【特集】ICT基盤に新しく展開する「探究型創造学習」…跡見 – 読売新聞

花のつくりとはたらき

 跡見学園中学校高等学校(東京都文京区)は、2025年の創立150周年を前に「自らの美意識のもとに新たな価値を生み出し、周りを幸せにする女性」という新教育ビジョンを打ち立てた。このビジョンを実現するための取り組みの一つが、6年間かけて行う「探究型創造学習」だ。この学習はすでに今年度の中1からスタートしており、昨年度導入したiPadを中心とするICT環境を基盤に、学びの幅も広がっているという。

「問いを立てる力」の養成から「自分づくり」まで

北軽井沢で「サイエンス探究旅行」をする中1生

 同校の「探究型創造学習」は、新教育ビジョンを実現するための取り組みとして、これまでは授業や行事で個別に行っていた探究学習を、中高6年間を見据えたプログラムとして体系化したものだ。昨年度は中学各学年で試行し、今年度の中1から実施に踏み切った。

 「探究型創造学習」は、学年ごとに行われる研修旅行やキャリア教育行事の事前・事後学習を中心に、週1回程度のペースで行う。先行的に試行してきた中3学年主任の廣瀬里美教諭は、「自ら問いを見つけ、仮説を立て、探究を通して問題を解決する中で、『自分にもできる』という自己肯定感を高めるプログラムにしたい」と狙いを話す。

 中1及び中2の前半では、探究の基盤となる「問いを立てる力」の育成に重点を置く。中1では北軽井沢、中2では奥日光・尾瀬で自然観察や関連施設見学を行う「サイエンス探究旅行」を実施。その中で生徒それぞれが「問い」を見つけ、秋の文化祭で発表を行う。ただ、今年度はコロナ禍のため宿泊行事や文化祭が中止となったため、自分が住む地域の調べ学習や理科の自由研究を行い、昨年11月の受験生向け「クラブ体験会」で発表した。

受験生向けのクラブ体験会で行われた探究学習の成果発表

 中2の後半からは、「SDGs(持続可能な開発目標)」をテーマにグループ学習を行う。学習の柱となるのは、中3の秋に実施する「SDGs探究旅行」だ。従来の広島修学旅行をリニューアルするもので、「平和」や「人権」を始めとするSDGsのテーマに沿って複数の行き先を用意し、自らの探究テーマに沿って選べるようにする。

 また、中3後期に取り組む「自分CM」づくりでは、自分の長所や自分らしさについてプレゼンテーションする短い動画を制作、発表する。そのほか、身近で自分が興味のある職業の人にインタビューする「職業調べ」、社会を取り巻く問題を生徒間で共有する「新聞スクラップ」など、自分を見つめ、社会を知る多様な学習活動を構想している。「入試や就活の際に必要となる自己アピールやポートフォリオづくりなどのスキルを早めに高めておく狙いもあります」

 高校では、キャリア教育やセルフプロデュース力の育成を主な狙いとする。「『セルフプロデュース』と言っても自己演出のことではなく、これまでの探究活動で発見した自分の特性や興味、関心を見据えた上で、今後進む方向性を自ら見いだす『自分づくり』の意味合いです」と廣瀬教諭は説明する。

 高2で京都・奈良を訪問する研修旅行は「セルフプロデュース旅行」と位置付け、探究テーマの設定や訪問先の決定、活動などの計画も全て生徒自ら行う形を模索している。「こうした段階的なプログラムにより、自分の意見をしっかり形成し、自分の言葉で表現し、課題解決に向けて行動できる人を育てます」

ICT環境が生徒の積極性を引き出す

「探究型創造学習を自己肯定感を高めるプログラムにしたい」と話す廣瀬教諭

 同校は2019年度から、iPadを主要ツールとするICT環境の整備を進めてきた。同年度は高1、2年、2020年5月には全学年へのiPad配布を完了した。使用するソフトウェアは「Keynote」などAppleが無料提供するアプリのほか、教育クラウドサービス「Classi」や授業支援アプリ「MetaMoJi」、さらにコロナ対策の休校に際して導入したビデオ会議システム「Zoom」などだ。

 廣瀬教諭は、ICTが探究を始めとする学習活動へ及ぼした好影響は大きいと考える。「昨年、模造紙ポスター形式で行った探究発表では、たくさん書き込んで読みづらい作品も散見されましたが、スライドショー形式にしてからは、文字を大きく見やすくしたり、簡単なキーワードだけ書いて口頭で説明したりといった工夫が出てきました。生徒はiPadやアプリの使い方を自分で調べたり、教え合ったりして、資料作りの技術を身に付けています。また、発表資料を電子化することで確認や修正もしやすくなり、中間プレゼンの回数が増やせてトレーニング効果も上がっています」

 中3のSDGsの探究学習で、「アフリカの飢餓について」というテーマで発表を行ったある生徒は、「もともと人前に出るのが苦手でしたが、発表を重ねるうちに『自分の考えを伝えたい』という気持ちが強くなりました。スライドショーも見出しを短くし、シートごとに見せ方に変化をつけるなど、伝わりやすく飽きさせない工夫もするようになりました」と自らの変化を話す。

 この生徒は飢餓問題について「私たち生徒が今できること」という観点で考え、「まず、世界で起きていることを知りましょう」と発表で呼びかけたという。「この意識を今後も大切にして、世界で起きている問題を知り、伝えていきたい」と意欲を示している。

 「MetaMoJi」は、授業やグループ学習の効率を大幅に高めたという。ノートを模した画面は文字や画像、動画、音声を好きな場所にレイアウトできるうえ、複数の生徒や教員が同時に閲覧でき、リアルタイムで書き込みもできる。「課題プリントをiPad上に表示させ、『ここを解いてみよう』とペンで囲んで指示するなど、生徒の注意を途切らせない授業ができます。ほかにも、答えをその場で添削したり、良い意見を皆と共有したり、自由度の高い授業ができます」

 中3が昨年10月から12月にかけて行った、朗読劇『夏の雲は忘れない』をヒントにした朗読作品のグループ制作にも「MetaMoJi」が活用された。「紙の原稿に書いていた頃は、得意な生徒が中心になって作ることが多かったのですが、今は分担した原稿をチーム全員で共有して内容をすり合わせたり、チームメートの原稿を読んでアイデアを加えたりできるので作業がしやすく、控えめな生徒も自分の意見を積極的に反映させるようになっています」

 ICTを使いこなす生徒たちを見て廣瀬教諭は、「素晴らしい能力があるのに、控えめな性格のため、つい発揮をためらってしまう生徒もいます。そうした生徒の積極性を引き出す探究活動をつくっていきたい」と意欲を燃やしている。

「ICTツールの使い方を覚えられて良かった」

「ICTワーキンググループ」リーダーとしてICT導入を指揮した伊東教諭

 ICTの導入を指揮した「ICTワーキンググループ」リーダーの伊東利博教諭は、「最初は3年計画でiPad配布を進める予定でしたが、他校に対する遅れを強く感じ、一昨年秋に『外部から支援員を入れ、2年でやる』と方針転換しました。それが結果的に、昨年4、5月のコロナ休校期間や6月の分散登校期間のオンライン授業にも役立ちました」と話す。

 コロナ対策の休校は全国的に大学受験を控えた高3生の出ばなをくじく形となったが、ICTはその不安を和らげるのにも役立ったという。ある高3生は「毎日の『Zoom』の朝礼でクラスの雰囲気が保たれ、安心して授業を受けられました」と話した。勉強への影響についても、「この機会にICTツールの使い方を覚えたのは良かった」と前向きだ。「これまでネットは不得意でしたが、自信が付いた。入試の面接などもオンラインで行われるかもしれないので、これからもスキルを磨いて備えたい」

 生徒の意欲や可能性を引き出すICT環境の上に新たな形で始まった、「探究型創造学習」の可能性の広がりに期待したい。

 (文:上田大朗 写真:中学受験サポート 一部写真提供:跡見学園中学校高等学校)

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