政府の教育再生実行会議が、高校卒業前に大学へ「飛び入学」した者に、高卒資格を与える仕組みを導入することを検討しています。飛び入学といえば、スキージャンプの高梨沙羅選手が2014年、17歳で日本体育大学に入学したことでも話題となりました。実は現在、飛び入学をするには、高校を中退する格好になっています。なぜ、そのような制度になったのでしょうか。
実施大も入学者もごく一部
まず、現在の飛び入学制度を確認しておきましょう。
対象となるのは、高校に2年以上在学し、大学が定める分野に「特に優れた資質」を持っている者です。大学にも、①大学院が置かれていること②高校長の推薦を求めるなど運用を工夫していること——といった条件を付けています。
2020年度入試で、飛び入学を実施したのは、千葉大学(文、理、工、園芸の各学部)、京都大学(医学部)、名城大学(理工学部)、エリザベト音楽大学(音楽学部)など、8大学にすぎません。
しかも、それほど活発に利用されているわけではありません。1988年度と最も早く導入した千葉大学が累計95人、2001年度から導入した名城大学が同26人となっている以外は、いずれも1桁ないしはゼロで、過去に導入しながら募集停止した大学もあります。
あくまで天才向けの「例外」
もともと飛び入学は、今から30年ほど前、「教育上の例外措置」として検討が浮上したものです。91年4月の中央教育審議会答申では、対象者を、早い時期に専門家から指導を受けないと才能が損なわれかねないほどの「稀(け)有な異能の才の保持者」としていました。それだけの「天才」に限定されたわけです。そのため利用者が少ないのも当然だし、大学を卒業しないことも想定していなかったわけです。
しかも、97年6月の答申では、①単に大学に入学するためだけの手段に用いないこと②いわゆる「受験エリート」が有名大学を受ける機会を拡大することに利用されないこと③大学側が優秀な学生の「青田買い」として利用するためのものであってはならないこと——とクギを刺しました。
30年で潮目も変わる
当時、年齢に応じて入学・進級する「学年制」を崩そうという雰囲気は、とてもありませんでした。その点、飛び級が当たり前の欧米とは違います。
一方、30年たって、潮目が少し変わってきたことも確かです。規制改革論議を挟んで、中高一貫教育制度や義務教育学校制度が導入されるなど、学校制度も柔軟化しました。
14年7月には、教育再生実行会議が第5次提言で、高校の早期卒業を制度化するよう提案。中教審は同12月の答申で、飛び入学者のうち、高校で50単位以上、大学で16単位以上を修得した者に、高卒と同等の学力があることを文部科学相が認定する制度を設けるよう求めましたが、まだ実現していません。
まとめ & 実践 TIPS
今回の教育再生実行会議の検討は、そんな経緯に決着を付けるものとなりそうです。「天才」には朗報でしょうが、ほとんどの高校生にとっては、まず勉強を頑張って受験をパスする努力をする方が無難と言えそうです。
教育再生実行会議ワーキング・グループ 開催状況
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/jikkoukaigi_wg/kaigi2.html
飛び入学について(文部科学省ホームページ)
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shikaku/07111318.htm
プロフィール
渡辺敦司
1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。連載に「『学力』新時代~模索する教育現場から」(時事通信社「内外教育」)など。
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