5月11日は、今から66年前の1955年、瀬戸内海を運行中の紫雲丸が沈没し、修学旅行中の児童生徒100名が命を落とした事故があった日です。66年たつと事故のことを語りつぐ人も減ってしまっていますが、同じ年には、三重県津市の中学校での遠泳授業で36名が溺死した水難事故もありました。これを契機に、学校の体育で水泳の授業が取り入れられ、当初の水泳授業の目的は、水難事故から命を守る教育としてスタートしたと言われています。
しかし、近年の水泳授業は、泳法が中心となり、そして昨今は、コロナ禍でプール授業さえもままならない状況になっています。
小学校の学習指導要領の水泳に「安全確保につながる運動」が明記されたので(高学年)、本来であれば、2020年より「安全確保につながる運動」の授業が本格実施されるはずでした。しかしながらコロナ禍により、多くの学校で水泳が行われず、実質的には今年度からの運用になることが予想されています。
また、中学校の学習指導要領における「水泳の事故防止に関する心得」についても実践的な理解が重要ですが、どこまでプール授業が実施できるか、地域によっては見通しが不透明となっています。
つまり、コロナ禍で、子どもたちに、水難事故から身を守る知恵の伝授する機会が失われているかもしれないことが心配されています。親も子も基本的な知識がないまま水辺に行っていたりしないでしょうか?
こんな時、使えるコンテンツが、公益財団法人 日本ライフセービング協会がまとめた e-lifesaving(助成:日本財団)です。e-lifesavingは、水辺の安全対策をよく知らない先生だったとしても、この教材を使えば、プール、海、川の安全確保と事故防止について、「子どもたちに何をどう学ばせたらいい?」がわかる無料コンテンツなので、パパママが活用することも可能です。
みなさんは、タイトル画像から、「沖に向かう流れ=離岸流」を見分けられましたか?
もし分からなければ、海で身を守る知恵を身につけていないままかもしれません。
繰り返しますが、e-lifesavingは無料です。活用すれば、生涯、自分を守ってくれる知恵を身につけられます。
子どものうちに海辺(水辺)の知恵を身につけておく必要性
子どもが水難事故にあうのは痛ましいですし、身を守るための知恵がないまま大人になってしまうと、もちろん大人でも事故にあいます。海辺でライフセーバーが救助した年齢別の割合は、子どもばかりではなく、20〜24歳が最も多い年齢となっています。
そして、海水浴場で溺れる事故原因の約半数を占めているのが「離岸流」です。
でも、みなさんは離岸流について理解していますか?
日本ライフセービング協会の副理事長 松本貴行氏は、中高生保健体育を教える学校の先生です。私は知らなかったのですが、学校の授業では、離岸流について教えることは必須ではなく、夏休み前に、「離岸流の危険」についての説明がないことも少なくないとのことです。
日本は、島国で海にアクセスしやすく、離岸流を原因とする溺水者が半数近いというのに、学校では、教えてもらっていなかったのですね。このことに、私は驚きました。離岸流に対する知識や万が一の対処行動を知らずに大人になってはいけない気もするのですが、みなさんは大丈夫ですか?
細かく学べる工夫がいっぱい e-lifesaving
では、e-lifesavingがどんな内容かというと、まず、指導者は、上記の動画を見ていただくと伝え方のコツがわかります。「今すぐ授業に導入できる」というキャッチは、決して大袈裟ではないと思うので、以下で説明しますね。
プール、海、川に行く前に事前学習を!子ども向けでも飲酒の危険を教えてくれる!
e-lifesavingの事前学習のコンテンツでは、画面の「」!をクリックすると何が危険か解説が出てくるようになっています。
プールや川、海について、出かける前に知っておきたい知識を、学校や親子でゲーム感覚で学べるコンテンツになっています。
海の事前学習では、画面の下にはビールを飲んでいる人が出てきています。子ども向けコンテンツでビールって、一体何を教えてくれるのかと思ってクリックすると、ご想像のとおり、海辺で飲酒して泳ぐ危険のことを、ふりがな付きで詳しく学習できるようになっています。
海辺での飲酒の危険について、20歳になってから学ぶ機会はあまりないかと思います。子どものうちから脱水症状や判断力が鈍くなることについて、知っておくのは有意義なことだと思いますがいかがでしょうか?
「おとながかくじつにこうどうできるできすいぼうし」、「のんだらおよがない」、みなさん実施していましたか?
ドラマ仕立て動画とワークシートで自分ごとに
次に、「みんなで考えよう」を開くと、子どもたちにまず見てもらう動画と、解説つきの動画の2種類があります。子どもたちが自分で考え行動できるようにするために、解説動画を見る際には、ワークシートを準備して、書き込んだり、話し合ったりしながら、学べるようになっています。
※上記のページは「指導される方へ」になります。子どもたちが実践するページはこちらになります。
もちろんワークシートもダウンロードして印刷できます。そして、学校の先生用に、プールで実践できる指導案まで掲載されている至れり尽せりぶりです!ここだけでも「今すぐ授業に導入できる」は大袈裟ではないと思いませんか?
ちゃんと装着しないと溺れる事もあるライフジャケット
そして、離岸流の動画コンテンツでは、離岸流だけでなく、子どもが3人いる5人家族が海遊びに出かけた際に、気をつけるべき出来事がドラマ仕立てでわかるようになっています。
解説動画の最初にでてくる質問が、「安全に遊ぶために海に着いたらまず何をしたらよいかな?」ですが、みなさん答えられますか?
解説動画では、質問が投げかけられるだけではなく、解説までのカウントダウンが表示されます。これがあることで、ゆっくり考えているお子さんの発言を待って、動画を一時停止する目安にもなっています。
「正解の答えを出すことよりも、子どもたちが考えることによって、行動できるようにすることが大事」と、同協会の松本貴行氏がポイントを教えてくれました。
安全に遊ぶために、昔は、準備体操くらいしか言われてなかったかもしれませんが、今はライフジャケットの装着も必要です。親の情報も更新できます。
海での溺れ方は、状況によって同じではありませんが、中には静かに溺れる場合もあります。再現映像がリアルです。
出典 公益財団法人 日本ライフセービング協会
この状況については、私も参加している教えてドクタープロジェクトでも下記イラストで発信していますので見たことがある方も増えてきたように思います。
そして、もしも海で溺れた時は、世界共通の「助けてサイン」があるのですが、片手を振るので、ライフジャケット等を装着していないと、かえって沈む危険もあるのです。
e-lifesavingのコンテンツの中には、ライフジャケット の有無による落水の違いがわかる動画があり、こどもが見て納得できる内容になっています。
また、ライフジャケットを装着する人は増えたと思いますが、装着がゆるかったり、体にあっていないものもアウトドアでよく見かけます。
ライフジャケットはきちんと装着しないと効果が得られないこともあります。ライフジャケットのデータ上の浮力が存在しているだけでは命は守れません。適切な場所(※)でその人の体に合わせた正しい装着が重要です。正しい装着動画を学校や親子で確認できるコンテンツはありがたいです。
※大型浮遊具があるプール等での使用は、浮力が脱出を阻害することがあります。
ちなみに川遊びの水難事故対策としては、「サンダルが流されても取りに行かないで。国土交通省のRPG風こども向け水難防止動画が秀逸!親子で見て」の記事でも書きました。こちらも、国の動画とは思えないほど!?よくできていておススメです。ドラクエ風で子どもウケがいいので、川に行く前に見て欲しい動画です。
離岸流を見つけられますか?
さて、タイトル画像で離岸流は見つけられたでしょうか?答えがこちらです。赤点線枠と青矢印が見えましたか?
e-lifesavingの動画を見れば、「離岸流が見える人」になることができます。
離岸流のある場所の特徴は、「波がくずれにくい」「海水の色が他と違って濁っている」「ゴミが集まりやすい」などがありますが、離岸流の左上の写真は、「波がくずれにくい」状態が見てとれるかと思います。
上の図の右下写真はどうでしょう?よく水難事故が起こる場所でもある突堤は、そもそも離岸流が起こりやすい場所ですし、「海水の色が他と違って濁っている」様子がわかりますか?
その他にも、波のあとが陸側に大きくふくらんでいたり、地形がくぼんでいたらそこも離岸流が発生している場所と考えてよいです。。
離岸流を見分けられるようになると、今日から海の見方が変わってきます。離岸流での事故は怖いですが、「どこに離岸流できそうかな?」と探すことは、宝探しのようで、子どもは遊び感覚で考えてくれます。命を守る知恵を得ることはもちろん、自然の仕組みにまで興味を持つきっかけになるかもしれません。
離岸流は沖に向かう流れが速く、流れに逆らうことは難しい。脱出法は必ず知っておく
そして、コンテンツ内には、実際に離岸流がどのように起きているかわかる特別な染料を流す実験動画や、救助されるまでのシーンもあります。怖さだけを伝えるのではなく、科学的な知識を視覚的にわかりやすく子どもに伝え、希望を持って楽しく遊ぶにはどうすればいいかがわかる映像になっています。身近な海の事をしっかり理解して遊べるようになることは、そのまま生きる力を育む防災教育になりますが、e-lifesavingを使うことで誰でも子どもたちに伝えられる人になれるのが素敵だと思います。
離岸流からの脱出方法については、コンテンツ内にもありますし、公益財団法人 日本ライフセービング協会HPには、より詳しく書かれています。大人は以下も押さえておいてください。
旗の意味を知っていますか?
さらに、動画では旗の説明があります。
ライフセーバーがいる海では、上記の色の旗と旗の間が遊泳できる区域の目印です。
また、津波避難の旗については、ご存知でしたか?
気象庁は、聴覚に障がいのある方や、波や風の音で津波警報が聞こえにくい場合でも視覚的に伝達できるように2020年6月から津波フラッグの運用を開始しています。
海に行くのであれば、当然のこととして、津波対策についても話しあっていてほしいです。
津波警報が出た時やこの旗が出ている時はもちろん、強い地震の時、揺れが弱くても長い地震(1分以上揺れるとどこかでマグニチュード8クラスの地震が起こっている可能性がある)の場合は避難が必要です。詳しくは、「津波で生き残るために必要な「3つのS」保護者引き渡しに伴う危険と問われる覚悟 #あれから私は」の記事も参考にしてください。
また、津波到着予想時間が早い場所では、避難が何よりも優先されるので、警報が出てもライフセーバーが旗を降っている場合ではないケースもあります。上記の揺れの強さや長さを感じたら即避難行動を開始します。
海に行く場合には、その海岸の津波想定と到着時間予想、高台の避難先を調べてから遊びたいものです。
自然と遊びつくす知恵と水難事故から生涯身を守る知恵を、今のうちに手に入れよう
海に親しみ、ライフジャケットを装着して磯の観察学習等をしている小学校があることを、同協会の松本貴行氏に教えてもらいました。身近な自然とのつき合い方と身の守り方について、生徒がしっかり学べていることを、廊下のライフジャケットが、物語ってくれているようで素敵です。そこでは、学校の掲示板に、離岸流のポスターも貼ってありました。
他方で、最初に書いたように、コロナ禍により学校で海や水辺の安全教育に手がまわっていない事が心配です。
今回ご紹介したe-lifesavingは、生涯にわたって子どもの命を守る知恵が、わかりやすく豊富に掲載されているので、これを見ずして海や川、プールに行って欲しくないと言える内容になっています。
コロナ禍の今だから、じっくり親子で取り組んでいただければと思います。
また、文部科学省HP「子どもの学び応援サイト」でも、小学校の体育授業、中学校保健体育授業の参考サイトとして「守ろう!いのち 学び合おう!水辺の安全(公益財団法人日本ライフセービング協会)」として、上記e-lifesavingが紹介されていますので、全国の学校で活用していただけると嬉しいです。プールの授業ができない場合でも、教室やオンライン授業で活用することができます。
親も学校も一緒になって、子どもに(場合によっては親や先生自身にも)生涯、水辺の事故から身を守る知恵を伝えていくことができればと願っています。
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