瀬戸内キャビア 世界へ – 読売新聞

花のつくりとはたらき

食品製造販売会社「CAVIC」社長 板坂 直樹さん 53

 東かがわ市で、市立引田中学校の旧校舎を活用してチョウザメを養殖し、キャビアを生産する。「瀬戸内キャビア」のブランドで、年々、人気が高まっており、「引田と言えばキャビア、と言われるようにしたい」と意気込む。

瀬戸内キャビア
中学校の体育館を改装したチョウザメの養殖場でキャビアを生産する板坂さん(東かがわ市で)

 同校の卒業生。高松市で内装工事会社を経営していた2011年、老朽化で校舎が移転し、市が旧校舎の活用方法を公募していることを知った。「自分が通った学びをこのまま朽ち果てさせたくない」

 よみがえったのは中学時代に所属していた水泳部での思い出だ。毎日練習に没頭し、自由形で全国大会にも出場した。「あのプールを使えないだろうか」。そう考えていた時、チョウザメの養殖のニュースを思い出し、そのプランで応募したところ、採用された。

 全国各地の養殖場を視察するなど準備を進め、13年2月にCAVICを設立。同5月、「東かがわ・つばさキャビアセンター」を開いた。

 体育館に設置した7トンの水槽4基と50メートルプールでチョウザメ30匹の飼育を開始。校長室が社長室、理科室が研究室、家庭科室が加工場に生まれ変わった。水は地下水を利用した。

 新しい挑戦は失敗も多かった。50メートルプールでは、水の入れ替わりが悪く、直射日光で水温が上昇して赤潮が発生。慌ててチョウザメを体育館の水槽に移し、事なきを得たが、プールでの飼育は断念した。

 助けてくれたのは地元の人たちだった。引田は1928年、国内で初めてハマチの養殖に成功した地。養殖のノウハウを知る業者がたくさんあり、「餌の食べ残しが多いから減らした方がいい」と助言してくれた。赤潮の発生にいち早く気づいたのも地元の人。「みんなの支えがなければ、やってこれなかった」と振り返る。

 養殖場所を体育館に絞り、水温は産卵に適した17度前後に保ち、生臭くならないよう水質管理も徹底した。一匹一匹にICチップを付け、それぞれ最も適切な日を待って採卵した。

 加工の工程では、キャビア本来の味を引き出すため、輸入品の塩分濃度7~15%に対し、3%以下に抑え、クリーミーでとろける味わいに仕上げた。

 初年度の生産量は約6キロ。その後、50トンの大型水槽も増設した。2015年には徳島県鳴門市に進出。養殖場を設立し、現在、約1万2000匹を飼育しており、20年度の生産量は約300キロに上った。市場価格で1キロ50万円ほどの値がつく。

 16年には銀座にキャビアバー「17℃」をオープン。来店した料理人から「今までのキャビアとひと味違う」と評価され、取引先が増えた。昨年は、フランスのレストラン・ガイド「ゴ・エ・ミヨ2020」の日本版で、優れた食材に贈られる「テロワール賞」を受賞した。

 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で、レストランでの需要が急激に減った。それでも、「しんどい時こそ頑張ろう」と前を向き、各家庭での需要を増やそうと、会社のホームページで「キャビアサンドイッチ」などの作り方を公開した。

 繁忙期は、加工場で地元住民を雇うなど、雇用の創出にもつながっている。「思い出が詰まったふるさとから、世界に誇れるキャビアを発信し、過疎が進む地域を活性化させたい」(藤岡一樹)

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