「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
中学受験生を持つ親にとって見逃せない特集を、「週刊東洋経済」(2021年5月29日号)が大展開している。
「中高一貫vs.大学付属」という特集では、コロナ禍でオンライン対応が不十分だった公立校を忌避し、私立志向が加速している現状を深掘りしている。さまざまなデータで示された「お得な学校」ランキングが興味深い。
これが6年間で学力が伸びる「オトク校」
コロナ禍が、「お受験」事情を一変させたようだ。週刊東洋経済は冒頭で、2021年の中学受験率が過去最高となる16.9%となった背景を探っている。少子化にもかかわらず、受験者数は5万50人と14年ぶりに5万人を超えた。
20年4月時点で授業動画を活用できた公立学校(小中高など)は10%、同時双方向型のオンライン指導は5%にとどまった。これに対して私立中高の約8割が配信型授業と双方向授業を導入。森上教育研究所の森上展安代表の「コロナ対応での公立と私立の差を見て、『どうしても子どもを公立中学校へ行かせたくない』という層が増えた」との分析を紹介している。
コロナ禍は、受験校選びにも影響を与えたという。塾や学校が授業を中止したため、思うように成績が伸びない受験生が多く、チャレンジ受験は減った。東京都では、偏差値50台以上の上位校の受験者数は減り、40台以下の学校で増えた。
付属校でも、早慶系、GMARCH(学習院、明治、青山学院、立教、中央、法政)系の付属校は志願者が減り、一方で日東駒専(日本、東洋、駒沢、専修)系の付属は受験者が増えた。
中堅校の受験者が増えた理由として、「公立中学のコロナ対応に失望し、6年生の夏ぐらいから受験対策を始めた層」がいたが、到底間に合わず、偏差値40台以下の学校を志望せざるを得なかったというのだ。
中学受験時の偏差値は低くても、卒業時の偏差値が高ければ、6年間で学力が伸びる「お得校」といえる。卒業時の偏差値は各高校から大学への合格実績と駿台予備学校の大学偏差値を基に算出した編集部オリジナルのデータだ。関東と関西の一貫校を8都道府県別にランキングを掲載している(東京都は上位50校まで)。
東京都では、富士見丘、杉並学院、聖徳学園、実践学園、淑徳巣鴨がベスト5に入った。トップの富士見丘は、「卒業生が84人と少ないにもかかわらず、中堅以上の名門私大に多くの卒業生を送り込む」と紹介している。
神奈川県では横浜市の女子校、聖ヨゼフ学園がトップ。国際バカロレア認定校でもある。埼玉県の1位は、青山学院浦和ルーテル。2019年に青山学院大学の系属校になり、志願者が増えた。千葉県では君津市の翔凛が1位。学力伸長度は全国でもトップで、21年入試では、早慶・上智・東京理科大に19人、GMARCHに54人が合格している。
大阪府では大阪市の女子校、大谷が1位。関西の難関国公立に合格者を輩出している。兵庫県では小林聖心女子学院(宝塚市)、京都府は大谷(京都市)、奈良県は帝塚山(奈良市)がそれぞれ府県でトップになった。
なお、中学入学時偏差値が70以上と極端に高い学校は、学力伸長度が低くなる傾向があるため、このランキングは、中堅校で大学進学を考えたときの「お得校」を知るのに役立つ、と注釈を加えている。
「ハイブリッド型」付属校に注目
パート2では、「付属校の魅力」を取り上げている。併設大学への進学を確保した上で、他大学に進学する道を残した「ハイブリッド型」付属校が注目されているという。
大学付属の中高一貫校の内部進学率をまとめた表が興味深い。同じ付属でも慶応や法政では内部進学率が9割を超える一方、早稲田や日大では付属間にかなりのバラつきがある。
例えば、日大の付属では、日本大学豊山が69.3%なのに対し、日本大学第二は27.0%だ。だが、日本大学第二はGMARCHへの合格者が多く、進学校化していることがわかる。系列大学にどのくらい進めるのか、把握しておきたい数字だ。
また、パート3では、「進学校vs.付属校」と題し、大学付属よりお得な進学校ランキングを掲載している。あこがれの大学の付属校の偏差値は高すぎるが、その大学に入るだけの学力がつく進学校には手が届きそう。そういう場合には後者を検討してもいいのではないか、という発想だ。
早慶付属よりお得な進学校ランキングで、編集部が注目しているのが、攻玉社(東京都)、頌栄女子学院(同)、サレジオ学院(横浜市)だ。攻玉社は中学入試偏差値が55と、早慶付属平均の63よりかなり低い。しかし、早慶以上とされる東大、京大など難関国立大に計49人が合格。早稲田にも115人、慶応にも119人が合格している。
関東ではほかに、芝、本郷、鷗友学園女子、東京都市大付属などが上位に入っている。「付属校バブルは来年に終わる。学校選びは親の誘導も大事」という中学受験専門家の声も紹介している。
近年は、女子校が校名を変更し、共学化する動きが進む。親の世代には知らない学校が増え、序列もかなり変わっている。私立の学校選びには、親の学校研究が不可欠のようだ。
「週刊エコノミスト」世界経済6%成長率に11のリスク
「週刊エコノミスト」(2021年6月1日号)の第1特集は、「世界経済 急回復のワナ」。国際通貨基金(IMF)が発表した2021年の世界経済成長率は6%と上方修正され、実現すれば、1980年以降で最も高い成長率となる。しかし、市場の不安心理は高まり、米国の株価は乱高下している。
特集では、11のリスクを挙げている。インフレ過熱、インドの感染爆発、遅れるワクチン、SPAC(特別買収目的会社)ブーム、欧州や日本の金融機関が多額の損失を出した米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントの再来、原油急騰、台湾有事、米中摩擦だ。
聞き慣れないSPACとは、買収対象を決めずに上場するため、「白地小切手会社」などと陰口を叩かれながらも、4月時点で調達合計額は1000億ドル(約10兆9000億円)を超え、企業買収ブームを支えている存在だ。
業績見通しの不明瞭な企業が「上場会社」として売買され、投資家が思わぬ損失を蒙るケースも発生しているという。
こうしたバブル的兆候に金利上昇の火が付けば、
「あっという間に不安の炎が広がる可能性もあるだろう」
と、金融シンクタンクのRPテック(リサーチアンドプライシングテクノロジー)、倉津康行代表は警告している。
「原発事故10年 翻弄される福島」からリポート
第2特集は、「原発事故10年 翻弄される福島」。横浜国立大学准教授でジャーナリストの高橋弘司氏がリポートしている。約2万1000人の全町民が避難を強いられ、立ち入り制限が解除されても帰還したのは、約7%の約1500人にとどまる浪江町は、2年前に比べて更地が増えていた。
ようやく昨年1月から漁港市場で競りが再開されたが、今年4月政府は汚染処理水を薄めて海洋放出する方針を固めた。「風評被害は計り知れない」「トンネルの先が見えない」という漁師の声を紹介している。
震災前、町には小学校6校、中学校3校があったが、いま町で唯一の教育施設は2018年4月に開校した「なみえ創成小・中学校」だ。かつて1700人いた子供たちは現在31人(小学生22人、中学生9人)。一般的な学校と比べて子供の人数が少なく、運動部などには限界があり、「教師が子供の相手をするしかないのが実情だ」と書いている。
10年たっても住民が1人も帰還できない双葉町も訪れた。かつて「原子力 明るい未来のエネルギー」という巨大な原発広告塔があった。その標語を考えて表彰された当時、小学校6年生だった大沼勇治さん(45)に、避難先の茨城県古河市から一時帰宅した際に町を案内してもらった。
町が広告塔を撤去すると知り、大沼さんは保存を呼びかける署名活動を始めた。撤去は実施されたが、標語のアクリル板部分が、「東日本大震災・原子力災害伝承館」に展示された。
「あの広告塔があったから、故郷に向き合えた。あの標語を考えた『生き証人』として、町の歴史を伝えていきたい」
と語っている。
3月には東日本大震災から10年ということで、久しぶりに福島の原発被災地にスポットが当たった。だが、それが過ぎると報道は減った。汚染処理水の海洋放出に問題はないのか、継続的な報道が必要だ。(渡辺淳悦)
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