「生徒を学びの当事者に」横浜創英中・高校長に聞く – 朝日新聞デジタル

「生徒を学びの当事者に」横浜創英中・高校長に聞く-–-朝日新聞デジタル 花のつくりとはたらき

 【神奈川】宿題も定期テストも学級ごとの担任制もなし。生徒の自律を第一に、学校の「当たり前」を見直して、生徒自身を学びの当事者にする――。東京の千代田区立麴町中学校校長としてこうした学校改革に取り組んだ工藤勇一さん(61)が昨春、横浜創英中学・高校(横浜市神奈川区)の校長に就いた。「自律」へのこだわりはそのままに、どんな改革に乗り出しているのか。麴町中の6年間と新天地での取り組みを聞いた。

 3月の学校説明会で、2022年度の「サイエンスコース」新設を発表しました。横浜創英初の中高一貫コースとして、文理融合した科学的思考の育成に力を入れます。世の中のある現象に注目し、それが起こる理由を、仮説を立て、実験やデータで検証するといった一連の思考方法を学ぶ。主体的で協働的な学びの場を作ります。

 科学技術が発展し、激しく変化するグローバル社会では、自ら判断し、行動する「自律の力」が今まで以上に求められます。その力をつける教育を学校はしていかないといけません。

 自律のための一歩は、与えられることに慣れないこと。日本の教育はこれまであまりにも与えすぎてきました。そこで麴町中で6年かけて取り組んだのが「手をかけすぎる教育」から「手をかけない教育」への転換です。与える教育から脱却し、生徒には徹底して自己決定させた。それを象徴するのが宿題や定期テスト、固定担任制の全廃です。代わりに単元テストや希望者への再テスト制を導入したり、進路相談では先生を逆指名できるようにしたりと、生徒の主体性と意思を生かした学校運営に仕組みを変えました。

 生徒の自律を高めるための特徴的な問いかけが次の三つの言葉です。

 「どうしたの?」「どうしたいの?」「僕は何を支援したらいいの?」

 教員の指示ではなく自分で答えを導くうちに、生徒たちは学校は失敗してもいいところなんだと気づきました。劇的に様子が変わり、自己肯定感も高くなりました。

 日本の子どもの自己肯定感の低さは世界で突出しています。19年に日本財団が発表した「18歳意識調査」の結果は衝撃でした。欧米や中国、インドなど9カ国が対象の調査で、「自分を大人だと思う」と答えた日本の生徒は29・1%、「自分で国や社会を変えられると思う」は18・3%。どちらも他国より格段に低い。かたや同じ調査を当時の麴町中の3年生にしたらそれぞれ30・2%、50・5%。校則をはじめ、生徒会の組織を変えるなど、学校という一番身近な社会のルールや仕組みを変えたという彼らの自負が伝わりました。

 横浜創英では、今までの良さを残しながらさらにレベルアップして、より自律した力を育てます。「考えて行動できる人の育成」という建学の精神のもと、「自律・対話・創造」が改革のキーワード。「与えられ型」から「自律型」に転換し、自分で責任を取り、価値観の多様性から生じる対立を受け止め、対話を通じて合意する力を育む。大学受験に勝つための知識も大事ですが、社会問題の解決に向けた新たな仕組みを創出する学びを重視していきます。

 すでに中学では固定担任制を廃止し、社会の様々な課題を学ぶ「プロジェクト型学習」を取り入れました。もともとITが得意でなかった学校ですが、コロナ禍の休校中も学びを止めないという教員らの当事者意識のもと、早急にオンライン化が定着した。おかげで生徒の積極的に学ぶ姿勢も育っています。

 部活動への高い熱量も大事にしたいので、学校にゆとりを作るのが僕の仕事。まずは来年度に向けたカリキュラム改編に着手しました。詰め込み型のカリキュラムを圧縮し、空いた時間を部活や受験勉強、趣味など生徒が思い思いに有効活用できる場にするのです。

 生徒たちにはどんどん学校運営に関わってほしい。企業連携など学校と社会のシームレス化(つなぎ目をなくす)にも取り組み、開かれた現場を目指します。面談や入試戦略の相談など、生徒との交流はコロナ禍にあっても盛んです。目に見える形で変わるのは少し先になりますが、対話を重ね、生徒の力でぐっと良くなると信じています。(取材・構成 松沢奈々子)

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 くどう・ゆういち 横浜創英中学・高校長。山形県生まれ。東京理科大卒。山形で数学教諭を務めた後、東京都の教員に。東京都や新宿区の教育委員会を経て2014年から20年3月末まで東京都千代田区立麴町中学校長。定年退職後、20年4月から現職。著書に「学校の『当たり前』をやめた。」など。

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