セクハラだけじゃない「橋本聖子新会長」への不安、五輪招致の立役者が語る – ニュース・コラム – Y!ファイナンス – Yahoo!ファイナンス

基本問題

 大臣を辞して東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の新会長となった橋本聖子参議院議員。女性で元五輪メダリストとして期待する声があるが、過去のスケート選手へのセクハラ問題はすでに国内外で批判を呼んでいる。元東京都庁幹部で、東京大会招致の立役者の一人と言われる鈴木知幸・国士舘大学客員教授は、他にも不安要素があると語る。(聞き手/ダイヤモンド編集部 岡田 悟)

● このままでは反対運動が起きかねない どうしても背後に見える森前会長の影

 ――東京オリンピック・パラリンピック担当大臣だった橋本聖子参議院議員が、五輪組織委員会会長に選ばれました。

 私は森喜朗前会長の女性蔑視発言による辞任を受けて、組織委で後任の選考が進んでいる間、テレビ番組などに出演して、「新会長は政治家でない方がいい」と申し上げてきました。

 しかし、結果は五輪担当大臣だった橋本氏です。日本では、また政治家が五輪に関わってきた、政治家が五輪を好きなようにしていると、国民の目に映ってしまうのではないですか。

 今、組織委員会に求められる最も大事なことは何か。五輪に対する国民の支持を増やすことですよ。各種世論調査では、新型コロナウイルスの感染拡大が続いていることもあり、今年夏の開催を求める声は1~2割程度しかありません。五輪の歴史を振り返っても、開催国でこれほど支持率が低い大会はありません。

 国民の間では五輪の開催を祝うムードはなく、むしろ大会中に反対デモさえ起こり得るような雰囲気ではないですか。

 ――橋本新会長は1995年から自民党参議院議員を務めておりベテランですが、国民の間では政治家としてのイメージがそう強くはないのではないですか?

 そうでしょうか?森前会長とのつながりが極めて深いことは、すでにメディアで報じられている通りです。さすがに森前会長の“傀儡”とまでは言いませんが、国民にはどうしても、橋本新会長の背後に森前会長の影がちらついてしまうのではないですか。これは、決していいイメージではありません。

● 調整力、交渉力よりも判断力が必要 開催可否は聖火リレー前に決めないと

 ――新会長に求められる役割は何ですか。

 専門家はしばしば、「新会長には厳しい調整や交渉をこなす能力が求められる」と言いますが、実際には、国際オリンピック委員会(IOC)などとの厳しい交渉はすでに終わっています。

 むしろこれから求められるのは、判断力です。まず、今夏に大会を本当に開催できるのかどうか。そして無観客にするのかどうか、どれだけの観客をスタンドに入れるのかを決めなくてはなりません。

 聖火リレーは3月25日から始まる計画ですが、聖火リレーはまさに大会のスタートを世界に発信するイベントですから、その前には開催の可否を判断しないといけません。

 ――橋本新会長は14年2月、選手団長だったソチ五輪の打ち上げパーティーで酒に酔い、フィギュアスケートの高橋大輔選手にキスをした問題が「週刊文春」に報じられ、新会長の選考の間に再び注目されて国内外の批判を呼んでいます。

 過去にさかのぼって事実を払しょくすることはできませんからね。こうした批判をすべて自分で受け止め、弁解できないことは承知の上で会長就任を受け入れたということなのでしょう。

 川淵三郎元日本サッカー協会会長が「森前会長から聞いた」として語ったように、IOCから提案されていた男女1人ずつの「共同会長」というアイデアは、過去のスキャンダルによって橋本新会長が受ける負担を半減するという意味でもよかったと思いますが、もはやその可能性はありません。

 ――スキャンダル以外の面で、橋本新会長は適任だと思いますか?

 どうでしょうか。橋本新会長はそもそも打たれ強い人物だとは思えません。新国立競技場の建設計画が白紙撤回されるなど混乱していたころ、私はこの問題について橋本新会長とお話ししたことがあります。誠意をもって静かにお話を聞いてくださり、“いい人”だとは思います。ただ、受動的な方だな、という印象です。

 今、新会長に求められる要素はそこではないのではないか。例えば、マラソンの五輪銀メダリストである有森裕子さん、日本五輪委員会(JOC)理事の山口香さん、日本バスケットボール協会会長の三屋裕子さんの3人は、今回の新会長候補として浮上していましたが、言葉が大変鋭く、力がありますね。橋本新会長には、それを感じません。

● もっと国民が沸き立つ言葉を 医療者への協力要請も批判を呼んだまま

 一方で三屋さんは、18年に男子バスケの日本代表選手が大会開催中のインドネシアで、現地の女性に金銭を払ってホテルに行った問題を受けて謝罪会見をしました。まず、自分が会長として1人で謝罪の弁を述べ、その後に選手を部屋に入れて謝罪させました。その言葉は力強く、大変誠実で立派な姿勢に見えました。

 こうした方々に、国民が沸き立つような強い言葉で、国民に対して五輪を開催する意義をしっかりと語ってもらうことが何よりも重要だったのではないですか。

 ――新型コロナの感染が続き、ワクチンの接種が間に合わない可能性がある中、大会の開催について国民や東京都民に理解を求める必要があります。

 橋本新会長は1月、国会で五輪担当大臣として「1人5日間程度の勤務をお願いすることを前提に、1万人程度の方に依頼をしてスタッフ確保を図っている」と答弁しました。これが、医療界やコロナに不安を持つ国民から批判されています。「延べ人数」なのでしょうか、でも、そうはっきりと言わなかったですよね。

 当時は、今よりも新規感染者数が多い時期でした。適切に答弁するなら「コロナの発生前ならそうした前提でお願いできたが、今はそうはいかない、最低限どの程度の観客を受け入れれば、何人の医療スタッフが必要なのか検討する」というふうに述べるべきだったのではないですか。

 ――鈴木さんは、都の五輪誘致活動にどのように関わってきましたか。

 私はもともと保健体育の教員でした。その後、都教育庁で、東京体育館といった施設の運営などの実務を経験しました。

 石原慎太郎元都知事時代、将来有望な若手職員を集めて五輪招致チームが作られたのですが、運動施設運営の実務を経験した職員が誰もいない。

 私は当時すでに50歳を過ぎていましたが、突然、知事本局に引き抜かれました。それこそ、石原元知事に知事室で怒鳴られながら(笑)、五輪招致推進担当課長などとして16年大会の誘致活動に励んだのです。この時は誘致できずに私は都庁を去りましたが、20年大会はこの時の計画が基になっています。

すずき・ともゆき/1948年生まれ。東京学芸大学卒業。渋谷区立代々木中学校教員、東京都教職員研修センター研修部企画担当課長などを経て、都東京オリンピック招致本部招致推進部で16年東京大会の招致活動に携わる。現在は国士舘大学法学部客員教授。

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