<恋するラグビー>「しびれるね」ラグビー名物レフェリー最後の笛 愛された戸田節(毎日新聞) – Yahoo!ニュース – Yahoo!ニュース

基本問題

 長年にわたり、日本ラグビー界を支えてきたトップレフェリーが一線を退いた。国内19人の日本協会公認A級レフェリーの戸田京介さん(51)。試合中に選手へかける言葉はユーモアに富み、「戸田節」と呼ばれる。選手やファンに親しまれてきた原点を尋ねた。

 ◇「25年ずっとこのキャラクター」

 9日に静岡・エコパスタジアムであったトップリーグ(TL)プレーオフトーナメント準々決勝の神戸製鋼-クボタ戦。レフェリー歴25年の戸田さんにとって最後の試合となった。節目の舞台も「絶口調」だった。ラグビーはレフェリーにマイクが装着されており、選手への指示などの音声がテレビ中継を通して聞こえてくる。印象的な言葉の数々に、SNS(ネット交流サービス)上には「#戸田レフェリー」の書き込みもあった。

 まずは前半8分。「手を上げない。手を上げるのは横断歩道の時だけ」。神戸製鋼のPK時、手を上げてキックを妨害したクボタの選手を注意した。

 両チームがエキサイトした前半20分ごろには「笛が鳴ったら、爽やかに」と両主将へ忠告。その15分後、トライが成立したか際どいシーンが起きた。映像で判定する「テレビジョン・マッチ・オフィシャル(TMO)」を前に「しびれるね、しびれるね」と副審と言葉を交わしながら検証した。

 後半に入ると、プレー中にスパイクが脱げたクボタの選手にこう注意した。「なぜ、そんな簡単に靴が脱げるの? 侍が刀を落とすようなもんだよ」。リードしているチームが時間稼ぎに利用しないように引き締めた。

 毅然(きぜん)とした態度で臨みながら、時にはおちゃめな言葉で選手とコミュニケーションを取る。緊張と緩和のバランスを図るのが「戸田流」のレフェリングだ。そのレパートリーの源泉は大好きな読書やAMラジオに落語。「どんな表現をしたら、その場を収めることができるか。どんな言葉かけをすると選手が納得するかをイメージしている」と明かす。その上で「くすっと笑えるような表現や言い回しをまぶすことで、興奮状態の選手も冷静になれる」と語る。

 「戸田節」が認められるのもこれまでの実績や選手、チームとの信頼関係があってこそ。最近はファンにサインを求められるほど注目されるようになった。「ありがたいが、『51歳が頑張っているよね』と慈悲の心で見ていただいているのでは」と謙遜する。一方で「真剣勝負の時に『ちゃかしたことを言うな』という意見もあると認識しないといけない。ただ、25年ずっとこのキャラクターでやってきた自負心がある」と語る。

 ◇小学校教員の傍ら、週末は全国行脚

 岐阜大でラグビーを始めた戸田さんは、自ら望んでレフェリーの世界に入ったわけではない。転機は25歳の時。岐阜県内で小学校教諭を務めていた。県内でレフェリーの認定講習会があり、教員によるクラブチームでプレーしていた戸田さんは半ば強制的に参加した。地元からの受講生「0」を避けるために受験した結果、トップ合格した。

 そこからキャリアを重ね、レフェリーの出世街道を走った。「80分のゲームを成り立たせるために主導権を持つ立場にいるのは快感だった」。ラグビーが持つ精神性も性格にマッチした。試合中に反則があれば、それを判定するのが一般的な審判の仕事だが、「ラグビーは反則を防ぐために声かけをする競技。それは教員という職業を選んだ自分のキャラクターに合っていた」と振り返る。

 岐阜県内で教員を務める傍ら、週末に全国各地で審判の笛を吹いた。これまでに日本選手権、社会人、大学、高校と名誉ある「国内4大大会」の決勝を裁き、TLではリーグ戦136試合を担当した。TLは来季から新リーグに移行する。TLが最後となる今季、自身も一線を退くことになった。

 9日の最後の試合。特に感慨なく臨んだが、ノーサイドの笛を吹くと無事に役割を終えた「安心感があった」。選手たちと握手を交わし、負けた神戸製鋼のスタッフには「良い試合だった」と感謝された。関係者から「お疲れ様でした」「ありがとう」と次々に言葉をかけられ、感情がこみ上げた。スタンドを見ると、観客席から多くの人が手を振ってくれていた。

 「あの時は涙が出たね」と戸田さん。「今後、自分がどのようにラグビー界へ関わっていくかはわからないが、日本協会や岐阜県協会へ恩返しをしていきたい」と話す。レフェリー人生の第2章もユーモアあふれることだろう。【長宗拓弥】

 ◇戸田京介(とだ・きょうすけ)

 1970年4月生まれ。愛知県春日井市出身。高校まではサッカー部で、国体メンバーに選ばれる実力があった。岐阜大でラグビーを始め、卒業後に小学校や中学校、高校教員を務めながら、レフェリーとして活動。現在は岐阜県立大垣養老高の保健体育教諭。試合中の軽妙な語り口で名物レフェリーとして知られ、帝京大ラグビー部出身の芸人、しんやさんがものまねのネタにしている。妻と3人の息子がいて、妻が活動を支えてくれた。「特に妻には感謝ですね」

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