<高校生の数学力の男女差はそれ程大きくないのに、大学で理系を専攻する女子の比率は17%しかない>
日本は、リケジョが少ない国であることはすっかり知れ渡っている。理学・工学専攻の大学入学者の女子比率は17%しかない(2017年)。国際的に見て日本の女子生徒の理系学力は高いのに、これはどうしたことか。海外の人にすれば甚だ疑問のようで、OECD(経済協力開発機構)のスキル局長は、理系の成績が優秀な女子が理系を志望しないのは問題と指摘している。
理系の成績が優秀な高校生を取り出し、男女の内訳をみるとそれほど大きな偏りはない。OECD加盟国の学習到達度調査「PISA 2018」において、数学的リテラシーの成績が優秀な15歳生徒(レベル5・6)の男女比は、男子が57%、女子が43%だ。それにもかかわらず理系専攻の大学入学者の女子比率は、上述のように17%しかない。女子の理系能力が十分に活用された場合の期待値よりだいぶ低い。しかし他の国では違う。<表1>は、8カ国のデータの対比だ。
<表1>
数学ができる高校生の女子比率は、どの国もあまり変わらない。違うのは理系専攻の大学入学者の女子比率で、日本は17%でしかないが、他国では3割を超え、ニュージーランドは42%にもなる。
表の2つの数値の隔たりから、女子の理系能力の活用度を数値化できる。数学ができる高校生の女子比(a)に、理系専攻の大学入学者の女子比(b)がどれほど近いかの数値だ。日本の場合、後者は前者の4割でしかない。他国の数値は日本より高く、イタリアやニュージーランドは2つの数値がほぼ等しい。女子の理系能力が活用されている。イタリアでは、通常の期待値(1.0)を上回ってすらいる。
日本は女子の理系能力の活用度が低い、逆に言えば浪費度が大きい社会だ。いかにももったいなく、「日本は世界的にみても女子生徒の数学の成績がとても良い。親や先生は、ぜひ彼女たちの進路を応援してほしい」という声もある(横山広美・東大教授、「知的な女性を否定する人ほど、『数学は男性的』のバイアス」朝日新聞デジタル、2021年4月10日)。
日本の女子は数学の成績は良いが、理系職を志望する子は少ない。こういう現実はデータで可視化できる。<図1>は、やや古いが「PISA 2006」のデータから作成したグラフだ。ご覧のように、日本の女子生徒の数学学力はトップレベルだが、理系職の志望率は調査対象国の中で最も低くなっている。
<図1>
よく言われるように、日本では「女子が理系なんて」という思い込み(偏見)が強い。イスラム圏のように、試験の成績で専攻が機械的に割り振られるようにしたら、今よりもリケジョはかなり増えるだろう。だが当人の意向を無視することは現実的ではない。
やはり内発的な動機を高めないといけないが、なすべきは進路選択を控えた女子生徒に、リケジョの役割モデルを見せることだ。一番の策は中高の理系教員の女性比率を高めることだが、日本は明らかにこの部分が弱い。中学校の理科担当教員の女性比率は、欧米諸国では半分を越えているが、日本は24%しかない(OECD「TALIS 2013」)。教員全体の女性比が違うこともあるが、人為的な是正が必要なレベルだ。教員採用試験でアファーマティブ・アクション(積極的是正措置)を取ってもいいのではないか。
<資料:OECD「Education at a Glance 2019」、
OECD「PISA 2018」>
舞田敏彦(教育社会学者)
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