【特集】「ことば」を鍛えて問題意識を行動につなげる…桐朋女子 – 読売新聞

基本問題

 桐朋女子中学校・高等学校(東京都調布市)は、授業やさまざまな課外活動の場で問題意識を掘り起こし、言語化する教育を行っている。2015年度の卒業生で、生理に関する情報を発信・提案している団体「#みんなの生理」共同代表の谷口歩実(あゆみ)さんも、中高6年間を通した「ことばの学習」が現在の活動の支えになっているという一人だ。在学当時を振り返ってもらい、印象に残った授業やフィールドワークなどについて聞いた。

生理に関する疑問を掘り下げて世に訴える

仕事の傍ら「#みんなの生理」共同代表を務める谷口歩実さん

 コロナ禍に伴う女性の貧困問題がクローズアップされるなか、「#みんなの生理」は3月4日、「日本の若者の生理に関するアンケート調査」をネットで公開した。SNSで協力を呼びかけて大学生、高校生ら671人から生理用品の入手状況などをオンラインで調査した結果、過去1年以内に金銭的理由により、約5人に1人の若者が生理用品の入手に苦労する「生理の貧困」を経験しているという事実が浮かび上がったという。

 国際基督教大学を卒業し、メーカーに勤める社会人2年目の谷口さんは、仕事の傍ら「#みんなの生理」共同代表として、他のメンバー4人とともに生理にまつわる諸問題をリサーチして、メディアや行政に訴えかける啓発活動をしている。

 「そもそものきっかけは、中学高校の6年間を桐朋女子で学んだことが大きいと思います」と谷口さんは話す。「夏休みの課題に基礎体温を記録したり、リアルな出産の話を聞いたりできました。女子校だったので、突然月経が始まっても『誰か、ナプキン持っている?』と普通に声も上げられました。それが共学の大学では、生理のことを口にすることさえはばかられ、その環境の違いに戸惑ったことで、生理のことをもっと知りたい、掘り下げたいと考えたのです」

 大学で、医療人類学が専門のアメリカ人教授と出会ったことも大きなきっかけとなった。「世界各国の生理事情を始め、生理の意味付けなどを学びました。大学3年次に卒論テーマを『日本人大学生の月経』と決め、仲間に協力してもらってインタビューを重ねました。その時に、『頑張って稼いだバイト代が生理用品購入に消えていくのがせつない』という声が複数あり、自分も同じように考えていたので、これを世の中に問いかけようと決めました」

 大学4年生だった2019年11月に、オンライン署名サイトで生理用品を軽減税率対象とすることを求めて約3万人分の署名を集め、それを機に「#みんなの生理」を発足させた。軽減税率署名は現在、7万人近くに達し、生理用品の寄付事業も準備している。

 「そのおかげで生理用品を寄付したいという申し出も多数いただきました。私たちがハブになって、必要な人々に届けられるようにと考えています」

自らの疑問を「ことば」にする教育

フィールドワーク「武蔵野巡検」に参加する中1生

 谷口さんは、自らの発想力や行動力について「現在の活動があるのは、桐朋女子の『ことばの学習』のおかげです」と語る。これについて同校入試広報室担当で保健体育科の吉川陽大教諭は、「本校には問題意識を言語化する教育があります」と説明する。「たとえば中学1年の春に、社会科の授業では『武蔵野巡検』といって、地元を練り歩くフィールドワークがあります。なぜ住宅地の真ん中に畑があるのか、なぜ都市近郊の畑では植木が育てられているのかなど、浮かんできた疑問について現地で問いかけます。これが『ことばの学習』の登竜門となります」という。

 武蔵野巡検から帰ると生徒たちは、自分が考え、調べたことを400字詰め原稿用紙6枚以上のリポートにまとめる。武蔵野巡検に限らず、谷口さんが中学1年次の社会科の授業では、用意されたスライドを見て、解釈して理解したことをノートにまとめるなど、書くことを重視した授業スタイルを取っていた。それは家庭科、保健体育などの副教科にも共通し、「ことば」を鍛えて豊かな文章力を身に付ける授業が多角的に繰り広げられた。

 さらに、与えられたテーマについて最初に反対か賛成かを明確にして、そこに事例や理由を書いて展開するという論理的な文章構成のセオリーも学ぶ。「おかげで、大学に入学してからも戸惑うことなくリポート課題に取り組めました」と谷口さんは話す。大学の卒論も、英文で約100ページのボリュームになったというが、桐朋女子で鍛えた文章力を発揮して数多いインタビュー内容をまとめ、過不足なく論じることができたそうだ。

あえていばらの道を行く桐朋女子イズム

「本校には問題意識を言語化する教育があります」と話す吉川陽大教諭

 「卒論にするだけではなく、それをアクションにつなげたのが、谷口さんのすごさだと思います」と吉川教諭はたたえる。「谷口さん以外にも、さまざまなアクションを起こしている卒業生がいます。たとえば、日本社会の格差と分断、貧困や差別の現場に目を向け、当該地域の子供たちの駆け込み寺的な施設で働き始める人もいれば、2016年の熊本地震の翌日、職員室にやってきて『明日から被災地で炊き出しをするから、先生たちカンパをください』とお金を集めた人もいました。このアクションを起こせることが、すばらしいと思います。あえて平坦(へいたん)な道ではなく険しいいばらの道を行くのが桐朋女子イズムかもしれません」

 こうした行動力につながる貴重な学びとして吉川教諭が思い出すのは、東日本大震災の爪痕が生々しい東北地方への中3の研修旅行だ。「震災の翌年です。学年主任の社会科教諭が『未来をつくる子供たちに、今の東北の姿を見せたい』と強く推して、陸前高田市の協力のもと、実現させました。何を教えるよりも、生徒たちは多くのことを感じ取ってくれたはずです。体験することが行動力を生むのだと思います」

東日本大震災の被災地を研修旅行で訪れた中3生(2012年撮影)

 当時、参加した谷口さんは「テレビの映像で見たのとは、まったく違いました」と振り返る。「あとで外国の友人から『日本は大丈夫なの?』と聞かれたとき、現場に足を運び、この目で見たからこそ、きちんと伝えられました。この現場主義的なところも、桐朋女子のよさだと思います」

 同校の教師は、生徒たちの自由な発想を肯定し、行動を見守る。マレーシア、ベトナムのインターナショナルスクールで学び、小学5年の時に帰国した谷口さんにとって「上から押さえつけられ、枠にはめられる」ことは苦痛だったが、「桐朋女子では世間の常識を振りかざして、『何々すべきだ』と強要されたことはありませんでした」と話す。「個々の生徒の個性とやりたいことにとことん寄り添ってくれます。子供の自主性を尊重して才能を伸ばしたいなら、ぜひお勧めしたい学校です」

 (文:田村幸子 写真:中学受験サポート 一部写真提供:桐朋女子中学・高等学校)

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