県内で存在感増す通信制高校 オンラインなどカリキュラム多彩に:山陽新聞デジタル|さんデジ – 山陽新聞

県内で存在感増す通信制高校-オンラインなどカリキュラム多彩に:山陽新聞デジタル|さんデジ-–-山陽新聞 基本問題

パソコンの画面に映った生徒に向かって講師が授業するワオ高校=岡山市北区磨屋町(画面の一部を加工しています)

パソコンの画面に映った生徒に向かって講師が授業するワオ高校=岡山市北区磨屋町(画面の一部を加工しています)

 自分のペースで学びながら、卒業資格が取得できる通信制高校の存在感が岡山県内で増している。進学するのは不登校や病気などの理由で学校に通いづらい子どもだけではない。IT(情報技術)の発達などで学ぶ時間と場所を選ばなくなり、将来の目標に向けて高校3年間を有意義に使いたい生徒が中学卒業後、そのまま進学するケースも出ている。今春、岡山市にオンライン授業を行う高校が開校したほか、カリキュラムに趣向を凝らした学校も増えてきた。県内に本校を置く高校を取材し、現状を探った。

動画とチャットで学ぶ

 「なぜグーグルは働きやすい会社なのでしょうか?」―。講師は、パソコンの画面に映った生徒たちに問いかける。そして、チャット機能を使って意見を出し合う。今春開校したワオ高校(岡山市北区磨屋町)の授業風景だ。県内では7校目の通信制高校で、オンライン授業をするのは中四国初。国語や数学などの授業は好きな時間に動画で受講でき、起業家やデータサイエンティスト養成など専門性の高い講座も用意した。山本潮校長は「今の子どもたちは動画コンテンツで楽しく学ぶことに抵抗感がなく、目も肥えている。これからのデジタル社会を考えれば、通信制の方が必要なスキルを身に付けられる」と胸を張る。

 初年度は国内外から30人が入学した。新型コロナウイルスの影響で1年間自主休校した横浜市の女子生徒(15)は「成績の問題で進学先の選択肢は狭まったが、起業することが夢だったのでワオ高校を選んだ。全国から友達が集まるので自分の世界も広がった」と笑顔を見せる。岡山市の男子生徒(15)は「全日制、通信制という区別はあまり気にならない。動画なら分からないところを何度も繰り返し確認できるので、自分には合っている」と話す。

 山本校長は「入学した生徒は今の学校のやり方に満足していない。通信制を選ぶ理由も『卒業資格が取れる』ではなく、『何が学べるか』が大きくなる」と予測し、1期生が卒業するまでの3年間で実績を積み上げたい考えだ。

県内で存在感増す通信制高校 オンラインなどカリキュラム多彩に


保護者の意識変化

 通信制高校は基本的には毎日通う必要がなく、居住地に関係なく編入学できる学校が多い。レポート提出のほか、面接指導(スクーリング)やテストを受け、必要な単位を取得すれば、全日制や定時制と同じ卒業資格が取得できる。以前は、教科書やテレビ・ラジオ講座で勉強する形が一般的だったが、最近はオンラインで指導を受けたり、本校やサポート校に通ったりするなど多様化が進む。

 少子化で生徒数が年々減少する中、全国的に通信制高校だけは右肩上がりで、2020年度の学校基本調査で初めて20万人を突破。オンライン授業を行う「N高」など私立の通信制高校人気が、生徒数を押し上げた形だ。県内でも同調査で3千人を超え、ここ5年間で4倍になった。

全国にある学習センターで生徒の勉強をサポートする鹿島朝日高校=同高提供

全国にある学習センターで生徒の勉強をサポートする鹿島朝日高校=同高提供

 県内で生徒数を伸ばしているのが、小中学校などを運営するみつ朝日学園(岡山市北区御津紙工)が手掛けた鹿島朝日高校だ。2016年の開校以来、順調に増え、今年度は3千人を超えた。全国に300以上ある提携校で手厚いサポートができることや割安な学費に加え、中島佐代子校長は「保護者の意識の変化」も増加の理由に挙げる。

 同高では、総合型選抜(旧AO入試)などで大学へ進学する生徒も多い。中島校長は「大学に進学する上で、通信制と全日制の差はなくなっている。なじめない全日制の学校を続けるよりも通信制の学校に通い直して、大学を目指してほしいと考える親も増えている」と最近の傾向を分析する。

高い自由度

 全日制に比べて時間の自由度が高いことも魅力の一つだ。3年前、旧大原高校跡地に開校した滋慶学園高校(美作市古町)総合スポーツコースに通う3年女子生徒(17)=津山市=は、剣道メインの生活を送りたいと入学した。

時間割に縛られずスポーツに打ち込める環境を提供する滋慶学園高校=同高提供

時間割に縛られずスポーツに打ち込める環境を提供する滋慶学園高校=同高提供

 午前中は課題作成のための授業を受け、午後は近くの武蔵武道館(美作市今岡)で練習に汗を流す。女子生徒は「マンツーマンで指導してもらえ、気持ちの部分でも強くなった」と語り、将来は保健体育の教諭になるため大学進学を目指す。

 浅田尚宏校長は「ゴルフ選手を目指して3年間過ごした生徒も今春、送り出した。スポーツ選手や公務員などを目指す生徒に合わせた時間割を作れるのも通信制の良さ」とする。

最後の砦

 メリットが多いように見える通信制高校だが、デメリットはないのだろうか。生徒たちからは「友達は学校に集まるスクーリングやオンラインで作れる」「オンラインで朝礼があるので生活リズムは思ったほど狂わない」など好意的な声が聞かれたが、ある学校関係者は「単位取得に必要な合格点の割合は学校によって違うため、実は学力差が出やすい」と明かす。

 その欠点を補うため、AI(人工知能)を活用した学習方法を採用したのが、岡山理科大付属高校(岡山市北区理大町)だ。勉強やレポート作成、提出は全てiPad(アイパッド)を使う。塾や予備校で使われる教材「アタマプラス」を採用し、生徒の苦手分野をAIが判別。一人一人のレベルに合わせた学習ができるようにした。

岡山理科大付属高校通信制過程はiPadを使って、生徒の学力や目標に合わせた学びを支援する=岡山市北区理大町

岡山理科大付属高校通信制過程はiPadを使って、生徒の学力や目標に合わせた学びを支援する=岡山市北区理大町

 同高は生徒の減少で通信制過程の募集を2年間停止していたが、今年度、カリキュラムを刷新して再開。大学や高校の設備も活用し、eスポーツや英会話、スポーツなど生徒の探究心を育むプログラムも積極的に取り入れる。

 土屋俊之副教頭は「通信制高校はさまざまな理由でたどり着く、いわば学びの最後の砦。そのため目標や学力も一人ずつ違う。それぞれの学びを支え、社会に出ても折れない心を養っていくことも大きな役割になる」と力を込めた。

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