子どもに月経や射精について話すときに「絶対使ってはいけない言葉」2つ – ニュース・コラム – Y!ファイナンス – Yahoo!ファイナンス

基本問題

2人の小学生の息子を持つ弁護士の太田啓子さんは、「早く正しい知識を教えないと」と子どもの性教育に“危機感”を持っているという。日本の学校ではなぜ性教育がほとんど行われていないのか、親はどうしたらいいのか、親に向けて子どもの性教育について書いたコミックエッセイ『おうち性教育はじめます』が話題の、村瀬幸浩さんと語った――。

■母親は危機感、父親は「自然にわかるだろう」

 【太田】私には小学校6年生と3年生の息子がいますが、周りの親たちも、性教育にはとても関心を持っています。特に母親たちは、「関心」を超えて「危機感」を持っていると言っていい。今は、ネットでいろいろな情報にすぐアクセスできる環境で子育てをしなくてはならないので、早く正しい知識を教えて、情報を見極める力を持たせなければ危ないと感じているわけです。

 性教育については、母親の方が関心が高いように思いますが、なぜでしょうか? 

 【村瀬】父親は自分が性について学ぶ機会がほとんどなかったせいもあって、「親がわざわざ教えなくても、自然にわかる」などと無責任な言い方をするので、母親としては不安がつのるのではないでしょうか。

 【太田】女性も学んでいない気がしますが……。

 【村瀬】それでも女性は月経教育を受けているでしょう。だから、男性よりは、性について学ぶことに抵抗がないと思います。ところが男の子は、射精についてきちんと学ぶ機会がないのです。

 もしも女性が月経教育を受けないまま、ある日突然、赤黒く、粘っこい血が下着についているのを見たら、とても怖いですよね。

 【太田】事前に知らなければショックでしょうね。病気になったのではないかと心配になると思います。

 今は月経についても男女一緒に学ぶようですが、射精についてもしっかり教える必要がありますね。何も知らないままだと、初めて射精したときは、男の子も戸惑うでしょうから。

 【村瀬】子どもからの電話相談では、射精についての心配がとても多く、相談が多いテーマのトップ3に入ります。

 小学校の教科書には、「射精」という言葉は出てきますが、自分の体にどんな現象が起こるのか、具体的なことには何も触れられていないんです。ペニスから白くてネバネバした液が出てくること、それがどんな意味を持っているか、射精によって快感が生じることなどは書かれていない。「射精というものがあります」で終わりです。

■「汚い」「恥ずかしい」はNG

 【村瀬】何も知らずに精通を経験すればショックを受けるでしょう。知っていれば「これがそうか」で済みます。

 【太田】村瀬先生が漫画家のフクチマミさんと書かれた『おうち性教育はじめます』では、親が月経や射精について、どのように子どもに伝えるといいか、とても具体的にわかりやすく書いてあり参考になります。

 【村瀬】本でも強調しましたが、子どもに伝えるときは、「汚い」「恥ずかしい」などの言葉は使わないように気を付けてほしいですね。自分の性や性器を、肯定的にとらえられなくなってしまいますから。

 「淡々と」というのが大事です。何が起こっているかという事実や、「精液がついたパンツは、軽く洗って洗濯機に入れて」などの対処法を、淡々と伝えるといいですね。

 【太田】うちの息子たちは漫画が好きなので、我が家では『おうち性教育はじめます』や『マンガでわかるオトコの子の「性」』を買っておいたら、上の息子は自分で興味を持って読んで理解したようです。書かれていることについて「クイズ出して」と言ってくるようになりました(笑)。

 【村瀬】そりゃいいね。いい男になりますよ、きっと! 

 【太田】ありがとうございます。私はもともと、性についても恥ずかしがらずに話せる空気を作ろうと思っていたので、そこで親のほうが恥ずかしがったり、ニヤニヤモジモジしたりせず、わざとらしいくらい冷静に淡々とするようにしています。思春期になってからだとお互いに恥ずかしくなるでしょうが、今はまだ理科の教科書のようなものなので、お互いに淡々と話せるいい関係ができました。

 もちろん、性教育で家庭が担うべきところは大きいのですが、本当は第三者に教えてほしいという部分もあります。「親からは聞きたくない」という子もいるでしょうし。

 家庭だけ、学校だけで教えるのには限界があるように思います。

■日本の性教育は「生殖」に関わる一部だけ

 【村瀬】日本の学校での性教育は、生殖に関わるところだけをピックアップして教えています。月経も射精も、生殖という文脈でしか教えません。

 【太田】でも月経は毎月あるものなので、女性の健康に関わりますよね。

 【村瀬】月経は「お母さんになるための準備」と教えられますが、子どもを産まない人だっている。やたら生殖に関連付けすぎるんですね。

 【太田】生殖だけでなく女性の健康管理という文脈でも教えられるといいと思います。自分の体のことなのに、よくわかっていないことが多いですし。

 『おうち性教育はじめます』にも出てきたエピソードですが、私も、結構な年齢になるまでクリトリスからおしっこが出ているのだと思っていました。尿道という言葉を知ったときに、「尿道ってどこにあるんだっけ? 」と思って調べてみて、初めて知ったのですが、みんないつどうやって知ったのかな。

 【村瀬】クリトリスという言葉さえ教えないので、そういう女性もきっとたくさんいると思います。クリトリスは、「快楽の性」にとってはきわめて重要ですが、生殖に直接関係しないので教えられることがない。これも大きな問題ですね。

 【太田】クリトリスについて教えられないのは「生殖に関係ない」からですよね。生殖以外の観点での性教育が本当に乏しいんだと思わされます。

■小6や中学生で避妊を教える国も

 【村瀬】避妊についても、コンドームの付け方などは具体的には教えません。避妊をすることは人権問題で、妊娠に対して女性が自己決定権を持つことにもつながりますから、とても大事なことです。

 海外では、オランダや中国では小学校6年生くらい、イギリスや韓国では中学校で避妊について教えますが、日本では高校の保健体育で触れる程度です。

 【太田】やはり性に関するリテラシーはしっかりと持たせたいし、その上で「自分の体のことは自分で選ぶ」という自己決定権を持つことができるような性教育が必要だと思います。

 【村瀬】そうですね。それと、避妊の前に、まず「『愛している=セックス』ではない」ということを、若いうちから教えてあげたいですね。視線や言葉を交わしたり、優しく触れ合うなどでお互いがわかり合ったり、深い愛情を感じることはたくさんあります。そしてお互いにどうしてもセックスがしたいと思ったら、正しい知識を持って避妊を、と伝えることです。

■「不幸にならないための性教育」から「幸せになるための性教育」へ

 【村瀬】現在の性教育では、病気や中絶については教えます。子どもたちが「不幸にならないための性の知識」を教えることが主流です。大学生などに、これまでにどんな性教育を受けてきたかを尋ねると、中絶や性感染症など「嫌な話ばかり聞かされた」と言います。

 【太田】親の方も、どうしても心配が先に立ってしまいますしね。もちろん、中絶や性感染症も大事な知識ですが、本当は、「幸せに生きるための性教育」もしてほしい。

 国際的には1990年代から「包括的性教育」という言葉が使われています。セックスや出産に限定せず、他者との関わりや人権に関わる問題として、全ての子どもを対象として行われるべきとされる性教育の理念です。2009年にはユネスコが「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」を発表しています。

 日本でも性教育を実践する先生や学校はあるのですが、性教育の意義を理解できない人たちからバッシングを受けることもあって、なかなか広がりません。

 東京都では、日野市の都立七生養護学校(現・特別支援学校)の性教育に対して議員やマスコミが「ポルノまがい」と攻撃した事件や、足立区の中学校で性交や避妊などについて具体的に教えていたことを、ある議員が「不適切」と問題視した件などがありました。七尾養護学校の件は最高裁まで争われ、「議員の介入は不当である」と判決が出ていますし、足立区では、「現場の先生は萎縮せずにやってほしい」と東京都教育委員会も見解を出していますが、その経緯などはしっかり認識されていないようです。学校で性教育がなかなか進まないのは、こうした背景もあるのではないでしょうか。

■男性も女性も月経についてよく知らない

 【村瀬】大学生に「なぜ月経痛がおきるのかわかる? 」とたずねると、女子もわからない。男子は月経と排卵の違いもわからない。その状態で性交体験は30%です。

 月経の仕組みについて授業をした後、ある男子学生がこんなコメントを寄せてくれました。

 「バイトでお金を貯めて、彼女と遠出しようと思ってデートしたら、彼女がなんとなく元気がなかった。約束したから来てくれたけど、ついには帰りたいと言ってきた。『こんなに準備をして楽しみにしていたのに』と言ったら、『ごめんなさい』と言って帰ってしまった。ムカついてしょうがなかった。だけど、今日の先生の話を聞いて、彼女はPMS(月経前症候群)だったかもしれないと気がついたので、彼女に謝らなければいけないと思う。これからは、そういうことがあったらちゃんと言ってねと伝えたい。性を学ぶということは、こういうことなんだってことがわかった」

 これほどまでに、男は無知なんです。でも、きちんと知ることで、相手との関係性が大きく変わるんです。

 【太田】「彼女が生理だから今日はエッチできない」という文脈でしか月経について知らない男性は多いですよね。一部には、生理用品を卑猥なエログッズとして扱うような男性もいるそうです。生理現象として科学的に教えられていれば、生理用品をそんなふうに扱うようなことにはならないと思うのですが。

■基本は「科学的に理解すること」

 【村瀬】日本では、「科学的に人間の体を理解する」という性教育のベースが貧しいままです。ヨーロッパなどでは、生物や理科で人間の生殖を扱っているところも多いですね。オランダの教科書を翻訳した『14歳からの生物学』という本が出ましたが、その中では性への関心や避妊なども、人間の生殖の中でしっかりと取り上げています。日本の場合は「人間」が避けられていると思われるほど扱いが少ないのが現状です。

 【太田】学校の性教育を変えるには学習指導要領の改訂への働きかけも必要ですが、一方で、教育は今すぐに変わるものではないので、わが子には間に合わないという方も多いと思います。子どもの成長は速いので、あっという間に適齢期を逃してしまいます。現状では、自己防衛として、親が教えていくことを考えないと。

 今は、良い書籍がたくさん出ているので、家庭でそういった漫画や本を活用したりできます。また、PTAで性教育に関する講演会や勉強会を企画してみたりと、具体的に行動に移していけば、同じ思いを持つ人が増えて、日本全体の空気も変わっていくのではないかと期待しています。

 最初の一歩は、親である私たちが学ぶところからですね。

 【村瀬】大人があらためて「性」について学びなおし、子どもが幸せに生きていくためにどんな手助けができるかを考えてほしいですね。

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村瀬 幸浩(むらせ・ゆきひろ)

元高校教師、性教育研究者

東京教育大学(現筑波大)卒業後、私立和光高等学校保健体育科教師として25年間勤務。この間総合学習として「人間と性」を担当。1989年同校退職後、25年間一橋大学、津田塾大学等でセクソロジーを講義。従来の性教育にジェンダーの視点から問題提起を行ってきた先駆者。一般社団法人“人間と性”教育研究協議会会員。著書に『恋愛で一番大切な“性”のはなし』、共著に『おうち性教育はじめます』など多数。

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太田 啓子(おおた・けいこ)

弁護士

2002年弁護士登録、神奈川県弁護士会所属。離婚・相続等の家事事件、セクシャルハラスメント・性被害、各種損害賠償請求等の民事事件などを主に手がける。明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)メンバーとして「憲法カフェ」を各地で開催。2014年より「怒れる女子会」呼びかけ人。2019年には『DAYS JAPAN』広河隆一元編集長のセクハラ・パワハラ事件に関する検証委員会の委員を務めた。共著に『憲法カフェへようこそ』(かもがわ出版)、『これでわかった! 超訳特定秘密保護法』(岩波書店)、『日本のフェミニズム since1886 性の戦い編』(河出書房新社、コラム執筆)。著書に『これからの男の子たちへ』(大月書店)。

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