僕がスカートをはく理由 – NHK NEWS WEB

基本問題

「男らしく髪を短く」

「もっと女性らしい服装にしたら?」

何気なく耳にする、こうした「らしさ」に疑問を持ちスカートをはいて登校する男子高校生がいます。とかく「同調圧力が強い」とも言われる日本社会の中でスカートをはく理由とは?(広島放送局記者 秦康恵)

スカートは選択肢の1つ

週に1、2回、スカートで登校する男子高校生、久保さんです。

きっかけは、SNSで男性がスカートを着こなしているのを目にしたことでした。

久保さん

「男性でもスカートをはくとめちゃくちゃ似合うんだと思いました。この学校では男子生徒もスカートをはいてもいいので、自分もはいてみようかなと。足の動きが自由になるのが楽しかったし、服装の選択肢の1つとしてとらえると何も違和感ありません」

多様性を尊重する学校

久保さんが通うのは島根県との県境にある山あいの町、広島県安芸太田町の県立加計高校です。1学年1クラス、全校生徒100人余りの小規模校です。

子どもの数が少なくなる中、海外の学校との交流や短期留学にも力を入れています。全国から生徒を募集し、全校生徒のおよそ20%は県外出身者です。

少子化の時代、そして変化の激しい時代。より充実した学校生活を送ってもらうには生徒の多様性を尊重することが欠かせない。そんな学校の考えが、制服にも表れています。

おととしにはLGBTの生徒も違和感なく制服を着てもらおうとスカートもズボンも性別に関係なく選べるようにしたのです。

工藤宏一校長はそのねらいをこう話します。

工藤校長

「学校のキーワードは多様性。制服もその1つです。周りと同じじゃないといけない、という環境では、安心して自分を表現できません。自分のありのままを表現でき、他人のありのままも受け入れる経験をしてほしい。多様性を尊重する先には、生徒に自信を持って自分の人生を歩んでほしいという思いがあります」

スカートは誕生日プレゼント

久保さんも国際交流が盛んなこの高校を希望し、三重県からやってきました。親元を離れ、寮で暮らしています。

およそ1万5000円の制服のスカートは、誕生日プレゼントとして両親に買ってもらいました。

息子から「スカートを買いたい」と言われたとき、率直にどう思ったのか、母親に聞いてみました。

久保さんの母親

「本人が言うとおりファッションとして受け止める気持ちもあるし、小さいときから何にでも興味を示して好奇心旺盛な子なので、へーと思って聞いていました。外国では男性がスカートをはく国もありますよね」

スカートをはいて気付いたこと

待望のスカートを手に入れた久保さん。スカートをはくようになって気付いたことがあります。

それは、男性がスカートをはくことに抵抗感を抱く人もいるということです。

久保さん

「自転車をこいでいて車から見る目とか、コンビニに入っているときのまわりの大人とすれ違った時の目とか、奇異な感じで見られているなと感じました」

そしてもう1つ気になることがあります。自由に選んでいいのに、実際には男子生徒がスカートを選びづらいという現実です。

久保さん

「男性なのにスカートをはいているから、女性なのにズボンをはいているから、LGBTQ+なのではないかという意識が世間に埋め込まれていると、無理に性自認をカミングアウトすることになってしまうのではないでしょうか。そういう社会だと自分がはきたいほうを選びづらくなってしまいます」

固定観念

制服をきっかけに久保さんは「男らしさ」「女らしさ」の固定観念についてより深く考えるようになりました。

例えば髪型。髪を伸ばしている久保さんは、その理由を聞かれるたびに「男らしくない」という価値観があるからではないかと感じています。

久保さん

「女の子が髪を伸ばしていても理由を聞かないと思います。男の子は社会のなかでは髪を短くしておかなければダメみたいなのは、男らしさを押しつけられているようで自分がいちばん気にくわないというか」

髪を伸ばすのは、単に髪を伸ばしてみたいから。そして、病気の治療などで髪の毛を失った人に提供する「ヘアドネーション」をしたいからです。

男性だからとこうした理由をあえて説明する必要はないのではないかと考えています。

授業でも疑問を投げかける

久保さんは授業の中でもこうした疑問を投げかけています。

この日行われた社会の授業では生徒たちが教科書の記述の中から関心のある分野についてまとめて発表しました。選んだのは各国の女性の国会議員の割合や教育を受けられる環境の比較。

外から押しつけられる性別による「らしさ」などふだん感じている疑問や違和感もプレゼンに込めました。

クラスメートとのやり取り

「髪型、長くしたり短くしたりするのに理由を求めたり、性別や見た目だけで服装を決めるとか、ちょっとおかしいなと思って」

「みんながみんな好きなようにありのまま生活できれば性うんぬんよりもみんなが楽しく生活できるんかなと思う」

同級生にも変化が

久保さんの存在が同級生にも変化をもたらしています。

中学生の時はどちらかというと引っ込み思案だったという木下さんもその1人です。

木下さん

「周りにこう言われるかなとか人目を気にしてあまり人前に出ることができなかったんですけど、久保さんの影響を受けて生徒会に入ったり、学校行事に積極的に参加して盛り上げたり、人前に出ることが多くなりました」

また、佐々木さんも、地域の町おこしをテーマにした会議で観光客を呼び込むアイデアを発表するなど、久保さんの存在が刺激になって学外のイベントにも積極的に参加しているといいます。

佐々木さん

「久保さんの活動的な姿を見て、自分もいろいろ自由にやってもいいんだなという感情が芽生えてきて、いろんなことを企画して新しいことをやってみようかなと思い始めました。個人の色が出てたくさんその色が出てきたらもっとおもしろい学校になると思います」

ありのままの自分で

時々スカート。

髪を伸ばす。

久保さんはステレオタイプな「らしさ」の枠を取り払うことで、「自分らしさ」を認め合っていきたいと考えています。

久保さん

「性別を色眼鏡をかけて見るんじゃなくて、そんなものはなくてもありのまま、その人の素を見る、誰もがありのままの自分を表現できる、そんな雰囲気の社会がいちばんいいのかなと自分は思います」

これまでの「らしさ」に疑問を

「女らしさ」「男らしさ」といった人を枠にはめるような価値観を見直そうという動きは、学校現場でも広がろうとしています。

例えば、中学校の保健体育の教科書には、「男性らしさ、女性らしさの押しつけや男性なのに、女性なのにといって非難するのはだめ」といった表現もあります。

一方で、出席名簿は男子から、とか、男女で制服や上履きの色を変えるなど、児童や生徒を性別で分けることがまだまだ多いのが現状です。

生きづらさを無くし誰もが認められる社会を実現するためにこれまでの「らしさ」に疑問を持つ。

ありのままの「自分らしさ」を表現する久保さんの姿に社会が変わっていくかもしれない、そんな兆しを感じました。

広島放送局記者

秦 康恵

平成11年入局

被爆者や教育取材を担当

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