今年もいよいよ首都圏入試の本番が近づいてきた。コロナ禍の中学受験、親はどんなことに気をつけたらよいのだろうか。「中学受験生に伝えたい 勉強よりも大切な100の言葉:『二月の勝者』×おおたとしまさ」(小学館)を出版した教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏の講演会では参加者がチャットで質問。おおた氏が見るこれからの中学入試とは。
前回記事:「中学受験」コロナ禍で慌てる親が今すべきこと
■「入試改革」の言葉に惑わされてはいけない
Q、今年はじまる大学共通テスト、大学入試改革は中学入試にも影響するの?
大学入試改革だけでなく、小学校では新しい学習指導要領が始まったこともあり、「これからは、学力観が変わっていくよ」というような事が言われています。中学入試に影響は出るのか、受験勉強の仕方が変わるのか? というところが皆さん疑問なのだと思います。
僕が思うに、社会的に大きな誤解があると思うんです。「学力観が変わる、変わる」と言うのですが、実は変わっていないんです。もともと文部科学省も「知識の詰め込みが大切」などとは言っていない。勝手に僕たちがそう思っているだけというところがあります。学習指導要領を改訂する時に、あの手、この手で言い方を変えて、「詰め込みが大事なわけではないですよ」と言っているだけのことなのです。
それが「ゆとり教育」だったり、「生きる力」という言葉で言われてきた。最近では「学力の3要素」というように言われていますが、明治時代からずっと同じ事を言葉を換えて言っているだけのことなのです。つまり、求めているものは変わらない。我々が知らない世界に連れて行かれるということでもない。実は、中学受験に関して言うなら、これはなおさらのことなのです。
いわゆる難関校の中学入試問題ほど、暗記だけでは太刀打ちできない、考えさせる問題を出しています。もともとの思考力を問うような問題です。こうした入試は何十年も前から行われてきたわけです。だから、大学入試改革や、教育指導要領の変更があっても、びくびくする必要はないのです。
Q、成績順に分けられる塾のクラス、ずっと上に行けません。中学受験の勉強を続けるべき?
塾でクラスが上がらないという話は、中学受験マンガ『二月の勝者』の中にも出てきました。ある女の子が通っている塾とは別のトップクラスの授業を経験してみるというシーンだったと思います。そうすると、その子はこう言うのです。「すごい! 面白い」と。
実は、中学受験の問題は、上のクラスになればなるほど面白いんです。考えさせる問題が多いからです。下のほうのクラスだと、こうした応用問題まではなかなか出てきません。下のクラスの子たちは、暗記などの繰り返しで解けてしまうような問題、つまり、あまり面白くない問題をずっと解き続けていたりする。
親としては、上のクラスに行けないことをふがいなく思うこともあるかもしれませんが、下のクラスの子ほど、しんどい勉強を頑張っているということも言えます。だから、「うちの子、すごい頑張ってるんだ」と、ぜひわが子を誇りに思ってほしいと思います。
もし、そういう子たちをバカにする人がいたら、僕は許しません。勉強が好きで得意な子がどんどん勉強するのは当たり前のことです。そういうわけでもないのに、勉強を続けているんだから、「あなたはもっとえらい」と言ってあげてほしいです。
■親はどれだけ関わるべきなのか
Q、塾の授業にはついていけているが、本人任せのままで大丈夫? 親がもっとフォローすべき?
これは小学5年生の保護者の方からの質問です。本人が中学受験を希望し、5年生の9月から入塾、授業にはついていけていて、テストの振り返りなども自分でやっているようですが、どこまで本人任せでいいのか、親がもっとフォローすべきかという内容でした。
僕が思うに、今のところ授業についていけているなら、よいのではないかと思います。テストの振り返りが自分でできるというのはすごく中学受験に向いている子なんだろうと思います。おそらく、塾に入られる前からなんとなく、家庭の中で勉強の仕方というのを上手に伝えてこられたのだと思います。
このお子さんのケースの場合、ポジティブに受験勉強をされているのでよいと思うのですが、なかなか成績が取れない、授業についていけないということもありますよね。なかなか成績が上がらない時に「じゃあ、私がまだまだ関わらなきゃいけないのかしら?」というふうに、責任を感じてしまう親御さんがいるのですが、これ、世の中で言われていることとは逆のことを言ってしまうかもしれませんが、受験は親が頑張るものではないと思うのです。
あくまでも、子どもの人生を親がサポートしていくというものであって、子どもの代わりに何かをしてあげることではありません。お弁当を作ったり、成績が落ちて落ち込んでいる時に、ケーキでも買ってきて「一緒に食べようか」と励ますような、そんなサポートがいいと思うのです。まるで職場の上司のように「何が悪かったのか振り返りをしよう」なんていうことは、必要ないと思うのです。
もちろん、親が付きっきりで指導をすれば、偏差値はそれなりに上がると思います。だけれども、それにどういう意味があるんだろうなと。成績が上がったという成功体験になるかもしれないけれど、今回の相談者のお子さんのように、「自分でやっているんだ」というほうが、子どもは誇りを持てるはずですよね。
せっかく今、なんとか自力でうまくいっているところに親が手出し口出しをしてしまうと「あれ? これって自分の成績なのか、親の成績なのか分からないよね」となってくると思うのです。勉強については塾に任せて、親は気持ちに寄り添うことができていれば十分だと思います。
■「高校からではよい学校が少ない」?
Q、都立の中高一貫校も完全一貫化、“高校からではよい学校が少ない”という噂はホント?
東京においては大きな動きがありまして、都立の中高一貫校が全部で10校あるのですが、そのうちの5校は、これまで高校からの募集もしていました。ですが、このうち2022年までに4校が高校募集を停止、時期は未定としていますが、残る1校も募集を停止することを決めています。つまり、その学校に行きたい場合は中学から入るしか方法がないという状況になります。
これに加えて、豊島岡や本郷など、私立の人気校と言われるような学校も、軒並み高校募集の停止を発表しました。私立のこうした学校が高校募集を停止した背景には、都立高校の巻き返しがあります。難関大学への進学実績が上がってきているのです。私立の人気校は都立高校のトップ校の人気が上がったことで、そこと競合してしまう。高校募集で今まで取れていた学力上位層の生徒がとりにくくなったということもあり、高校受験から取るのではなく、優秀な子を中学受験で取ってしまおうという方向に向かいました。
これは首都圏だけの話しではなく、関西でもここ数年、少しそうした動きが見られます。首都圏に遅れること数年という感じで、関西でもこの動きは起きていくと思います。
実は、さらに新しい動きが最近出てきています。いわゆる中堅校と言われるような私立の完全中高一貫校が、逆に高校募集を始めるという動きです。都立高校トップ校を目指していたけれど入れなかったという子たちの受け皿として、中堅校にきてもらおうじゃないかということです。
そう考えると、中学受験をしないと高校受験で行けるところがなくなるのではという話は、そうでもないよということです。無理をして中学受験することもないんだよというのは、フェアな立場から言っておくべきことです。こうした状況も分かった上で、煽られるのではなく、冷静に判断をして、どうして中学受験をするのかということを、問い直してほしいと思います。
Q、最近はいろんな入試方式があるようですが、これってどう見たらいい?
トップの難関校ではない、偏差値表の中で言うと真ん中から下くらいにあるような学校において、入試の多様化という動きがあります。
中学入試と言うと、基本的には国語、算数、理科、社会の4教科もしくは国語、算数の2教科のテストの点数で競うというものでした。ところが、いわゆる中堅校と言われるような学校において、教科の枠を超えた、総合型というような入試が増えてきています。「思考力型入試」とか、「新型入試」などという言い方をしています。
このスタイルの入試では、国語、算数といった具合に教科で試験が分かれていません。その場でいろいろな資料などが与えられて、その場で考えて答えてねというような問い方をする入試問題が増えてきています。
■「4教科型ではない入試」のメリット
何がよいかというと、そういう入試で受かった子たちは、入学した時の自己肯定感が高くなります。要するに、単なる4教科の点数で偏差値の上位校から受けていき、落ちて入った学校の場合、「希望の学校はダメで、その次の学校もダメで、余った椅子はここか…」みたいな気持ちになる。僕はここが中学受験のよくないところだと思っています。
でも、4教科型ではなく、例えば、さきほどの資料を見て答える入試やプログラミングでやる入試、ブロックで課題解決策を表現させる入試などは、いろいろな形でその子のいいところを見ようとします。そうすると、それで入った子どもたちというのは「あ、この学校は自分の一番良いところを見てくれて、取ってくれたんだ」というように思う。すごく自信をもって学校に通えるらしいのです。これは、僕がよく提唱している「中学受験必笑法」にも繋がる考え方なのです。必勝ではなく、笑う方の「必笑」です。
こういう入試は特別な対策は不要で、その子らしさをそのまま出してくれればいいということなんです。いろいろなバリエーションの入試がありますから、どこか合う入試があれば、挑戦してみてください。
こうしたちょっと変わった入試をしている学校は大抵、入試の体験会みたいなものをしています。是非気になる学校の気になる入試があったら、そうした体験会に参加してみてほしいです。参加した時に「あ、この学校のこれやったらすごい面白かった」など、子どもが好印象を持ったとしたら、その学校と相性がよい可能性が高いです。
ただし、こうした新しい入試形式はこれまでの偏差値表に表れてきません。教科の成績とはちょっと違う角度から学力を見ているからです。偏差値表という軸で見ていたこれまでの価値観を持つ塾の先生達は、こういう入試に対しての知見は乏しいと言えます。判断に困るため、先生によってはもしかすると、そういった入試に対して後ろ向きな考えを持っている方も、この業界が長ければ長い先生ほどいるのかなと。とはいえ、子どもの前に開かれている選択肢ですから、塾の先生の意見も聞きながら、最終的には親が自信をもって判断していただきたいなと思います。
東洋経済オンライン
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最終更新:1/10(日) 13:01
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