式などが挙げられると思います。大学で学ぶシュレーディンガー方程式なども覚えた方が早いです。といっても、全てを覚えるのではなく、どうしたらこの方程式ができるのか、ということを覚えてしまえば、具体的な方程式の形などを覚える必要はなくなります。そういった意味で、これも使いながら覚える、という類いのものの延長だと考えられます。

 一方で、化学反応式などは、細かい係数を覚えてもあまり意味がないのではないかと思います。もちろん、試験問題によっては、教科書に載っている化学反応式の係数を埋めるという問題が出題されることもあるかもしれないし、覚えておけば早く解けたと思うかもしれません。それよりも、どのような物質が反応して何ができるのかを理解する方が大事で、それさえ理解できればあとはおのずと係数は求めることができます。ですので、覚えるというよりも、さまざまな反応を考えるのに慣れるという方が望ましいと思います。

 大学で学習するもののうち、覚える必要があるものは高校までと比べてやはり少なくなります。ある意味で、高校までに覚えたものを大学で学び直すことになるのだと思います。とりあえず覚えた内容について、どうしてそうなるのか、またその背景などを学ぶのが大学で行うことだと考えます。言い換えれば、高校で「各論」を学び、大学で「原理」を学ぶということになると思います。そう考えるとある程度は高校で暗記することも必要なのかもしれません。高校で覚えたものの背景などを大学で学び直すことで、その物事への理解度は増すのだと思います。

 そうした暗記については、関連付けして覚えた方がいいと思います。例えば、無機化学は覚えなくてはならないことが多くなってしまいますが、周期表において同じ族は近い性質を持つなど、グループ分けをすることで、そのグループの性質を覚える、とすると多少覚えやすくなるのではないでしょうか。

バランス感を大切にした学習

 今回の相談者の方は、教科書に書いてあることをうのみにせず、公式などの成り立ちを掘り下げて学習していて素晴らしいと思います。時間的制約がある中で、一見受験に直接関係ないかもしれないことをするというのは、不安になるでしょう。ただ、分からなかったものについて調べる過程で得られるものもあると思います。深掘りした分野の問題が出題される可能性もあり、そうなれば直接的なメリットとなり得ます。それ以上にこうした学習は学びを深めるという点でとても重要だと思います。

 一方で「バランス感」も大切だと思います。時間に限りがある受験生が、最後まで疑問点にこだわりすぎるとすれば、受験勉強の進め方としてはどうでしょうか?いつまでも分からないところにこだわり、その先の勉強ができなくなると、結果として受験では不利になるかもしれません。腑に落ちないことが出てきたとき、少し時間を使って調べ、突き詰めるには時間がかかり過ぎるとったら深掘りをやめて先に進む、というようなバランスも持って学びを深めていくのが理想だと思います。分からないと思っていることも、学習を進めていくうちに理解できるようになることもあります。先ほども述べたように、高校までの学習で、最後まで理解しきれないことがあっても当然です。それを大学で学ぶというシステムなので、あまり不安に思わず、受験までの間はバランスを重視した学習をするといいのではないでしょうか。

 大学入学がゴールではない、とは言いつつ、やはり大学に入学したいと思う受験生には、時に「大人の対応」も必要だと思います。もちろん腑に落ちないことがある時に調べて、深掘りしたいという気持ちは大切ですし、私もよく理解できます。入試に合格するという当面の目標のためには、限られた時間の中で深く、多くのことを身に付けるために、どうしたらパフォーマンスが高くなるかを考えることも必要です。

「正解のない」受験に取り組む君へ

 試験問題には正解がありますが、受験勉強の進め方には決まった正解はないと思っています。だから、今回のように、どうしたら良いかという質問に答えるのはかなり難しいです。ただ、すこし達観した言い方をすれば、今しかできないことを楽しむことができればそれでいいし、受験生であれば、受験勉強を楽しむことができればそれが一番望ましいです。

 受験生の間に勉強したことは、そのあと記憶に残っていますし、役に立つことも多いです。受験を目前にしてさまざまな問題に悩んでいる受験生の方は多いかと思いますが、目の前の問題に一生懸命取り組むこと、そして楽しむことが大切なのではないでしょうか。

真船 文隆(まふね・ふみたか) 教授(東京大学大学院総合文化研究科) 


94年東大大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。分子科学、化学反応学などを研究分野とする。『量子化学』(化学同人)、『反応速度論』(裳華房)など著書多数。

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